「ちょ、俺が救世主!?」~転生商人のおかしな快進撃~

月城 友麻

文字の大きさ
41 / 193

41. 真っ黒な首輪

しおりを挟む
 俺は手が震えてしまう。

「ダ、ダメだ! すぐに探して! お願い! どっち行った?」

「だから言いましたのに……。南の方に向かいましたけど、その先はわかりませんよ」

 窓を壊す勢いで、俺はパジャマのまま空に飛び出した。寒気が全身を襲うが、それどころではない。

「くぅぅぅ……。とりあえず南門上空まで来てくれ!」

 俺は叫びながら朝の空をかっ飛ばした。

 まだ朝もや残る涼しい街の上を人目をはばからずに俺は飛んだ。風が頬を打つ。
 油断していた。まさかこんな早朝に襲いに来るとは……。
 夢に翻弄され、アバドンの警告を無視した俺を呪った。

 ドロシーを守ると誓ったのに、こんな形で裏切ってしまったのだ。その罪悪感と、ドロシーへの想いが胸の中で渦巻く。

「ドロシー、ドロシー! ゴメン、今行くよ!」

 俺は止めどなく涙がポロポロとこぼれてきて止められなかった。


        ◇


 南門まで来ると、浮かない顔をしてアバドンが浮いていた。

「悪いね、どんな幌馬車ほろばしゃだった?」

 涙を手早くぬぐい、俺は早口で聞く。

「うーん、薄汚れた良くある幌馬車ほろばしゃですねぇ、パッと見じゃわからないですよ」

 そう言って肩をすくめる。その言葉に、俺の心が沈んでいく。

 俺は必死に地上を見回すが……朝は多くの幌馬車ほろばしゃが行きかっていて、どれか全く分からない。その光景に、焦りと無力感が押し寄せる。

「じゃぁ、俺は門の外の幌馬車ほろばしゃをしらみつぶしに探す。お前は街の中をお願い!」

「わかりやした!」

 俺はかっ飛んで、南門から伸びている何本かの道を順次にめぐりながら、幌馬車ほろばしゃの荷台をのぞいていった――――。

 何台も何台も中をのぞき、時には荷物をかき分けて奥まで探した。その度に、ドロシーを見つけられない失望が胸を刺す。

 俺は慎重に漏れの無いよう、徹底的に探す――――。

 しかし……、一通り探しつくしたのにドロシーは見つからなかった。

「旦那様~、いませんよ~」

 アバドンも疲れたような声を送ってくる。

 くぅぅぅ……。

 頭を抱える俺。

 考えろ! 考えろ!

 俺は焦る気持ちを落ち着けようと何度か深呼吸をし、奴らの考えそうなことから可能性を絞ることにした。今は冷静さを取り戻すことが一番重要になのだ。

 さらわれてからずいぶん時間がたつ。もう、目的地に運ばれてしまったに違いない。

 目的地はどんなところか――――?

 廃工場とか使われてない倉庫とか、廃屋とか……人目につかないちょっと寂れたところだろう。

 俺は上空から該当しそうなところを探した。

 街の南側には麦畑が広がっている。ただ、麦畑だけではなく、ポツポツと倉庫や工場も見受けられる。悪さをするならこれらのどれかだろう。

「多分、もう下ろされて、廃工場や倉庫に連れ込まれているはずだ。幌馬車の止まっているそういう場所を探してくれない?」

 俺はアバドンに指示する。

「なるほど! わかりやした!」

 俺も上空を高速で飛びながらそれらを見ていった。

 しばらく見ていくと、幌馬車ほろばしゃが置いてあるさびれた倉庫を見つけた。いかにも怪しい。俺は静かに降り立つと中の様子をうかがう――――。

 いてくれよ……。

 心臓が高鳴るのを感じる。

「いやぁぁ! やめて――――!!」

 ドロシーの悲痛な叫びが聞こえた。俺の全身に怒りが走る。

 許さん! ただでは置かない! 俺は激しい怒りに身を焦がしながら汚れた窓から中をのぞく――――。


 ドロシーは数人の男たちに囲まれ、床に押し倒されて服を破られている所だった。バタバタと暴れる白い足を押さえられている。

「ミンチにしてやる!」

 俺はすぐに跳び出そうと思ったが、その時ドロシーの首に何かが付いているのに気が付いた。よく見ると、呪印が彫られた真っ黒な首輪……、奴隷の首輪だった。

「さ、最悪だ……」

 俺は固まってしまう。

 それは極めてマズい非人道魔道具だった。主人が『死ね!』と念じるだけで首がちぎれ飛んで死んでしまう。男どもを倒しにいっても、途中で念じられたら終わりだ。もし、強引に首輪を破壊しようとしても首は飛んでしまう。どうしたら……?

 俺は、ドロシーの白く細い首に巻き付いた禍々まがまがしい黒いベルトをにらむ。こみ上げてくる怒りにどうにかなりそうだった。

 パシーン! パシーン!

 倉庫にドロシーを打ち据える平手打ちの音が響いた。その音が、俺の心を引き裂いていく。

「黙ってろ! 殺すぞ!?」

 若い男がすごむ。その声には、残虐な喜びが滲んでいた。

「ひぐぅぅ」

 ドロシーは悲痛なうめき声を漏らす。その声に、俺の胸がキューっと締め付けられる。

「ち、畜生……」

 全身の血が煮えたぎるような怒りの中、ぎゅっと握ったこぶしの中で、爪が手のひらに食い込む。その痛みで何とか俺は正気を保っていた。

 軽率に動いてドロシーを殺されることだけは避けないとならない。ここは我慢するしかなかった。

 ギリッと奥歯が鳴る。俺は自分の無力感で気が狂いそうだった。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

処理中です...