バキュラ

lacconicksou77

文字の大きさ
2 / 2
プロローグ

しおりを挟む
「ここにいてはいけない。早く逃げるのよ」
「いやだ。そんなのできっこないよ。みんなを置いて逃げるなんて」
「いいから。お願いだからいうことを聞いて」

 大粒の涙を流し、ヒステリックに訴え続ける母マリアに、ルキアは根負けした。

「絶対に死なないでね」

 ルキアは優しく微笑んだマリアの顔を目に焼き付け、振り返り、走り出す。マリアがもう助からないことはマリアもルキアも知っていた。 

 視界が歪み、前がしっかりと見えていない。何度も転びそうになるが、体制を立て直して走り出す。
 やがて「永久結路」と呼ばれる地下通路の前に辿り着く。村と村を繋ぐ秘密の地下通路だ。今日のような日のために作られ、秘密の通路の存在はルキア達のいる村の住人と秘密の通路の出口にある村人達しか知らない。 

 ルキアは一見、地面としか見えない隠し扉の引き手を探り当て、扉を開いた。暗い道が永遠のように続いている。 

 ーーその時だった。

 轟音と共に火煙が村に立ち登ったかと思うと、村人の叫ぶ声が轟音に負けないくらいに響いた。
 ルキアは下唇を噛み、必死で悔しさを堪える。声が聞こえた方角を見ないようにして、地下通路へ入り、扉を閉じた。
 地下道へと続く階段の途中でルキアは膝から崩れ落ちる。

 こんな理不尽が許されていいのか。

 自分にもっと力があれば。こんな国でなければ。この国の王が、あのバキュラとい悪魔でなければ。家族と共に平穏な日々をずっと過ごせていたのに。 

 憎い。憎い。憎い。

 自分の無力さも。理不尽な王も。この世界も。全てが憎い。

 ルキアは大声を出して泣き喚く。だが、広い地下通路でその声を聞いている者はいない。何度も地面を手で殴りつける。腫れ上がり血で赤く染まった自分の拳を見て、ルキアは誓った。

 バキュラよ。いつの日か必ず、復讐を果たす。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

続・冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。 の続編です。 アンドリューもそこそこ頑張るけど、続編で苦労するのはその息子かな? 辺境から結局建国することになったので、事務処理ハンパねぇー‼ってのを息子に押しつける俺です。楽隠居を決め込むつもりだったのになぁ。

処理中です...