鬼畜師匠の弟子にされたんだが-不遇な男の成り上がりー

ハト

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「すいません、見苦しいものを見せてしまって」

「構わん、お前にも色々あったのだろう。俺がそれに口出す権利はない。そこに手を触れてしまったら今までのお前の人生の誇りを汚してしまう。その感情はお前だけが持っていろ。そして、それを糧にこれからの人生を進め」

あぁ、この人はちゃんと一人の人間として俺を見てくれてるんだな。会って時間もそんなに経っていないがこの人は尊敬に値する人だと直感で理解した。我が身を顧みず俺を助けたことも含めて、本当にこの人には感謝してもしきれない。

そんな人の頼みを断るだなんて言語道断。だから、俺がここで返す言葉はひとつ。

「これからよろしくお願いします、師匠」

あらゆる意味を込めた師匠という言葉。彼なら、こんな容易い言葉の裏など息を吸うかの如くわかってしまうだろうが、あえて口に出さないのが美徳。日本人とはそういうものだろう。

「よし、零。今からお前は俺の弟子だが、現状お前に足らないものわかるか?」

「……師匠に比べたらありすぎて困るんですが」

実力については勝てる気がしないし、洞察力、知識、そして人間力。どれをとっても一流であろう。
はてはて、これからこの人の下でやっていけるのだろうか。

「正解だ。今のお前に足らないものは、全部だ。知識、実力、情報、そしてこの世界の理解。お前はまだ、この世界の理解に対して足元にすら及んでいない。それをこれからお前に叩き込むわけだが…」

「どうかしたんですか?」

「お前に修行を施す上で大切なことがあってな」

「それはいったい?」

「零、人が成長する時はどんな時だと思う?あらゆる面においてこれがあると成長すると思うことはなんだ」

「えー、根性?」

「残念、不正解だ。正解は……」

「---------っっっ!!」

全身を包むような殺気に思わずその発生源から距離をとる。一瞬でもその場にとどまっていたなら俺はどうなっていただろう。想像したくない事態になっていたことは明白だ。

そして、あの殺気。つい先日この身で経験したものと遜色ない、いや、それ以上の殺気を放っている。もしかすると、この人は俺が思っていた以上に化け物かもしれない。この那由多という男は。

「その危険に対する反応は良い。あと1秒でもその場にとどまっていたなら永遠の眠りについてもらっていたからな。それで、答えはわかったか?修行をする上で大切なこととは」

「はぁはぁ、それは……根性なんかじゃ生温い。死ぬ気。生きるか死ぬかの瀬戸際を感じることですか?」

「正解だ。そう、死なないことを想定した訓練などやる必要はない。ただの時間の無駄だ。確かに格下の連中と対峙するのは無駄ではない。それは自分に自信つけるためだ。だが、行き過ぎた自信は自らを滅ぼす。だから時には挑戦しなければ前に進めない。前進しないやつはただのクズだ、覚えとけ」

そうだ、俺に足らなかったのは覚悟。日々、死ぬことからの恐怖が俺を蝕むことは無かった。その結果俺は成長しなかったのかもしれない。もっとそのことに早く気づけていたのなら俺の人生は変わっていたのかもしれない。だけど、そんな理想論は今の俺には必要ない。それは俺の成長する糧にはならない。ただの障害だ。

「じゃあ、これからの修行は死ぬかもしれないことを覚悟しないといけませんね」

強くなることこそが俺を助けてくれた師匠への唯一の恩返し。そのためには覚悟を決める。どんな困難な道でも我が道を歩むと。

それに、俺自身強くなってみたいという気持ちも無きにしも非ず。自分自身で成長を実感できなくなってから俺の人生に影が差した。晴れることの無い曇天に俺は縛られてしまった。

だが、俺は出来るかもしれない。もっと強くなってあいつらに復讐するために。

「それじゃあ最初にお前の固定概念を粉々に潰していこうか」

「固定概念?」

「そう、お前と言うよりはこの世界の仕組みをほとんどの奴らが知らない。その例として1つ。零、スキルの習熟度の最高はどれくらいだ?」

「えっと、スキルの習熟度は100です。80を超えればそれなりの達人とみんなに認識されます」

俺の一般知識は間違ってないはずだ。だがなんだ、この違和感。師匠と相対すると俺の知ってる知識に自信を預けられない。

「それが、間違いだ。この世界の人々はスキルの習熟度の最大が100と思っているが実はそこが最大ではない」

「えっ、じゃあ最大は」

「無い」

「そんな!過去の先人たちがどれだけ偉大な功績を挙げても100を超えた逸話は聞いたことがない。まさか、上限がないなんて……」

今まで積み上げてきた俺の中での知識が崩れる音がする。まさか、当たり前だと思っていた物の根底から覆されるとは。この調子では俺の知識など正確なものは下から数えた方が早そうだ。

「たしかに、100の壁は超えづらい。その条件を知らないと超えることが出来ないからな」

「いったい、その条件って……」

誰も超えることの出来なかった壁とはどんな条件を要求するのだろうか。皆目見当もつかない。そしてなぜそのことを師匠が知っているのだろうか。
この世界で産まれた訳ではなく生まれた彼が。

いや、だからこそなのか?外から来たことでこの世界を俯瞰することが出来たとしたら?俺はこの世界で1から知識を詰め込んでいった。だが、師匠はそれを0からスタートしている。

そこがこの問題の鍵になるのだろうか。

「その条件は……」











「…………………………」

唾を飲む音がひどく反響するかのように思える。辺りの時間が止まり世界を認識しているのが俺たちだけなのかという錯覚を起こしそうだ。











「………………神の存在を知ることだ」
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