水と言霊と

みぃうめ

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第35話    side亜門③

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 じぃちゃんは隊のかなりのお偉いさんだった。
 上から何本指をおれば数えられるか、くらいの地位にいる。


 じぃちゃんには大反対された。
 戦場に行きたいなんて、そんなのは馬鹿のすることだと。
 戦争に行って生きて帰ってこれりゃまだマシ。
 もし帰って来られても、健康な身体じゃないかもしれないし、マトモな神経ではいられなくなる。と。

 だけど俺はどうしても行きたかった。
 俺が死ぬわけがない。
 規則に縛られて動けないなんてクソ喰らえだ!

「そんなに行きたいと言うなら、俺の権限で口利きくらいならしてやれる。米軍に入れてやる。下の方からになるがな。本当に良いんだな。後悔しないか?」

じぃちゃんの顔は歪んでいた。

「しない!じぃちゃんありがとう。」





 そうして米軍に入り地獄と言われる訓練を受け、見る間に実力が上がっていった。

 やはり実力主義は違う。
 早く戦争に行って活躍したい!

 そう思っていた……




 俺は現場で現実を突きつけられた。
 俺はただのお山の大将に過ぎなかったのだ。

 昨日笑い合っていた友が今日は物言わぬ肉片になっている。
 腕がなくなり脚がなくなる友や同僚達。
 抵抗していない人間の射殺。
 被弾で死ななかった者を、弾が勿体無いと傷口を踏み付け出血を加速させ、死なせたこともある。
 女子供も区別せず行うそれはまさに地獄。
 まともな精神では生きていることさえ難しい。


 日本には退役軍人なんて言葉は存在しない。
 あるとすれば退職自衛官。日本でのそれはただの仕事を辞めたやつだ。戦争のない国での自衛官は永久就職と同じこと。

 ほとんどの退役軍人は負傷や心的外傷によるものだ。


 じぃちゃんの言っていたことがようやくわかる。
 ごめんじぃちゃん、あんなに止めてくれたのに。
 俺、ちっともわかってなかった。





 結局、心も身体も限界に近かった頃

「お前はよくやった。もういいだろう。帰ってこい。ばぁちゃんも待ってるぞ。」

 大きな戦争が始まりそうな、国と国との一触即発な流れを読み、じぃちゃんが迎えに来てくれた。

 じぃちゃんの顔を見て、許されたような気がした。


 退役し、日本での穏やかな生活をするはずだった。
 が、それはできなかった。
 俺はとっくに壊れていた。
 夜になると魘され悪夢を見て眠れなくなり、起きている時は突然のフラッシュバックに悩まされ、やがてじぃちゃんもばぁちゃんも信用できなくなっていった。

 じぃちゃんが懇意にしている精神科の先生の元、治療を続け、やっとまともに生活ができるようになるまで5年かかった。
 たった5年の従軍から、ギリギリまともな生活をするまでに5年。
 しかも怪我とは違い治らない。心の病だから。


 PTSDとは一生付き合って行かなくてはならないのだ。













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