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第66話 自己紹介 鈴木修
しおりを挟む「まぁ、どこに行っても力の強い物が力の弱い者を守るってことなんじゃない?自然界では弱いモノは淘汰されるけどさ、それによって進化できるんだし、悪いことばかりでもないんじゃない?俺ら人間だけは進化っつーより退化してる感はあるけどなぁ。」
カオリンとの話の区切りがついたらあっくんが意見を言った。
「そうね、人間は利便性と探究心の生き物だから仕方ない部分はあるかもしれないけれど、進化の促進は“死”っていう言葉もあるくらいだから、退化していくっていうのはあながち間違ってないかもしれないわね。」
「カオリンが哲学者みたいなこと言ってる!カッコいい!」
「しーちゃん俺は!?」
「2人ともカッコいいよ!」
「ふふっ、私も探究者だから退化を促進している人間かもよ?」
「もしそうだとしても、自分の進む道、目指す道に突き進むカオリンはカッコいいからいいの!」
「あらあら。」
そう言うカオリンは、出た言葉とは裏腹にどこか嬉しそうだ。
「それはそうとさ、香織さんみたいに、話してみるとどんな事してたのか、ここでその地球の知識は役立つのか、今後に役立つような情報を得られる人なのか、協力的なのか非協力的なのか、何もわかってないよな?知ってて損はないんじゃない?」
「そうだね。そういえばろくにみんなの情報知らないや。異世界人は元から信用する気もないし、できれば地球の人達とは仲良くとはいかなくても仲違いはせずにいたいなぁ。」
私は地球に帰るんだ!少しでも情報は欲しい!
「みんな!今更の今更だけど!改めて自己紹介しませんか?情報交換しましょう!よろしくお願いします!」
部屋の中にいる全員に聞こえるように大声で呼びかけた。
誰かしらの不参加があるかと思っていたけれど、なんと全員参加してくれた。
みんなで大きな円になって床に座り込む。
と言っても
「紫愛ちゃんの自己紹介は全員聞いてるからしなくても大丈夫よ。」
「そうだよしーちゃん。みんなわかってるからね。」
カオリンとあっくんに笑顔の圧力(目は笑っていない)をかけられ私の自己紹介は割愛された。
そして目が覚めた順番に自己紹介をしていくことになった。
「鈴木修です。59歳、研究者ですが大学教授もしています。専攻は物理学、さらに細かく言えば量子力学についてが専門です。ですがその他にも物理学には様々分野があり、ほぼ全てについて学んでいます。」
これはもしや即戦力では?地球に帰る手段が早く見つかるかも!なんでも聞いてみないと!
「はい!質問良いですか?」
「紫愛ちゃん、どうぞ。」
「シューさんは確かやりたいことがあるって言ってたよね?それって何?」
「僕はね、物理学についての研究者だけど、研究しているとあれもこれも知りたくなってしまう質でね。いつもついつい研究の幅を広げ過ぎて全く時間が足りないんだよ。だからね、行き着くところに行き着いたんだ。寿命を延ばせないか。とね。」
だから私とあっくんが若返ったことにあんなに興奮してたんだ!
「地球でのその研究はうまくいってたの?」
「いいや、とてもうまくいっていたとは言えないね。紫愛ちゃんは、どうやったら寿命が延ばせると思う?」
「うーん、よく寝てよく食べて程良く運動する。」
「うん、間違ってないと思うよ。でもそれは健康寿命を延ばすという意味合いだね。僕が目指すのはそこじゃないんだ。研究をするのが目的だからね。若い細胞が必要なんだよ。健康寿命が伸びても老いは避けられない。若々しい細胞のままではいられない。老いた脳では僕が思う研究についてこられなくなる。人間は細胞の塊だね。細胞というのは分裂していくんだ。分裂して、常に新しい細胞に置き換わって人間は維持されている。だから怪我をしても治るよね。ただ、分裂には限界があるんだ。分裂が出来なくなればやがてその細胞は死んでいくだけだろう?それが人の死だ。では分裂回数を増やせれば、分裂のスピードを遅くさせれば…どうだい?」
物理学者ってこんなに生物のことに詳しいの!?
「それは知ってる!それができるんなら不老不死も夢じゃないかも!」
「その通り。そして人間の細胞の中で生殖系列細胞のみが無限に複製することができるんだ。ここに着目してかなり前から分裂に限界を無くそうという研究もされているけれど、うまくいかない。人間の病気に癌というものがあるね。あれは細胞が分裂をする時に起こるコピーミス。それを抑えるために細胞分裂には限界が存在するのでは?との見方もあるんだ。と、すると、肉体はやがては朽ちる。形ある物には限界があるとすぐに気がついたんだ。そこで、僕は四次元にいきたいと思ったんだ。」
「四次元?」
あれ?これどこかで聞いたことある話だぞ?
「四次元とは、時間軸がなくなるのでは?と言われています。」
「時間軸?」
「一次元は横方向二次元は縦と横方向三次元は縦と横と高さ方向。この三次元が我々が生きている空間ですね。では四次元になると?縦横高さ+αになります。そのαが時間ではないかと言われているんです。これを四次元時空と言いますね。」
思い出した!マッキーの話にあったんだ!
それをより詳しく説明してくれてるんだ!
でも四次元が寿命と何の関係があるの?
「………つまり?」
「つまり、時間の概念がなくなるということです。時間の概念が無ければ過去も未来も関係ない。」
「過去に戻れるってこと!!??」
ここに連れて来られる前に戻りたい!
「タイムトラベルのようなことは可能だと言われていますね。ですが仮に過去に戻れたとして、過去をやり直したら?過去に戻ったが故に、未来が変わりタイムトラベル自体なかったことになるのでは?つまり、過去は変えられないとなるのです。でも、見ることならできるでしょう?」
「あったまグチャグチャでよくわからなくなってきたんだけど。」
麗が片手で頭を抑えている。
私も頭を掻きむしりたい!難しいよ!
これ、マッキーが昔言ってたことだよね?
昔はマッキーのマシンガントークの一節だったから聞き流してたけど、マッキーこれ理解して説明してくれてたの?まだマッキーの説明のがわかりやすかった気がするよ!
「まぁ、結局僕が何を言いたいかといいますと、肉体を捨て時間に縛られることなく研究をしたいと、こういうことです。」
「………肉体を、捨てる?」
「そうです。肉体がなければ寿命がない、寿命がなければ死は有り得ない。食事も睡眠も、何もかもが必要ないのです。」
思った以上にとんでもない話だった。
肉体を捨てるのに死なないの???
四次元の話がどこをどう繋がって肉体を捨てるって話になったの?
もはや意味不明だ。
ん?あれ?これ、なんかのアニメで似たようなこと言ってた気がするけど…
あっっっ!
エ○ァンゲリ○ンの人類補完○画の1人バージョンじゃない!?
シューさんは、人類を1つにするとは言ってない。というより、1つになるなんて御免被るというタイプだ。でも、肉体という枠がなくなれば自然とその境界はどんどん曖昧になるから最終的に肉体を捨てたモノは1つになっちゃう気もする。
でも、それより何より、肉体を失えば執着がなくなるのでは?
私が思う“生きる”ということは、イコール執着だと思っている。
だから、食べたい眠りたい勉強がしたい一緒にいたい好きだ嫌いだ死にたくないと様々な気持ちが生まれるんだ。
個々で様々な気持ちが生まれるから、分かり合いたいと、分かち合いたいという気持ちも生まれる。
不完全だからこそ、そこに知恵が生まれ探究心が生まれる。不完全であるからこその足掻きであり歪さであり、美しさでもある。
全てが執着であり、肉体があればこそ。
最初こそ“研究し続けたい”の気持ちがあれども……そこに辿り着けばその気持ちも徐々に失われるのでは?
それとも、私の考え方の方が異常?
まぁ、私を巻き込んで何かやるとかでなければ好きにしてくれればいいけど。
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