水と言霊と

みぃうめ

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第123話    異臭騒ぎ②

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 私の騒ぐ声が聞こえたんだろう。
 あっくんが部屋から飛び出してきた。

「しーちゃん!?どうしたの!?」

 私はそれどころではない。
 吐き気もしてるし
 何より近付かれたくない!!!

「いやっ!!!私に近づかないで!!」
「しーちゃん!?どうして!!??」
「嫌なのっ!!!私今臭いの!!!絶対近付かないで!!」
「へ?しーちゃんは臭くなんかないよ?」
「臭いの!それ以上寄らないでってば!!」
「何騒いでんのぉ?」

 優汰の姿と共に間延びした声が聞こえてきた。
 優汰はキョロキョロ辺りを見回し

「なんか臭くない!?」

 と言った。

 だから臭いって言ってるでしょ!!
 それは私の匂い!
 いや違う!断じて違う!!!
 それは臭い石鹸の香りだ!

「ねぇ、もしかして紫愛ちゃんの匂い?」
「違わないけど違う!!!石鹸が臭かったの!!その後の香油も激臭だったの!!」
「ぎゃははははは!紫愛ちゃんが臭いわけぇ!?風呂入ってそれかよ!」

 と笑い転げている。

 私は悪臭による吐き気と臭いと言われたショックで俯き立ちすくむ。
 後から追いかけてきたカオリンが私の後ろにそっと立ち、私の背中を優しく撫でる。

「紫愛ちゃん、大丈夫よ。なんとかなるからいらっしゃい。」
「…………ぅわぁーんカオリーン!」

 半泣き状態の私の頭も優しく撫でてくれる。
 大人しくカオリンの部屋へ連れて行かれる後ろから「てめぇ覚悟はできてんだろうな?」と、地を這うようなあっくんの低い声と「ヒィィーーー!」と叫ぶ優汰の声が響き渡っていた。



 部屋に戻るとカオリンに

「この香油の中で好ましい香りはあったかしら?」

 と聞かれるが、首を横に振る。

「全部臭い!ニオイが強過ぎてなんの匂いかもわからなかった!それに………なんか肌がピリピリしてきて痒い。」
「多分、石鹸の洗浄力が強過ぎるのよ。この香油を身体中に塗って、もう1度シャワーを浴びていらっしゃい。香油をお湯で洗い流すの。そうしたらかなり匂いも軽減されるから、ふんわり香る程度になるはずよ。」

 あの激臭香油を塗れと!?

「無理かも…あんなのまた嗅いだら吐く。」
「口元に布を巻いて、口で息をして。今の何もしないままだと、肌が乾燥して身体中を掻きむしってしまうわ。」
「………お湯で本当に匂い薄まる?」
「ええ、薄まるから大丈夫よ。沢山お湯をかけてきてね。」
「一瞬しかお湯出ない…」
「それじゃあ何回もやってきて。」
「………………わかった。」

 渋々またシャワー室へ。
 口を布で覆おうが口で息をしようが臭い!
 嗚咽をもらしながら身体中に香油を塗りシャワー室のボタンを連打する。

 多分100回以上は連打しただろう。
 もういいかなと鼻で息をしてみる。
 ………駄目だ、鼻がバカになっていて何も感じない。
 慣れてしまったんなら、もういいだろう。

 もう1度濡れた髪をワシャワシャ拭き、着替えてカオリン達の元へ。

「カオリン、もう鼻が使い物にならない。匂いがわかんない。どう?匂い薄まった?」
「この部屋も匂いが充満しているから私もわからないわ。麗ちゃんはどう?」
「私ももうわかんない。」
「川端君に部屋の外に来てもらいましょう?」
「まさかあっくんに匂い嗅がせるの!?やだ!優汰みたいに臭いって言われたらもう立ち直れない!」

 カオリンは私に近付き、そっと寄り添ってくれる。

「大丈夫よ。川端君は絶対そんなこと言わないし、このまま匂いが強いままだと紫愛ちゃんも気分が悪くなってきちゃうかもしれないわ。」
「でも……」

 躊躇ためらう私に麗がキレる。

「グダグダ言ってんじゃないわよ!紫愛の匂いでみんなが食事もとれなかったらそれこそ問題でしょ!?」

 うっ……それを言われると辛い。

「絶対大丈夫よ。ね?川端君を呼んでくるから。」

 そう言ってカオリンは部屋から出て行った。



 ※

「川端君、ちょっといい……何してるの?」
「優汰という名の駄犬の躾をしていました。ご主人様に臭いと言うなど!臭いのはテメェだろ!!ましてや女性だぞ!?女性を泣かせるなど言語道断!ここまで愚かだと躾のし甲斐がある。」

 優汰君は失神していた…
 あれは確かに優汰君が悪いけれど、失神するほど優汰君に何をしたのかしら?
 あとからフォローしないといけないのかしらねぇ…

「紫愛ちゃんが香油を塗ってそれを洗い流したんだけれどね、私達はみんな匂いが強い部屋に居たから、香油の匂いが薄まったかわからないのよ。だから紫愛ちゃんの匂いを嗅いでもらおうと思ったの。絶対臭いなんて言わないように釘を刺しに来たんだけれど…その様子なら大丈夫ね。」
「俺がしーちゃんの匂いをっ!?でも……しーちゃんは嫌がりませんか?」

 喜んだり悲しんだり忙しい子ね。

「嫌がっているのは臭いと言われることよ。優汰君に臭いと言われたのが相当ショックだったみたいだわ。」
「コイツ本当に許さねぇ!!!」

 また怒りだしたけれど、今はそんなことはどうでも良いのよ?

「冗談っぽく言ってたから大丈夫よ。あまりやり過ぎてはいけないわ。それとね、ここのモノは青くなるようにわざと染料みたいな物を混ぜ込んで作ってあるわ。化粧水のような物があったから、手に出してみたのよ。瓶が青いのかと思ったけれど、化粧水自体も青かった。ここの物は私達の身体に合わない可能性があるわ。」

 やっと怒りが収まったわ。
 これなら私の話したいことが言えるわね。

「紫愛ちゃんは、石鹸を使ってすぐに皮膚に痛みと痒みが出てきたの。私の見立てでは洗浄力が高過ぎて、皮脂を過剰に取り去ってしまっているからだと思うわ。化粧品は青か白の物しか置いていなかった。貴族は全員肌が青いと言っていたわね?肌の青さこそ貴族。それが何よりの証明。ならば、皮膚をより青くしようと染める方向に向かうのは簡単に想像がつく。下手をすると……私達の肌も自分達に寄せようと、わざと染料が強い物を置いている可能性もある。となると、ここの物は怖くて使えない。でも石鹸すらないとなるとそれはそれで困るわ。石鹸くらいならすぐに作れるし、私が作り方も知っているから作るのに協力してほしいの。」
「わかりました。俺は何をすればいいですか?」

 紫愛ちゃんに害があるとなると話が早いわ。

「とりあえず、材料の確保ね。洗浄力が強い物で髪を洗うとバサバサになってしまうわ。そんな物で髪を洗えば当然頭皮も痛みと痒みが出てしまう。だから髪の毛は当分の間卵で洗おうと思っているの。でもそのためには卵白を泡立てないといけないのだけれど、そんな事を毎日できないからそれを川端君にはお願いしたいわ。」
「力仕事ってことですね。わかりました。ですが卵で頭皮が綺麗になるんですか?」
「卵白は皮脂を吸着するの。泡立てるのは、より頭皮に届きやすくするのと、髪自体にも留めやすくするため。ただ、匂いが気になるのよね。ここにある香油も凄い匂いだったから、できれば香油も作りたいわ。ただ、材料がどこまで手に入れられるかの問題はあるわ。」

 川端君は軽く舌打ちをして

「どんどん余分なことに時間が取られるな。」

 と独り言とも取れるような呟きを溢す。

「仕方ないわ。紫愛ちゃんのためだと思って頑張ってちょうだい。」
「それはもちろん頑張ります!」
「それなら結構。じゃあ紫愛ちゃんの所に戻るわよ。」
「わかりました。」



 ※

「紫愛ちゃん!川端君を連れてきたから出ていらっしゃい。」
「ほら!香織さんが呼んでるからさっさと行きなさいよ!」

 麗に押され部屋の外へ出てしまった。

「……………あっくん、私臭くない?」

 あっくんの顔は見れない。

「うーん、何も匂いしないけど…もっと近づいてもいい?」

 嫌だと叫んで逃げたい!

「紫愛ちゃん、私も少し外にいて鼻が戻ってきたけど、大丈夫そうよ?」
「本当?」
「俺、これからずっとしーちゃんに近づけないなんて嫌だよ。ちゃんと確認させてほしい。しーちゃんだって、ずっと臭いかもと思いながら過ごすのは嫌でしょう?」
「それは…確かに嫌すぎる!」
「ね?」

 そう言い、少しずつ近づいてくるあっくん。
 身体に力が入ってしまう。
 あっくんはもう目の前だ。

「もしかして、香油かなり洗い流した?」
「え?…うん、100回以上ボタン押したと思う。」
「ほのかに良い香りがするくらいで、ちっとも臭くないよ?」
「ほんと!?」
「うん。香織さんもしーちゃんに近付いてみてください。」
「あら本当ね。紫愛ちゃんから良い匂いがするわ。」
「良かったぁー。でも、シャワーの度にこれだと…」
「それは大丈夫。石鹸なら簡単な材料で作れるから手作りするわ。紫愛ちゃんだけじゃなくて、地球の全員がここの石鹸は合わないもの。髪の毛は卵白を泡立てて洗うと汚れが取れるのよ。問題は香油のような保湿剤ね。これに関しては色々材料が必要だから、探していくしかないわね。」

 博識にも程がある!

「カオリンは何でそんなに色々知ってるの?」
「私は考古学者なのよ?現地に行って調査が長引いたりしたら、持ち込んだ物は使えば当然無くなるし、取り寄せなんておいそれとできないの。現地の物で工夫するのが当たり前なのよ。それがこんな形で役に立つとは思っていなかったけれど、怪我の功名だわね。ふふっ。」

 美の女神降臨!!!














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