水と言霊と

みぃうめ

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第135話    食事事情

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 暫く待ち、メイドがカートに色々載せて運んできた。

 私達は部屋の外の広いフロアにいる。
 1部屋に全員が集合するとかなり手狭になるため、食事はフロアでとろうとなり、大きめの机と人数分の椅子は新たに用意してもらった。

 メイドが、まずお茶らしき物をカップに注ごうとポットの蓋を開けると、カップに注ぐ前から青臭い匂いが漂ってきた。

 みんなの表情を伺うけど、誰も何の反応もしていなかった。私だけ感じてる!?
 それなら文句は言えない。
 人一倍嗅覚が鋭い自覚はあるんだから我慢だ。

 カップがそれぞれの人の前に配膳される。
 カップの中身を見て、納得した。
 見た目も匂いも青汁にしか思えない。

「ちょっと!!これなんなのよ!すっごい臭いんだけど!!」

 麗が怒鳴る。

「これはティーツリーというお茶になります。」
「はぁ?これがお茶!?紅茶にしてよ!!」
「コウチャ…で、ございますか?」
「紅茶ないの!?じゃあ珈琲でいい!」
「コゥヒィ??」
「まさかそれもないわけ!?どーなってんのよ!!」

 麗とメイドのやり取りを聞いていたけど、この青汁がお茶とは到底思えない。
 怒鳴る麗の横ではカオリンが興奮しながら

「ねぇ!ティーツリーって化粧品に使う物よね!?」

 と、メイドに質問していた。

「いいえ。化粧品には使いません。」

 とメイドは言う。

「じゃあティーツリーって何?」

 優汰が口を挟む。

「ティーツリーというハーブがございます。お菓子と召し上がるのが一般的なのでお持ちしました。」
「それ、どんな植物?」
「どんな……葉の裏が白っぽい背の低い木のような植物です。」
「それ、ヨモギじゃない?成長すると木っぽくなるし。葉っぱってこんな風に生えてない?」

 優汰が手の平でヨモギの葉の生え方を説明しているけど、植物ってみんなそういうふうに生えてるんじゃないの!?

「…はい。おそらくそれだと思います。」
「ふーん、で?それをどうしたらこのお茶?になるの?」
「刻んで煮出した物がこちらになります。」
「…生のまま刻んで煮出したの?」
「はい。」
「アク抜きもせずにそのまま?」
「はい。」
「それ、一般的な飲み物なの?」
「はい。だいたいお菓子の時と一緒に飲まれておりますが、普段から飲まれる方もいらっしゃいます。」
「ちょっと優汰!これ何なのかわかったの!?」

 麗が今度は優汰に怒鳴る。

「うん。多分これヨモギだよ。」
「ヨモギって何よ!!」
「知らない?ヨモギ団子とかに使われてるやつ。」
「知らないわよ!」
「あらぁ、これヨモギなのね。私は知ってるわ。ヨモギ団子美味しいわよね。」
「私も知ってる。」
「俺も知ってはいるけど、お茶として飲むのは正解なのか?」
「まぁ、毒ではないよ。」
「じゃあ飲んでも平気なの!?これはお茶なの!?」
「いんや、これはただの草汁くさじる。」
「ふざけんじゃないわよ!そんな物飲めるわけないでしょ!!」

 優汰が草汁と言ったのをきっかけにまた麗が怒鳴りだした。
 でも仕方ないと思う。
 優汰の言い方が悪いのかもしれないけど、さすがに“草汁”と言われて飲む気にはなれない。

「もういい。ミルクだ。ミルク持ってこい!」

 あっくんがお茶を諦めミルクの要求をする。
 そうだよ!お菓子ならミルクだよね!

「みるく…でございますか?」

 何よ!ミルクも通じないの!?

 あっくんも何を言っても通じない事に嫌気がさした様子で、呆れ返って溜息混じりに喋る。

「はぁーー。牛の乳だよ。」
「あの…本当にそんな物を飲むのですか?」
「ああ。煮沸してから冷やして持ってこい。」
「あの…用意がございませんので、お時間がかかってしまいますが、よろしいでしょうか?」
「ああ。待つから早く持ってこい。」
「畏まりました。」

 メイドは慌てて出て行った。


「ねぇラルフ。これ、本当に一般的な飲み物なの?」

 私は目の前に出された草汁を指差しながら聞く。

「はい。ごく一般的な物です。」
「美味しいの?」
「お茶とはこういう物という認識しかございません。身体に良いとされています。身体に良い物とは大抵苦いでしょう?」
「じゃあこれ苦いって認識でしょ?」
「はい。ですが、そういう物なので。」
「あっくん、私は味覚障害があるから酸っぱいと苦いしか感じないんだけど、それって普通の人に耐えられるものなの?」
「ちょっと待って!!しーちゃん味感じてないの!?」
「ちょっと紫愛!最初の頃肉美味しいって言ってなかった?」
「そうだよ!俺も聞いたよ!?」
「柔らかくてジューシーで美味しいと思ったんだけど、最初だけだった。記憶戻ってからはほとんど感じてない。」
「何で言わなかったの!?」
「酷かった時は酸味も苦味もほとんど感じられなくて、その頃よりはマシだったから。言うほどのことじゃないと思った。」

 それに、何食べても味がしないなんて言ったらみんなを不快にさせちゃうじゃないか。

「何言ってんの!?ちゃんと教えてくれなきゃ駄目だよ!毒がわからないかもしれないでしょ!」

 あっくんはとても怒っている。
 そんなに怒らなくても良くないかい?

「毒なんて大抵苦いんじゃないの?酸味と苦味は感じてるよ?」
「どの程度感じてるのかもわからないんでしょ!?」
「多分味覚がまともだったことがないから正常がどの程度かもわからない。あっ!そうか!ラルフの言ってること理解した。」
「紫愛ちゃん?何を理解したの?」

 カオリンに首を傾げながら聞かれる。

「働きだしてから、親方に指摘されて病院連れて行かれるまで味覚障害だったことをわかってなかったの。それまで食事は、生きるための物でそれ以上でもそれ以下でもなかったから、酸味と苦味しか感じてなくてもそういう物だとしか思ってなかったの。ラルフも今言ってたでしょ?“そういう物”だって。お茶がそれしかないならそういう物だと思っても不思議じゃないなって。」

 その場の全員が顔色を悪くした。
 何で??それが当たり前なら“そういう物”っていう感想しか出てこないよ?

「じゃあ何で紫愛はお菓子食べたいって言ったわけ?味わからないんでしょ?」

 と、麗が聞いてくる。

「甘みを感じたら今の自分の味覚がどの程度なのか判別できるかと思って。」
「じゃあ野菜は?紫愛ちゃんも不味いと思ってたんだよね?」

 優汰は本当に野菜のことしか聞いてこないな。

「うん。見たこともない野菜ばっかだし、瑞々しさもなけりゃ甘味も何も無く苦いだけだから不味いなって。でも味覚がおかしいんだから、野菜の遠い甘味なんて感じなくて普通かと思ったから。」
「いいや、それに関しては紫愛ちゃんの言う通り。甘味も瑞々しさも何も無いよ。だから俺もクソ不味いって言ったんだよ。スープに入ってる野菜なんて何かすら判別できない。俺は美味い野菜作ってた側だからね。こんなの我慢できるわけないよ!」
「俺はサラダに関してはケールっぽいなと思ってたんだけど、違うのか?」
「川端さんの言う通り、サラダの葉っぱは多分ケール。だけど、原種だと思うからひたすら苦いし不味い。品種改良とかここにはないと思う。だからクソ不味いんだよ!!!あーーー畑行きたいっ!美味い野菜作りたい!」

 優汰、心の叫びである。


「ねぇ!優汰なら作れるの!?白い箱の中にいた時メイドに聞いてみたんだけど、私達に運ばれてるのは最高級品ばかりだって言われたの!だからずっと我慢して言えなかったけど、ここの食べ物全部不味すぎる!!」
「俺もそれは思ってたけどさぁ、みんな目が覚めてから美味い美味いって食うじゃん?だから不味いって言えなかったんだよ。野菜は我慢できなかったから不味いって言ったけどさぁ。」

 ここで麗がカオリンにも感想を聞いた。

「香織さんは今までどう思ってたの??」
「私はねぇ、あまり気にしていなかったわ。現地に行くと食事なんて酷い物が多かったの。虫とか出されるのも結構日常だったし。日本の食事のレベルが高すぎるのもあるから、それを求めても無駄だとは思っていたわ。」

 麗はカオリンからは同意が得られないと思ったのか、今度はあっくんに矛先を向ける。

「じゃあ川端さんは!?」
「そうだなぁ……俺も戦争行ってた時は食べれる物は何でも食うのが当たり前だったからなぁ。ここの肉も、ジビエだろ?それならこの味も、まぁ、普通だろ?」

 あっくんからの同意も得られなかった麗は、不貞腐れ気味に金谷さんに質問した。

「じゃあ豪は?」
「俺は美味しくないとは思ってた。」

 ゴウって誰かと思った!
 焦った!
 金谷さんのことか。

「そういやぁジビエだと思ってたけど、いつも食ってる肉って何の肉なんだろうな。」
「あの……皆様がいつも食べている肉は牛肉です。」

 ラルフが後ろから教えてくれる。

「はぁ?これが?そんなわけねーだろ?」
「流石に牛肉と言われても信じられないわ。」

 あっくんもカオリンも牛だと認めない。

「いいえ。牛肉です。肉の最高級品は牛肉ですから。それ以外が出されるとは思えません。」
「嘘だろ!?この獣臭いのが牛肉!?猪か鹿か何かだと思ってたぞ!?」
「メイドの言う通り、皆様に運ばれている物は全て最高級品ですが……そんなにも不味いのですか?」
「不味いな。」
「私達でも滅多に食べられないような物も沢山あります。」
「じゃあラルフはいつも俺達が食ってる食事を見て羨ましいと思ってたってことか?」
「そこまでは思いませんが、豪華だなとは思っていました。」
「美味そうだなと思うか?」
「それは……はい。」
「信じらんない!全部不味いっての!!」
「辻井様、私には構いませんが他の護衛もおりますのでそのくらいで「不味い物は不味いのよ!!」
「麗、これはしょうがないさ。日本人てのは食に飽くなき探究心を注ぐ民族だ。日本にいりゃあ食べられない物はないくらいなんだ。それをここで求めても何ともならねぇ。」

 あっくんは麗をいさめた。
 麗は怒りの行き場を失い、再び優汰に怒鳴る。

「優汰!!あんたなんとかしなさいよ!美味しい野菜作れるんでしょ!?みんな不味いと思ってるのわかっちゃったんだからもう我慢なんてできない!」
「俺だってこんなクソ不味い野菜食い続けたくないよ!でも外に出られないだろ!それに実際に野菜育ててる畑見ないと作れるかどうかもわかんないんだよ!」
「じゃあ早く魔法使えるようになんなさいよ!」
「俺だって頑張ってるよ!麗だって使えないんだから同じだろ!?」

 喧嘩のような言い合いにカオリンが割って入る。

「まあまあ、2人とも落ち着いて。とりあえず魔法使えるように頑張りましょうね。」


 そこに

「失礼します。みるくをお持ちしました。」
 
 メイドがカートを押しながら戻ってきた。













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