水と言霊と

みぃうめ

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第136話    地獄絵図

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「ちゃんと煮沸してきたんだろうな?」
 あっくんがメイドに聞く。
「はい。」

 そしてミルクがコップに注がれ配膳された。
 色はちゃんと白。
 普通の見た目にホッとした。
 ミルクの配膳が済み、漸くお菓子が配膳されたけど…これなによ?

 目の前にはお皿に載った茶色の長方形の薄い何かが数枚。堅焼きクッキーみたいな物なの?
 その隣には小皿にゼリーのような物。
 色は緑。
 とても美味しそうに見えない。
「ケーキとかシュークリームとかないわけ?」
 麗の思っていたお菓子とは違ったんだろう。
 イラつきながら他の物はないのか聞くけど
「ケィキ?シュクリーム?とは、何ですか?」
 また話が通じない。
「もういいわよ!早く配って!!」
「はいぃぃ!」
 メイドは配膳が終わるとさっさと出ていく。

「ねぇ、これ何?」
 と言いながら堅焼きクッキー?に手を伸ばし、齧ろうとして…堅くて齧れない!
「かっったい!無理!」
 じゃあゼリーみたいなの食べてみるしかないよね!?
 スプーンで掬って一口食べる。
「すっっっっっっっっぱ!!!」
 慌ててミルクをゴクゴク飲み
「おぇぇぇーーーーーーーー」
 と吐いてしまった。

「しーちゃん!?
 もしかして毒!?
 毒なの!?」
 とあっくんが慌てているけど、違う。
 違うんだよ!
「臭い!不味い!」
 私の話を聞かずに
「あのメイド呼び戻せっ!毒だ!!」
 とあっくんが騒ぎまくっている。
「あっくん、違うって!
 不味かっただけ!」
「不味いだけで吐くわけないでしょ!?」
「だから違うってば!」
「大丈夫!?全部吐いて!!」
 全然話を聞いてくれない!
 これは強行手段に出るしかない!
 私の飲みかけのミルクが入ったコップを掴み
 あっくんの口に運ぶ!!
「飲めばわかる!ほら飲んで!」
 あっくんは私に飲みかけのコップを口につけられて、目を見開き、残りのミルクを全て飲み干してしまった。
 途端に
「おぇぇぇーーーーーーーー」
 と吐き戻す。
「ね?不味いだけでしょ?」
「うぷっ、くっせぇー。なんだこれマズっ!」
 それを見て麗が
「そんなに不味いの?」
 と、一口。
 ダバーーーッと口から出す。
「くっっっさ!!!なんなのよこれ!」
 それを見て優汰は大爆笑!
「ぎゃははは!みんなきったねぇ!!」
 優汰の爆笑にイラっとする。
 あっくんと目が合う。
 お互い頷き合い、あっくんが後ろから優汰を羽交締めにした。
 私は優汰のコップを掴み
「優汰君は何を笑ってるのかな?
 ほら、飲んでみなさい!」
 と、優汰の口にコップを押し付ける。
「ちょっ!二人ともやめ、くさっ!」

 ごくごくおえーーごくおぇーごくごくおぇー

 私は優汰のコップのミルクがなくなるまで口から離さなかった。

 金谷さんはそれを眺めながらわかりやすくニヤニヤしていた。こんなにわかりやすい金谷さんは初めて見た。
「ちょっと豪!あんた何ニヤついてんのよ!
 あんたも飲みなっ!!」
 今度は麗が金谷さんの口にコップを押しつける。
「やめ…おぇーーーー」
 抵抗虚しく金谷さんもミルクの餌食になった。

 カオリンは一人
「あらあら、そんなに不味いの?」
 と指でミルクを一舐めし
「これは臭いわねぇ。」
 と呟いたあと
「ラルフさん、メイドに拭くものを持ってきてもらってねぇ。
 ほらもうみんなやめなさいな、紫愛ちゃん、お口が汚れてるからこっちにいらっしゃい。」
 と、マイペース。

 ラルフは慌ててメイドを呼びに出て行く。
 すぐに入ってきたメイドが部屋の惨状に
「毒っ!?」
 と、走って出て行った。

 みんな気分は最悪。
 部屋の中はぶちまけられたミルクで異臭が漂っている。
 服も床もミルクまみれ。
 まさに地獄絵図。


 そこに慌ててギュンターが入ってきた。
 地獄絵図を目の前に
「何事ですかっ!!??毒ですかっ!?」
 と叫ぶギュンターに、ラルフが答える。
「あの…地球の方に頼まれて牛の乳をお持ちしたのですが、お口に合わなかったようで……」
「私は本当にそのような物を飲むのかと確認しました!ですがいいから持ってこいと言われて!」
 メイドは疑われてはたまらないと必死に言い訳をしている。
「牛の乳!?
 なぜそんな物を飲んだのですっ!!
 そんな物は人間が飲む物ではありませんよ!」
「ざけんじゃねぇぞっ!
 そんなこと誰も言わなかったじゃねぇか!
 地球では大人も子供もミルクを飲むんだよ!」
「こちらでは不味いと知られています!
 だいたい牛の乳は子牛が飲む物でしょう!?」
「ああん!!?不味いって知ってんなら飲んだやつもいるってことだろうが!!」
「もーーーーーーーうっ!!
 なんなのよっ!
 ここにはまともな食べ物何もないの!?
 何食べても不味いものばっかり!!!
 こんなの食べてらんないのよっ!!
 お菓子も!これいったいなんなのよ!
 ケーキやシュークリームやムースやゼリーはどこいったのよ!!!!!」
「………不味い?」
 麗の絶叫にギュンターはポカンとした。
「そうよ!!!
 ここの物何食べても全部不味いのよっ!
 何が最高級よ!
 こんなもの喜んで食べるやつの気が知れない!」
「麗ちゃん、ちょっと落ち着きましょうね。

 ギュンターさん、ここでの食事が全て美味しくないっていうのは地球のみんなが感じていることなの。
 私達がいた国ではね、様々な国の食材と料理方法が集められ、ありとあらゆる食べ物があったのよ。世界で一番の美食の国だったの。
 私達が住んでいた国は島国だったから、普通の人はあまり外の国に行くことはないしね。」
「………ですが、皆様にお出ししている食事は全て最高級品なのです。これ以上は………」
「そうよね。だから、すぐに魔法を使えるようになってみせるから、そうしたらすぐに優汰君を畑に連れて行ってほしいのよ。
 優汰君は地球では野菜のスペシャリスト。
 野菜くらい作らせてもらってもいいわよね?」
「勿論でございます。それはむしろこちらからお願いしたいくらいなのです。」
「とりあえずこの部屋片付けてちょうだい。」
「ねぇギュンター。調理場みたいんだけどいい?
 お菓子なら作れるかも。」
「紫愛っ!ほんと!!??」
「うん。材料があれば。だけど。」
 愛流と紫流に作ってたから。
「はい。では今から参りますか?」
「ちょっとだけ待って!着替えるから!」
「しーちゃん!俺も行く!」
「紫愛ちゃん俺も!野菜見れるかもしれないし!」
「私一人だと味わかんないから、二人ともお願いね!」
「ラルフとハンスもついて来い!」
「「はい。」」



 着替えてギュンターに連れられ調理室へ。
 私達が調理室に着くと調理室の中はどよめいた。
 初めて地球人を見るのだから当たり前だろう。
「この御方達はこの国で一番の重要人物だ!
 絶対に失礼のないように!
 調理室を使いたいそうだ。質問には全て答えよ。」
 全員が深く頭を下げた。
「あー…頭上げてください。
 仕事中にごめんなさい。
 どんな食材があるのかの確認と、少し調理室を使わせてもらいたくて。
 なるべく早く出て行くからよろしくお願いします。」
 調理室の全員が目をまん丸にして頷く。
「シェフよ。この方達の案内を任せる。」
「畏まりました。」
「皆様、私はこれで失礼いたします。
 帰り道はラルフとハンスが存じております。」
「うん。ギュンターもありがとう。」
「とんでもございません。それではまた。」














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