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第143話 絢音
しおりを挟む作ったご飯を持って部屋に戻ると絢音が駆け寄ってきた。
「みーちゃんおかえり。」
と言って抱きついてくる。
私がチビなので抱きつくと言うよりは抱きしめられるに近いけど。
あっくんを思い出す。
あっくんもこうしてよく私を抱きしめてきた。
あっくんも不安だったんだろうなぁ。
「ただいま!急いで戻ってきたんだけど、遅かった?」
「んーん。ぼくちゃんとまってた。」
「そうだねぇ。待っててくれてありがとう。」
背伸びをし頭を撫で撫で。
「ご飯作ってきたよ。一緒に食べようね!」
2人で並んでソファに座る。
なんちゃってガレットと野菜の卵とじ。
飲み物は蜜柑のシロップジュース。
2人で頂きますを言い食べ始める。
ガレットもどきを食べる。うん、美味しい。
野菜の卵とじはどうかな?
……うーーーん。やっぱり苦いな。
緩和はされたと思うけど、絢音はどうかな?
「みーちゃんおいしい!」
絢音はパクパクガレットもどきを頬張り、口の周りにも服にも卵が溢れている。
「慌てて食べなくても大丈夫だよ。足りなかったらまた作りに行くからね。」
私はタオルで絢音の口を拭きながら微笑む。
可愛いなぁもう!
「お野菜はどう?少しでも苦くないようにって思ったんだけど、やっぱり苦味は消えなかったの。無理して食べなくてもいいからね。」
絢音は卵とじを1口。
モグモグ。
「ぼくこれならたべれる。」
「本当?苦くない?」
「ちょっとならがんばれる。」
「絢音は偉いねぇ!無理のない程度でやめていいからね!」
「うん!」
結局絢音はガレットもどきも野菜の卵とじも全部食べてくれた。
「全部食べてくれたの?嬉しいなぁー!ジュースも飲んでね。」
「ぜんぶおいしかった。ごちそうさま。」
食事を終え、一息つく。
食べられるなら元気も出てくるはず。
本当に良かった。
「絢音に色々聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
今まで絢音が何をどんなふうに思ってたのか、確認は大切。
絢音が頷いてくれたので質問開始だ!
「絢音は最初、私とあっくんの声に反応してたみたいに感じたんだけど、それはどうして?」
「ほかのひと、おかおみえなくて、こわかった。みーちゃんとからだのおっきなひとだけおかおみえた。」
顔が見えない??
どういう意味?
「顔が見えないのは、どういうふうに見えないのかな?」
「???」
首を傾げてキョトンとしている絢音。
「うーんと、少しも顔がわからなかったの?」
頷く。
「顔が歪んで見えた?」
魔力漏れで顔が歪んで見えたのかな?
「いろしかみえない。」
色!?
「色って、白色?」
あっくんが出したただの魔力は白だった。
ただの魔力なら白だよね?
「みんないろちがう。」
色が違うなら、まさか私と同じ!?
でも私とあっくんは顔が見えてるって言ったよね。
やっぱり魔力が関係してる?
「同じ人でも色はいつも違うの?」
「おんなじ。」
同じ…感情によって見える色が変わるわけじゃないってことだよね?
「私の顔は最初から見えてたの?」
頷く。
「今はどう?色が見える?」
頷く。
見えるの!?
「私の色はどんなふうに見えてる?」
「みーちゃんのまわり、みえる。」
「私の周りだけ見えるの?どれくらい?」
絢音は人差し指と親指で、小指の爪ほどの広さを広げる。
「これくらい。」
「私の周りに1cmくらい色が見える感じ?」
頷く。
オーラ、みたいな感じかな?
「色は何色に見える?」
「みーちゃんはみずいろ。」
私は水色なのか…
「じゃあ、もう1人の顔が見えたおっきな男の人も、1cmくらい周りに色がついてるように見えた?」
頷く。
「あのおっきな人はあっくんて言うの。あっくんは何色に見えた?」
「はんぶんくらいあかで、あとはきいろとみどり。」
3色?
それ……もしかして因子の色??
「他の人で、1人の人に沢山の色が見えたことある?」
「あのひとだけ。ほかのひと、いろひとつ。」
やっぱり魔力だ。
しかも属性の色。
「赤色の人はみんな同じ赤色なの?」
「みんなちょっとずつちがう。」
「じゃあ、顔が見えなかった人達の色は覚えてる?」
「いっぱいはなしかけてきたひとはおぼえてる。こいみどりだった。」
それってカオリンのこと?
だとするとカオリンは風因子。
「それって女の人だったよね?」
頷く。
やっぱりカオリンだ。
「今度顔が見えない人を見かけることがあったら、後でこっそり私に見えた色教えてくれる?」
「うん。」
「絢音はどうして昨日私の部屋に会いに来てくれたの?」
絢音は黙ってしまった。
言いたくないのかな?
「言いたくなかったら言わなくてもいいんだよ?」
「……みーちゃん、おこらない?」
えっ!?怒るようなことなの!?
「絶対怒らないよ。」
ニコニコしながら言う。
怖がらせちゃ駄目だ。
「……ぼく、かみなりこわくて……おっきなひとのところいきたかったの。」
???何でそれで私が怒ると思ったの?
「そっかぁ。そういえばみんなでお話を聞きに行った時も、あっくんに隠れてたもんね。お部屋がわからなかった?だから私の顔見て慌ててたの?」
「……うん。おへやわからなくて…」
「あっくん優しいし、強そうだから行きたかったの?」
頷く。
「守ってくれそうだと思ったんだね。そうだ!今からあっくんの所に行く?」
首をブンブン横に振る。
「どうして?あっくんの所行きたかったんだよね?あっくんは優しいし強いよ?絢音のことも絶対守ってくれる。あっくんの所に行っても怒ったりしないよ?」
私がそう言うと、絢音は泣き出してしまった。
「どっどうしたの!?私が何か嫌なこと言っちゃった??」
「みーちゃ………ぼく…いた…ら…………ヒック…ヒッ……め、わく?ぅわぁーーーん」
そうか。
私の所に来たくて来たんじゃないと知られたら怒られると思ったんだ。
目が見えなかったなら邪険にされたこともあるだろうし、声色には特に敏感だ。
私は絢音をぎゅっと抱きしめる。
「ごめんね、そんなふうに聞こえちゃったんだね。迷惑だなんて思ってないよ。絢音が本当はあっくんの所に行きたいのに、私が我慢させちゃったのかなと思って聞いただけなの。私は絢音の味方だよ。絢音がしたいことをさせてあげたいし、応援したいし、守りたい。絢音はどうしたいの?教えてくれる?」
「ぼくぅヒッ、ヒックみーちゃん、と…いっしょがいい!」
「そっかそっかぁ。じゃあ絢音はここにいればいいんだよ。絢音がいてくれたら私も嬉しいよ。」
「…………ほんと?」
「本当だよ。絢音は人の気持ちを考えられる優しい子だねぇ。」
絢音の頭を撫でる。
見放されるのかと思わせてしまった。
そんなことあるわけないのに!
「絢音はさ、何かしたいこととかあるの?」
絢音が落ち着いたところで聞いてみる。
「ぼく、ぴあのひきたい。」
まさかの発言!!!
「ピアノ弾けるの!?」
「ぼく、それしかできない。」
「すごいよっ!格好良いねぇ!みーちゃんも絢音のピアノ聞いてみたい!ここにピアノってあるのかなぁ?探してみるね!」
「うん!」
「ママに教わったの?」
「うん。ママはぴあの。パパはばいおりん。ばぁばはふるーと。じぃじはちぇろ。」
音楽一家じゃないか!!
「絢音は全部弾けるの?」
「ぼくはぴあのだけ。」
「ピアノは好き?」
「うん!ママはこわかったけど…ぴあのはすき。」
「ママのことは好き?」
「すきだけど……こわい。」
目がほとんど見えないアルビノなら、将来の心配をして必要以上に厳しく育てた可能性もある。
好きだと思うんなら愛情は感じてたはず。
「絢音は日本に住んでたんだよね?」
「うん。でもまえはすうぇーでんにいた。」
「絢音はパパとママどっちに似てるとか、言われたことある?」
「ぼくはママにっていわれてた。」
「パパが日本人で、ママがスウェーデン人なのかな?」
「???よくわかんない。」
目が見えてないと細かい所はわからないよね。
「そっかぁ。絢音はね、とーっても綺麗でカッコいいんだよ。だからね、絶対に1人にならないで。絢音になにかあったら、みーちゃん悲しいから。1人にならないって約束してくれる?」
「やくそくする!」
元気良く約束してくれる絢音にホッとする。
「あのね、絢音にとってもとっても大切なお話があるの。みーちゃんがここにいない時、みーちゃんは絢音に1人で寂しい思いしてほしくない。だから、地球の誰かと一緒にみーちゃんの帰りを待っててほしいの。絢音に、地球のみんなと仲良くなってほしい。今は顔が見えなくて怖いかもしれないけど、みんなも顔が見えるように頑張ってるんだよ。だからね、絢音はみんなと仲良くなるの、頑張れる?」
「みーちゃん、どっかいっちゃうの?」
「うーんとね、怖い生き物がいてね、みーちゃんはそれをやっつけに行かないといけないの。こう見えて、みーちゃんはとぉっても強いんだよ。みーちゃんは地球のみんなを守りたい。もちろん絢音のことも。みんなを守りたいからやっつけに行くの。みーちゃん頑張ってくるんだよ。だから絢音にも、頑張ってみんなと仲良くしてほしい。できる?」
「……わかった。ぼくがんばる。みーちゃんかえってくる、よね?」
眉尻を下げ、不安そうな絢音。
「もちろんだよ!みんなで地球に帰るために頑張ってくるんだもん。絶対にここに戻ってくるから待っててね。」
「やくそくだね!」
「うん。約束。」
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