水と言霊と

みぃうめ

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第144話    恐怖

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 その日の夜は、絢音がお腹いっぱいで食べられないと言ったので夜ご飯は食べなかった。
 久々にお腹いっぱいに食べて胃がビックリしたのかもしれない。

 明日から地球のみんなと一緒にご飯を食べて、少しずつ仲良くなろうと言ったけれど、絢音が
「もうちょっとみーちゃんといっしょにいたい。」
 と、可愛いことを言うので、じゃあ明後日からにしようとなった。

 ラルフに楽器はあるのか聞いたらあるとのこと。ピアノはあるか聞いたけど、いつもの如く通じない。
 仕方なく絵で鍵盤のような物を描き見せたら、何種類か見たことがあると言う。
 絢音に選ばせたいけど、外に出るのは無理。
 守りながら戦えるか不安が残るのに外に出せない。
 明日、ここに持ってこれるピアノ全て持ってきてと頼んだ。



 私からみんなに絢音のことを話そうかとも考えたけれど、絢音の口から聞かなければみんな納得はしないだろう。みんなからの信用も得ることはできない。
 それでは絢音のためにならない。

 それに、私が絢音のことを勝手に話すのは違うと思う。
 絢音は私だから色々話してくれたのだ。
 それを私の判断で勝手に絢音のためと理由付けをして話していいわけがない。


 みんなと食事を共にするならみんなと同じご飯を食べないといけないこと。絢音だけを特別扱いしたら反感を買ってしまうこと。全員が我慢してご飯を食べていることを言ったら僕も頑張って食べると言ってくれた。
 どうしても無理だったら私が作ることも伝えた。
 9歳の子に努力をさせるなんて、本当ならまだ全然必要なことじゃない。
 まだ遊び回って美味しい物を食べて、少しの勉強をして寝るのが普通だ。
 絢音のことを色々考えていたら、かなり不安になった。

 それは、地球に戻った時のこと。

 もし、地球に戻ったら…歳は戻るのか、アルビノの絢音はまた視力を失うのではないか、もし歳が戻らなかった場合、私やあっくんはまだ、なんとでも誤魔化しがきくと思う。整形したんだとか、いくらでも嘘がつける。
 でも、絢音は?
 子供から大人になってしまった身体。
 例え両親だって自分の子だとは認めてくれないだろう。アルビノですらなくなっているんだ。下手をすれば両親よりも歳をとってしまっているかもしれない。
 そうなったら、絢音の戸籍は?あの見た目で9歳なんて誤魔化しがきくわけがない。外人さんの見た目年齢に自信はないが、30歳は超えているだろう。唯一の救いと言えば、目がほとんど見えていなかったための見た目の齟齬への拒否感と嫌悪感がないことだけ。

 もし最悪を仮定するならば、歳は戻らず病気だけが復活してしまうこと。
 家族もいない中で、目が見えず、戸籍すらない。
 一体どうやって生きていくの?
 絢音にとって、本当に地球に戻ることが正しいのかわからない。

 でも、絢音だけ残していくなんて…ここに残ったって利用されるか殺される未来しか見えない。

 一体どうすればいいのか……
 誰にも相談できない。
 例え相談できたとしても、私達の年齢の齟齬の理由なんてわからないんだから解決策が見つかる訳もない。


 絢音と一緒のベッドに入り、頭を撫でながら一人で答えの出ない問題に泣きたくなる。
 どうしたら絢音が幸せになれるのか…
 一人で悶々としていたら
「みーちゃん。」
 と呼ばれた。
「どうしたの?まだ眠れない?」
「あのね、ぼく……みーちゃんにおねがいがあるの。」
「なぁに?」
 絢音はモジモジしている。
 何か言いづらいお願いなのかな?
 可愛いなぁー。
 また頭を撫でる。
「言ってくれないとわからないよ?」
「ぼく…………おやすみのちゅーしてほしい。」
 なんですとっ!?
 あーー絢音はママ似だからママが外人さんの可能性高いよね。スウェーデンにいたって言ってたし。
 それならしてもらってたかもしれない。
 私も愛流と紫流にお休みのちゅーはしてたけど、それはほっぺとかオデコだった。
 口にしてと言われたらハードル高いな…
 でも、頼まれるということは信頼してくれてるということ。
「お休みのちゅーはママにしてもらってたの?」
「うん。」
 聞かねばなるまい。
 絢音ママがどこにちゅーをしていたのかを…
「ママは絢音のどこにちゅーしてくれてたの?」
「ここと、ここと、ここ。」
 絢音は指で両方のほっぺとオデコに触れた。
 セーフ!!!
 焦ったよ本当に!
 オバさんドキドキしちゃったよ!?
「いいよ。お休みのちゅーしようね。」
 絢音の両の頬とオデコに軽くちゅっとする。
「これでいいかな?」
「ぼくも、する。」
「絢音もお休みのちゅーしてくれるの?」
「うん。」
「ありがとう。
 じゃあお願いね。」
 絢音はわたしの両の頬にキスをしてくれた。
「おうたも……うたってほしい。」
 絢音のママは、絢音が大好きだったんだなぁ。
「ママは何を歌ってくれてたの?
 私が知ってる曲なら良いんだけど…」
「ママはいつもちがうおうただった。」
「決まってなかったの?」
「うん。」
「じゃあ、何でもいいの?」
「うん。」
 それはそれで困ったな…
 何でもいいと言われても、そもそもレパートリーなんてそんなにない。
 今から寝ることも考えると静かで優しい曲がいいよね。
「私が子供達に歌ってた歌でもいい?」
「ぼく、それききたい!」
「良いよぉ。」


 私が歌ったのは、愛の曲。
 不思議と私が感情を込めてこの曲を歌うと、愛流も紫流もどれだけ愚図っていてもすぐに寝てくれた。
 絢音も、安心して眠れるように気持ちを込めて静かに歌う。
 歌い出してすぐ
「みーちゃん、おうたすごくじょうず。
 みーちゃんのこえひかってる。」
 と褒めてくれた。
 持ち上げるのが上手だなぁ。
「ありがとう。」
 と言い、絢音のオデコにもう一度キスをしてまた歌い出す。
 今度は頭を撫でながら。

 この歌は私にとって特別だ。
 私の気持ちはとても歪。
 その自覚があるから、その歪な感情を子供に向けてしまって良いのか、とても悩んでいた時期があった。
 だけど、この歌に出会い、私は私のままで良いのだと教えられた気がした。
 誰一人同じ人がいないように、愛にも色んな形があるのだと教わった。
 世の中に愛の歌は沢山あるけれど、そのほとんどが恋人へ向けたモノ。
 この歌も、もしかしたら恋人への歌なのかもしれない。
 でも私は、私の愛を認めてくれる歌だと感じた。

 私はこの歌に出会ってから、何かを大切だと思える気持ちは、全て愛なんじゃないかと感じるようになった。
 異性への特別は今もわからない。でも、男女関係なく、人としての好きはわかる。
 その最たる先に居るのはマッキーと親方だ。
 友愛と親愛。
 二人が居てくれなかったら今の私はいない。
 子供ができても、多分愛せなかった。
 大切だとすら思えなかっただろう。
 二人は当たり前を教えてくれた。
 人を大切だと想うことを教えてくれた。
 人を愛するということを教えてくれた。

 移ろい行くモノばかりの世の中で
 この想いが不変だと私が感じる唯一が子供達。


 そうだと、思っていた。

 例えこの世界の人間を皆殺しにしたって、この世界を滅ぼしたって、子供達のために地球に帰りたいと思っていた。

 だけど………
 私は絢音を見捨てて子供達の元へ向かえるのだろうか…
 子供達に会うために絢音を見殺しにしなければいけないとなった時、本当にそれができるのか…
 もしそれが本当にできたとして、愛流と紫流に心の底から会えて良かったと言えるのか…


 考えだしてしまえば、それは絢音だけでなく地球のみんなにも当てはまってしまう。
 みんなを見捨てて私だけ地球に帰る選択肢があった場合、私は迷わず帰れるのだろうか…


 駄目だ!!!
 こんなこと考えちゃ駄目!
 全員で帰るんだ!!!
 なかったら別の帰る方法を探せばいい!


 自分の中に生まれた恐怖を抑えつけ
 いつの間にか眠ってしまった絢音を抱きしめながら私も眠った

















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