水と言霊と

みぃうめ

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第148話    絢音の魔力

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 夕ご飯を食べ終えみんなそれぞれの部屋に戻った。
 暫くしてから、私の部屋にあったお菓子を持ってあっくんの部屋をノックする。
「あっくん!お菓子持ってきたよ!」
 呼びかけるとすぐにカチャリと扉が開き、あっくんが出てきた。
「わざわざ良かったのに。
 ありがとう。」
 受け取ってはくれたけど、相変わらず声は低いまま。
「あっくんに任せきりにしちゃってごめんね。
 私も明日からちゃんと練習場行くから!」
「………しーちゃん、本当に明日から行けるの?」
「うん!元々明日から行く予定だったの。
 いつもの時間でいいんだよね?」
「ああ。いつも通り昼飯食ったら行こう。」
「今から甘い物食べて少しでもリラックスできるといいんだけど…
 じゃあ、お休みなさい。」
「……お休み。」

 よしっ!次は絢音のところだ!
 絢音の部屋は一番左端。
 左から絢音、あっくん、優汰の部屋になっている。
 私はあっくんの部屋の隣に移動し

 コンコン

 とノックをする。

「絢音?起きてる?
 みーちゃん今から寝るけど、一人で大丈夫?」
 暫く様子を見て反応がなかったらそっとしておいてあげよう。
 と思っていたら、扉が少しだけ開いた。
 隙間から絢音がこちらを覗いている。
「起こしちゃった?」
 絢音の目が少し覗く程度しか開いていないので、絢音の反応が見えない。
「………みーちゃん……おこってない?」
 小さな小さな声で聞かれる。
「えっ!?怒るって何に?
 それとも怒ってるように見えちゃった?」
「ぼく…みんなとおはなしできなかったから…」
「みーちゃんを見て。
 怒ってるように見える?
 みーちゃんはね、絢音はすごく頑張ってくれたと思ってる。
 カオリンとはお話はできなかったけど、頷けたでしょう?
 いきなり全部は無理だし、みーちゃんもいきなり全部やりなさいなんて絢音に言わないし、思ってもないよ。
 ゆっくりで良いの。
 怖かったのに頑張ってくれてみーちゃんは嬉しかったよ。」
 扉の向こうでグスグス泣く声が聞こえてくる。
「絢音?大丈夫?」
「ご…めっ………ヒック…なさ……ゔ~」
「ここ、開けてくれる?
 みーちゃんは頑張った絢音をいっぱい褒めてぎゅーってしてあげたいなぁー。
 でもなぁーこれじゃあお部屋に入れないなぁー。」
 絢音の様子を伺いながら大袈裟に言う。
 絢音はゆっくり扉を開けてくれたけど、扉が開くと同時に泣きながらうずくまってしまった。
 蹲る絢音に、膝立ちしながら話しかける。
 私はまだ一歩も部屋に入れていない。
「謝らないで。絢音は頑張ったの。
 みーちゃんはちゃんとわかってるよ。
 偉かったねぇ。」
 手を伸ばし絢音の頭を撫でる。
 絢音は少し顔を上げ私の表情をうかがってくる。
 絢音と目が合い、私は微笑む。
 と、絢音は私の胸に飛び込んできた。
 膝立ちをし、絢音を撫でるために重心を前にかけていたため受け止めきれなくて尻餅をつく。
 思わず「うぉっ!」と声が出てしまった。
 絢音は私にしがみついて静かに泣いている。
「大丈夫だよ。ゆっくり、少しずつで良いの。
 みーちゃんと一緒に頑張ろうね。」
 私も絢音を抱きしめながら頭を撫でる。
 絢音の頭は私の左側。
 必然、私の顔は右を向いている。

 ふ、と視線を上げると、あっくんの部屋の扉が閉まったように見えた。
 それは一瞬のこと。
 見間違いかな?
 あっくんの部屋の扉が開いてるわけないもんね。


「絢音、今日はどうする?
 一人で寝られるの?」
 ブンブン首を横に振る絢音。
「じゃあ今日は絢音のお部屋で一緒に寝る?」
 頷かれたので、絢音が落ち着いたのを見計らって一緒に部屋に入った。



 翌朝、絢音にピアノの説明をする為に朝食よりも早く部屋から出た。
 昇降機に乗ったピアノに絢音を連れて行く。
 魔法具の説明をし、朝食を食べた後、話があることも伝えた。
 絢音には魔力の説明を何もしていない。
 駆け足なのはわかっているけど、顔が見えない理由も教えてあげたいし、何より絢音にも自衛を覚えてもらわないといけない。

 絢音はピアノを前にウズウズしている。
「私はお昼ご飯を食べたら特訓をしに行かないといけないの。絢音のピアノと一緒でね、特訓をやめちゃうと戦えなくなっちゃうの。
 だから、私が特訓に行ったら絢音もピアノ弾いていいからね。誰かが三階まで反対の昇降機で上がってきたらすぐに部屋に逃げるんだよ。」
「うん!」
 そんな話をしていたら朝食が運ばれてきた。
 慌てて下に降りる。
 みんなも部屋から出てきた。
 絢音はみんなが出てくると私の腕にしがみつき俯いた。

「おはよう!今日から絢音も一緒にご飯食べるからよろしくね。」
「紫愛ちゃん、あやね君、おはよう。
 よろしくね。」
 カオリンはいつもの優しい声かけをしてくれる。
 麗と優汰は眠そうだ。二人はおはよとボソッと言うだけ。金谷さんは会釈をするにとどまる。あっくんは無言に無表情だった。

 朝食はみんな無言だった。
 麗と優汰は眠さに加え料理の不味さで不機嫌。
 カオリンも黙々と食べている。
 金谷さんはいつも通り。
 あっくんは五分も経たず食べ終え、ご馳走さんと呟き部屋へ戻ってしまった。

 まぁ、朝は大体こんな感じだ。
 気にしない。

 朝食を終え絢音と部屋に戻り、魔力の説明をする。
 ここの世界では魔素があり、それを身体に溜め込み魔力に変換し、魔法が使えること。
 魔力がうまく使えないと、身体から魔力が漏れて顔が見えなくなってしまうこと。
 絢音にも魔法を使えるようになってほしいこと。
 わかりやすく伝えたつもりだけど、絢音は全くわかっていない様子。
 とりあえず、感じられなければわからないだろう。絢音は目が見えていなかったんだからアニメもほとんど知らないはず。魔法って言われてもピンとくるはずがない。
「今から私の魔力を流してみるから、何か少しでも感じたら教えてね。」
「うん。」
 そしてシーケンをする…けど………
 魔力が流れていく感じがしない。
 それに、絢音の魔力も何も感じない。

 どういうこと???
 絢音には魔力はないの?
 いいや、そんなはずはない。
 絢音の目から魔力が漏れているんだから絶対あるはず。
 もしかして目だけにしか魔力がない?

「絢音、何か感じたりした?」
 絢音は首を横に振る。
 やっぱり絢音も何も感じてないよね。
「今度はお顔を触りながらやってみたいの。
 いい?」
 頷く絢音。
「目を閉じててね。」
 絢音の閉じた目の上に手の平を乗せ、もう一度シーケンをやってみるけど、やっぱり何も感じない。
「絢音、今度は何か感じた?」
「ぼくずっとなにもかんじない。」
「そうだよね。ありがとう。」

 これは思ってもみないことだった。
 お互い何も感じなければ、こっちの世界の人達みたいに一人で集中して長い時間をかけて習得するしかない。
 身体は大人だからやっても問題はないと思うけど、一体どれだけの時間がかかるのか…
 絢音の心はまだ子供。そんなに長い時間集中する力があるとも思えない。
 下手をすれば一生使えないままで終わる可能性もある。

 それとも私のシーケンが合わない可能性もある?
 あっくんにやってもらいたいけど…
 今のあっくんは多分余裕が無い。
 それに絢音自身、顔が見えているにも関わらず今ではあっくんのことを怖がってしまっている。
 最初に会った時と雰囲気が違い過ぎるんだろう。あっくんが纏っている空気感が、誰も寄せ付けないほどにピリついて張り詰めている。

 あっくんにお願いはできない。

 絢音はこのまま一生ここから出られないの?
 どうすればいいの!?

 絢音がどうしても外に出たくなったら…
 絢音を連れて外に出ても大丈夫なように私が強くなるしか方法はない!


 魔法の可能性をもっと探らなければ!!!















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