水と言霊と

みぃうめ

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第149話    火魔法

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 私が1人で悶々としていると、すぐに昼食の時間になってしまった。
 お腹なんて大して空いていないけど、今の絢音が他の人とコミュニケーションをとれる唯一の場だ。
 行かない選択肢はない。

 朝食と同じようにみんながロビーに集ま…らなかった。

 慌ててカオリンの部屋へ行く。
 部屋にはカオリンと麗と金谷さん。
 優汰はいなかった。
 何でみんなお昼ご飯は出てこないのかとカオリンに聞くと、お互いにやることが違うから集中力を切らさないために、朝と夜しか一緒に食事を摂らないことになったそう。
 優汰は早く畑に行きたくて、他の人がいると制御に集中できないと言い、最近1人でこもっているらしい。

 たった3日で色々と変わってしまった。
 置いていかれないように、今からもっと頑張らないといけない。

 絢音と一緒に部屋に戻り、お昼はみんなバラバラに食べてることを教え、一緒に昼食を食べる。

「私は食べ終わったらすぐ行かないといけないんだけど、絢音はピアノ弾いてる?」
「うん!ぼくあたらしいぴあのひくれんしゅーしたい!」
「わかったよ。誰か来たらすぐに逃げるんだよ。」
「うん!ぼくけんばんみないでひけるからだいじょぶ。」
「じゃあ2人で頑張ろうね!」
「うん!」



 昼食を摂り終え、絢音はピアノの元へ。
 私は出入り口の方へ向かう。
 あっくんはもう待っていた。


「お待たせ。じゃあ行こっか!」

 無表情のあっくんに両手を上げて差し出す。

「………………えっ!?」

 今朝からずっと無表情だったあっくんが1歩後退り目を見開く。
 なにその反応…
 意味がわからなさすぎる。

「え??なに???」
「しーちゃんこそ……どうしたの?」

 どうしたって何が?
 まさか3日で抱っこして練習場に行くって決まり忘れた?
 あっくんが言い出したことなのに??
 それとも3日の間に勝手に決め事改定した?
 いんや、あっくんは勝手に決めたりしないはず…
 じゃあやっぱり忘れたってこと??

 あ!ずっとイライラしてたから頭から抜けたのか!
 それなら納得だ!

「もう!あっくんが抱っこして行くって言い出したんだよ!ド忘れしちゃった??」

 からかい混じりに首を傾げながら言う。

「ぇ……………でも………良いの?」
「は?良いも何もあっくんが言い出したんでしょ?」
「……………本当に……良いの?」

 何でこんなに躊躇う感じなの??
 嫌なら嫌って言ってくれたら良いのに!

「抱っこやめるから歩けって言うならあっくんの隣歩くだけだし別にいいけど?」

 そう言った瞬間抱き上げられた。
 そう、いつもの赤ちゃん抱きで…

「あっくんや、抱き上げ方はこれで確定なのかい?」
「これだと右手が使えるから俺も安心。」

 そう言いながらあっくんは苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。

「我慢してやってるならやめていいよ?」

 そう言ったら今度は無言で歩き出されてしまった。

「あっくん?」
「我慢なんてしてないから大丈夫。俺に任せて。」
「……じゃあ、よろしくね?」

 あっくんは疲れているんだろう。
 あまり突っ込まない方がいいよね。


 あっくんに抱かれ練習場に向かう。
 道中には当然第一騎士団員達がいる。
 その視線が……3日前に感じていたそれと全く違う。
 私に向けられる視線もあっくんに向けられる視線もだ。
 私に向けられる視線は、以前は下心は感じても、こちらの様子や表情をうかがうようなモノに近かった。
 それが今では、明らかに私の身体に視線が向いている。首筋がチリチリして怖気立おぞけだつようなそれ。
 前は一瞬の視線だったモノが、不躾に凝視されている。

 対してあっくんへの視線は、恐怖は変わらないが、何か別の視線も混じっている。
 それが何を表すのか私にはわからない。


 これかっ!!!
 あっくんが不機嫌な理由はこの視線だ!
 一体何がどうしてこうなったのか…
 3日でこうも変わるの??
 あっくんの表情をチラリと見ると、鬼の形相をしていた。額には青筋までクッキリと浮かび上がっている。
 辺りに殺気を撒き散らしながら歩いている。
 練習場に到着するまで騎士達は私達を遮ることも声をかけてくることもなかった。
 ただ、視線だけが纏わりついてくる。


 練習場の中に入り、やっと安堵の溜息が漏れる。

「しーちゃん、大丈夫だった?」

 私を下ろしながら聞いてくる。

「あっくんが抱っこしてくれてたから大丈夫だけど、あれなに??前より酷くなってる!」
「ああ。鬱陶しくてしょうがない!」

 これを1人で我慢していたのかと思うと、申し訳なくなる。

「1人にしちゃってごめんね。」
「しーちゃんが謝ることじゃないよ。さぁ、気を取り直して魔法やっていこう。俺、昨日指ぱっちんで火がつけれるようになったんだ。」
「凄いっ!!つけてみせて!」
「うん。」

 あっくんがパチンっと指を弾く。
 あっくんの手の平にはライターの火のように小さな火が出現した。

「あっくんやったね!!!」
「うん、まぁ、つけれたんだけどね。これで何する?って思ったら何も考えつかなくて止まってた。しーちゃんは何があるか思いつく?」
「火……アニメや小説でよくあるのはファイヤーボールとかファイヤーアローとか?…………あれ?待ってよ……火の球投げるだけで爆発ってするの?火で矢を形取って、それで貫通力はあるの?アニメや小説ではあるけど、それはただのご都合主義ってだけ。……火の球でも火の矢でも、当たった側が燃えるだけなんじゃない?」

 あっくんは溜息混じりで肩を落とす。

「そうなんだよ。火で弾丸みたいに作ったとしても、火は物質じゃないから貫通力なんてないよね?それは火の矢でも言えることだけどさ、もし温度を上げて溶かしながら貫通したとして、その傷口自体を焼いて出血止まる可能性もあるんだよ。脳や心臓を正確に貫けるなら兎も角、相手も自分も動いていることを考えたら狙いは必ずズレる。殺傷能力的にはかなり低い。下手すりゃ相手が燃え上がるだけ。それでは魔物は止まらない……って言うよりも、燃え上がった状態の相手が向かってきたら俺達味方側が危ないだけだ。」

 これは魔法を使えると知った初期の私の、水で何ができるのかの“火バージョン”だ。
 あっくんは続ける。

「それなら前にやった土と風で弾丸飛ばした方がよっぽど効果的。弾丸が身体を貫いた時、骨に当たって軌道が変わって内側の破壊力も得られるし、弾が体内に残ることだってある。」
「うーーーん…私ね、自分の水魔法の時に同じようなこと考えてたの。水の球を相手にぶつけてもびしょ濡れになるだけ。そんなことして何の意味があるの?とか、魔法が出てくる物語では水でバリア出したりするんだけど、ただの水の膜で物理攻撃の何が防げるんだ?とか、色々ね。」

 あっくんは真剣に聞いてくれている。

「でも今はみんなの意見参考にして、できることもできそうなことも結構考えられるようになった。あっくんの火魔法もさ、みんなに意見を聞いて考えよう。私達は物理的に無理と思っちゃったり、イメージができないって思っちゃえば不可能だけど、逆を言えば物理に落とし込めちゃえばこっちのモノ!」
「そうだね。やっぱり俺としーちゃんだけじゃ偏りは出てくるから難しいかぁ。」

 私より知識のあるあっくんでもこれなんだから、そりゃあウンザリするよね。

「火は難しそうだよね。威力があっても、それをコントロールできなければ……私達が中衛だってことも考えると、威力のみでの圧倒は味方も巻き込んで大惨事に繋がっちゃうもん。」
「1番の問題はそれなんだよ。前衛だったら目の前全部マグマにして終わりの可能性もあるけどさ、俺の威力でそれがどの程度の範囲までできるかも不明だし、試すことも危険過ぎて無理だ。多分俺としーちゃんが前衛に出されることもないだろう。地球人は貴重な存在だ。仮に出たいと言っても何かあっては困ると出してもらえない。」

 地球人は8人しかいないんだから当然そうなるだろう。

「中距離または遠距離での攻撃方法が必要。それも考えないとだね。」
「そうだね。」



 そんなやり取りをして、大した進展はないまま部屋へ戻ることになった。
 帰りもあっくんに抱っこされてから訓練場を出たけど、目の前には今まで見たことのない数の騎士団員達がいた。

「いつもこの人数が集まるの?」

 と、目の前のあっくんの耳に囁く。

「いいや、恐らくしーちゃんが練習場に来たから見に来たんだ。」
「げっ!最悪!」

 あっくんは顔を歪めながら

「お前ら!!!全員壁際に寄って跪いて顔を伏せろっ!!」

 騎士団員達は僅かにどよめいたがすぐにあっくんの指示通りに動いた。
 騎士団員の動きを確認した後、あっくんは濃密な魔力を壁際に左右に控えた騎士団員達に放出し包み込んだ。

「魔力が消えるまで身動きするな!そのまま控えてろっ!!ラルフ!ハンス!行くぞっ!!」

 そう言って通路の真ん中を歩き出した。
 後ろを確認すると、私達が通った後もあっくんの魔力が残り続けて騎士団員達を覆っている。
 ラルフとハンスの顔は引き攣っていた。
 なんという魔力の操作力…
 いつの間にここまでできるようになったのか…

「あっくん、これやるの、かなり神経使う?」
「そこまででもないよ。今は視界を奪うために出してる魔力が多いから魔力は多少消費するかなって程度。今は寝てる間もできるようにならないか模索中。」
「それ、1人でやってたの?」
「俺は頭が固いから発想力はないけど、今できることの応用は得意だから部屋でもやってるよ。戦地に行ったら敵ばかりだ。1番危ない。寝てる時も身が守れるようになれないと。」

 私よりもずっとずっと先を見据えているあっくんに驚いた。

「足手纏いにならないように私も頑張る!」
「足手纏いなわけないよ。それは俺の方だ。」
「じゃあ、2人で頑張ろうね!」
「それはもちろん。」

 騎士団員達が控えている場所からだいぶ遠ざかり「そろそろいいか」と、かなり歩いた後ろを振り返り、あっくんの白い魔力が霧散するのが見えた。

「本当にすごすぎる………」
 

 あっくんは本当に1人で無双ができそうだ。














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