水と言霊と

みぃうめ

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第170話    土とは

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「おまっ!それっ!!どうやった!!??」

 あっくんは盛大に混乱している。
 私だって訳がわからない。
 優汰が手にしていたタオルは見当たらない。
 タオルを土に変えたということだろうけどその方法が全くわからない。
 そもそもタオルを土に変えられるのも意味がわからない。

「タオルが何かを考える、それだけだよ?」
「「そんな説明でわかるかっ!!」」

 あっくんと私が叫ぶ。

「2人とも少し落ち着いてちょうだいね。優汰君、それはもしかして有機物か無機物かということなの?」
「さっすがカオリン!そうそう!タオルは元は綿。有機物。川端さんと紫愛ちゃんはタオルを土に埋めて放置したらどうなると思う?」
「そりゃあ、分解されて土に……還るってこと??」

 私の解答に

「そうそう。要は土の材料。俺はそれをイメージしただけ。別にタオルじゃなくても、そこにある机でも椅子でも何でも良かったんだけど……それ使ったら怒られそうだったからやめたんだ!」

 ドヤ顔をする優汰。

「ドヤ顔する部分違う気がする…」

 私の言葉に金谷さんはクククッと笑いを漏らす。

「土をタオルにまぶしたのは何でだ?」

 あっくんは全てをスルーして優汰に質問を続ける。

「タオルを微生物で分解しただけじゃあ土と呼べる物ではないんだ。鉱物質と有機物の混合物が土なんだよ。」
「ちょっと!全然わかんない!もっとわかりやすく言ってよ!」

 麗が文句を言う。

「えーーーっとねぇ……すっごく簡単に言うと砂、粘土、微生物、腐植。これが土の材料。タオルは腐植。微生物は至る所にいる。でも砂と粘土はない。当然そこに含まれる鉱物系も無し。だから川端さんに土をかけてもらったんだよ。でも別に土じゃなくても小石でも良かった。川端さんと紫愛ちゃんだけしかまともに外に出てないけどさ、ここに案内されるまでに見た感じ、この建物自体は石なのかレンガなのか、そーゆー物で造られてるっぽくなかった?実際見て触っての確認は必要だと思うけどさ。いざとなったらそこから使ったって良くない?タオルだって持ち歩かなくても、服だって何だって材料になるしさ!材料にできないのは、純粋な金とか?」
「よくわからない。石も砂も粘土も全部土じゃないの?」

 今度は金谷さんが質問をする。
 金谷さんも土因子だから絶対気になるよね!

「うーーーん………こっちの世界では何をもって“土”としているか、それはわかんないし知らないけどさ、地球で土壌学的に言われている“土”っていうのは、自然物であること。植物が生育可能であるか。この2つが必要なんだ。この2つに当てはまらなければそもそも土とは言われない。」

 そうだったの!?
 そんな定義初めて聞いたよ!

「土。そして砂と泥の違いは、有機物を含んでいるか否か。ほら、砂漠って砂でしょ?そこに植物生えるのかって話だよ。でもさ、俺が今出したみたいな簡易の土の様な物で野菜作ろうとしてるわけじゃないじゃん?地球で言われてる土である必要ないんじゃないかと思って、出してみようと思ったら出せたんだよ。そもそも俺が出したんだから自然物ではない。でも出せたってことは、俺が今出したこれも土の認識で間違いない。じゃあその境界線は?もしかしたらかなり曖昧で適当なのかも。」

 優汰は真剣な表情で更に続ける。

「土魔法を使う人物が何を土として考えているかで変わるんじゃない??それ考えると砂や泥の無機物も土の認識かもなー。砂と泥は粒子の大きさが違うだけだし。でも、多分俺は砂や泥だけでは動かせない。地球でそれを土と認識してなかったから、この世界でこれも土ですって言われてもそんな風に思えない。もしできたとしてもすっごい時間かかっちゃうんじゃないかなぁー。」

 いつもと違い雄弁に、理屈的に語り終わった優汰。

「ねぇ、あっくんと金谷さんはわかった?私は優汰が言ってることはなんとなく理解したけど、何でそれができるのか理解できない。」

 私が理解できなくても問題はない。
 けれど土因子持ちの2人が理解できなければ問題の解消には至らない。

「俺も理解できない。分解には時間がかかるもんだろ?何でそれが瞬時に可能なんだ?」
「俺もできると思えない。」

 やっぱりあっくんも金谷さんも理解は無理なようだ。

「えー!!!なんでだよぉ!」
「カオリンは優汰の言ってることわかった?」
「ん~そうねぇ。優汰君の中では、有機物は全て土の材料。そういう認識なのかしらね?」
「そう!そうそうそれ!!ほとんどの物は土になるんだよぉ!」
「優汰って頭良いのか悪いのか全然わかんない!そんな理屈、優汰以外の人がそう思えるわけないでしょ!」

 麗は呆れている。

「そうだな、俺にはそんなことできない。」
「俺も無理。」
「その優汰の謎理論は誰も理解できないよ。」
「いいもんねっ!できたんだから!やっとこれで畑行けるんだし!」

 あっくんは呆れながら優汰を止める。

「優汰、何言ってんだ?行ける訳ないだろ?」
「なんでだよっ!自衛できるよ!!」
「まだ土が出せただけだ。仮に自在に土を操れたとして、貴族の女が近づいてきたらどうするんだ?人を殴ったこともない人間が、迫ってくる人間相手に魔法ぶっ放せるのか?」
「なんだそんなこと??相手の服を材料に土に変えちゃば逃げてくでしょ?」

 それを聞き、あっくんはアホの子を見る視線を向ける。

「おまえ………正真正銘の馬鹿なのか?」
「俺馬鹿じゃないよ!!」
「何で迫ってくる女を裸にするんだよ。逆効果もいいとこだろ?あれか?本当は襲われたいのか?」
「あっ!!!!!」
「気付いてなかったのか?やっぱり馬鹿だな。」
「優汰が馬鹿なのは兎も角、ここにいるみんなが人間相手に魔法を放てるかどうかに関しては私も無理だと思ってた。覚悟はしててもいざ本当にそういう場面になった場合、恐怖で身体が固まって即座に動けるわけない。それに、みんな優しいからよっぽど追い詰められなければ相手を傷付ける選択はできないと思う。」
「追い詰められてパニックになって魔法が出せない可能性もあるよね。相手をいなせるように体術も必要だな。時間を稼げればその間に助けに入れるかもしれない。」

 私とあっくんに畑行きを阻止された優汰。

「そんなぁー!俺いつになったら畑行けるんだよ!」
「優汰に畑に行ってほしいのは俺達もだ。食い物は自分達の士気に直結する大切な物なんだ。このまま自由もなく飯まで不味い状況がひたすら続くと思えばヤル気が失われる。今はしーちゃんがお菓子を作ってくれてるからまだなんとか気分転換ができてるだけだ。特に香織さんや麗は、しーちゃんのお菓子が失くなったらキツいだろう。だからこそ優汰には早く畑に行ってほしいんだ。よし!特訓だな。」

 あっくんに特訓と言われ肩を跳ねさせる優汰。

「えっ!?俺だけ!?」
「そんなわけあるか!もちろん全員でだよ!」
「それは助かるわ!危ない目には何度もあったことがあるけれど、いつも話し合いで解決してきたから不安だったのよ。」
「カオリンそんな目にあったことあるの!?」
「あら?現地に行けばそんなのしょっちゅうよ。現地の人達は土地を荒らされるのではと心配していることがほとんどだから、コミュニケーションがとれれば大抵なんとかなるんだけれどね。」

 カオリンは案外肝が据わってるのかも。
 だから誰に何言われても態度が変わらないのか…
 カオリンにとっては、この冷静沈着さは1番の武器かも。

「じゃあこれからは優汰と金谷さんは俺。香織さんと麗と……絢音もしーちゃんが見てくれる?」
「任せて!」
「麗と金谷さんは今、魔力制御どんな感じ?」
「俺はあとちょっとだと思う。」
「えっ!?そうなの!?私は……もう少しかかるかも……」
「大丈夫だよ。焦っても良いことないし、急がせようとして聞いたわけでもないから。個人差個人差!」
「……うん。」

 暗い表情の麗。
 あっくんはこれからの方針を語る。

「全員が魔力制御できるようになるまでは練習場には行かない。全員に教えられるようになるまでは今まで通り俺としーちゃんだけで行って威力を高めたり何ができるかの検証を続けさせてもらう。ここでも強い魔法でなければ練習は可能だと思う。とりあえず優汰と香織さんはここで魔法の練習。魔法が駄目でも、魔力操作は必ず毎日やってほしい。操作が上手くなればそれだけ魔法の上達が早くなる。使う魔力量も格段に減る。」

 みんなの顔を見回しながらあっくんは続ける。

「体術は全員でやろう。練習場にいるのは第一騎士団の男ばかり。外に出て1番危険なのは香織さんだ。俺達男は騎士達に性的に狙われることはまずない。俺が散々脅してるから声をかけようにもかけられないだろうが油断はするなよ!」

 どれだけ時間があっても足りない。
 みんなに力をつけたいけど、私とあっくんも力をつけなければ交渉材料にはならない。戦場で役立たずのレッテルを貼られてしまえば矛先が違う人に向いてしまう。
 私とあっくんの練習場通いも止めるわけにはいかない。
 そんなことを考えていると

「ねぇ!私は?何で私の心配はしないの?」

 と、麗から声がかけられた。












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