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第171話 勘違いの答え①
しおりを挟む麗はこの世界で男と認識されている。
その事実を麗本人に言えずにいた。
年齢が多少ズレたことをかなり気にしていた。
女の子なんだから当たり前だけれど、そんな麗に性別を間違われているなんて…
とてもじゃないが言えなかった。
それがここで仇になってしまった。
私とあっくんしか知らない事実。
あっくんもその事実をバラそうとして言ったわけではない。魔法が使えないと思われているカオリンが狙われるのは当然。
しかも私とカオリンしか女がいないと思われていて、私はかなり強いことは知れ渡っている。
カオリンは綺麗だ。
おまけに私達はかなり幼く見えている。カオリンの年齢なんてわかるわけがない。
例え色が平民に近くても外に出てきたカオリンが狙われない理由がない。
だけど麗は男だと思われていたら騎士達に性的に狙われる危険度は格段に下がる。
あっくんは無意識にそれが発言として出てしまっただけ。
こうなっては黙ったままでいるのは結果的に悪い方へと向かってしまう。
麗が自分は女だと言ってしまうことも考えられる。
態々危険度を上げる真似なんてさせたくない。
あっくんの表情にも僅かに焦りの様なものが滲む。
「あっくん、麗に話そう。黙ってるのは良くない。麗にもちゃんと危険度を理解した上で言わないように協力してもらおう。」
「そう、だね。」
「2人で何をコソコソしてんのよ!!!」
「麗にも、みんなにも聞いてほしいことがある。聞いた上で協力してほしい。麗、怒らないで聞いてね。麗はこの世界で男の子だと思われてるの。」
私とあっくん以外の全員が一瞬固まる。
が、麗はすぐに復帰して
「はぁっ!?私は女よ!」
と大声で叫んだ。
「うん。地球のみんなはちゃんと麗が女の子だってわかってるよ。」
「何で男だと思われてるわけ!?」
胸がなかったとは…みんなの前では言えない。
麗に近寄り手招きし「服を作る時に上半身裸になったよね?その時、その……胸がなかったって…」と耳打ちをする。
「はぁ!?信じらんない!!それだけで男だと思われたわけ!?ち◯こついてねーよ!!」
ちょっと麗さん!!
そんなこと大声で言ったら折角胸がないって耳打ちした意味がないよ!
胸がないって言ったのバレバレじゃないか!
「採寸の時下は脱げとは言われなかったでしょ?それとも下も脱げって言われたの?」
もはや隠していても意味がなくなったので普通に話す。
「言われてない!
言われても脱がなかったけどね!!」
「うん。下を直接見てないんだからさ、わからないよね?」
「でも私にちん◯はないの!!!」
ちょっとぉぉぉ!
どうすればいいのよ!
やっぱり年齢の時と同じでヒートアップしてっちゃうよ!
「麗ちゃん?女の子がそんな言葉を大声で言うものではないわ。」
カオリンが宥めようと声を掛けるが麗の怒りは全く収まらない。
「でも!!納得できない!それに紫愛と川端さんは私が男だと思われてるの知ってたんでしょ!?なんで今まで黙ってたのよ!!許せない!!!」
「麗が傷つくと思って言えなかった。ごめんね。」
私は正直に謝る。
「謝るくらいなら隠してんじゃねーよ!」
「麗が歳とったっつってナイーブになってただろ?そんなやつに簡単に言えるわけねぇだろ!それに俺が勘違いさせたままのが安全だと判断したんだ。責めるなら俺だ!」
「それが何で安全になるのよ!意味わかんない!」
「単純に男に狙われるより女に狙われた方が物理的に安全だろーが!!男は力づくでくるが女は色仕掛けしてくるだけだろ!」
「色仕掛けって何よっ!!」
「色仕掛けは色仕掛けだろーが!!」
あっくんと麗の止まらない言い合いにカオリンが止めに入る。
「まぁまぁ、2人ともちょっと落ち着いて。麗ちゃんは年齢のことであれだけ過敏になっていたでしょう?言いにくくて当然よ。何をどう言ったって傷つけてしまうわ。紫愛ちゃんは麗ちゃんを傷つけたくなかったのよ。それに、男に狙われ続けるよりも女に狙われた方が安全なのも間違いではないと思うわ。回避可能ならそれをわざわざ覆す必要はないもの。」
「………じゃあ香織さんもこのまま黙ってろって言うの?」
「それは麗ちゃんに確認しなければわからないわ。麗ちゃんは危険な目に合う確率を上げてまで女であることをこっちの世界の人に広めたい?」
気不味そうに目を逸らし
「それは……ない、です。」
と、麗は言った。
「それならここにいる地球のみんなはちゃんと麗ちゃんが女の子だとわかっているのだから、秘密のままでも良いのではないかしら?川端君も紫愛ちゃんも麗ちゃんを守りたかっただけなのよ。ね?」
「…………はい。」
「それよりも気になるのだけれど、本当に胸が小さいだけで男だと思われたのかしら?」
喧嘩は終わりと言うようにカオリンは話を変えた。
「俺としーちゃんがそれを聞いたのはラルフからでした。ラルフが言っていたのは、髪の毛の長さ、服装、胸の有無。この3つで判断されたと。髪の長さは、平民でも麗のように極端に短い者はいないそうです。地球ではベリーショートは単なるお洒落の種類ですが、ここではその認識はないようですね。服装もTシャツにハーフパンツ。更に俺達は見た目より若く見られています。成人前の少年にしか見えなかったと言っていました。」
「でも……それにしたっておかしいわ。この世界でも胸の大小くらいあるでしょう?」
「俺もラルフに言ったんですよ。男と女では骨格から違うんだから間違うはずがないと…ましてや麗は17。そうしたらさっきの答えが返ってきたんです。それでラルフとしーちゃんと話して勘違いさせたままの方が麗の安全のためだとなり、ラルフには口止めしました。」
カオリンは麗に向き直る。
「麗ちゃん、答えたくなかったら答えなくて構わないけれど、胸のサイズはいくつ?」
「サイズ??」
「カップの話よ。」
「カップ??なにそれ。」
「地球でブラジャーをつけていたでしょう?そのサイズのことよ?」
「そんなのつけてないけど…」
「えっ?」
シーンと静まり返る室内。
ブラつけてないってどういうこと?
そんな女の子いるの?
いくら小さくてもブラくらい…
スポブラならあり得るのか?
「麗、じゃあスポブラでもつけてた?」
「すぽぶら?」
うそでしょ!!
それもわかんないの??
「ちょっと待って!!!その話続くの!?俺達部屋出るから一旦待って!」
あっくんは慌てだす。
そりゃそうだ。
男性にこの手の話は気まず過ぎる。
「え?何で出てくの?いればいいじゃん。」
麗ぁ!止めるなよ!
そこは恥ずかしがらないの!?
麗の恥ずかしがるポイントが不明すぎる!
「いいや!俺達は出る!香織さん!話が終わったら声かけてください!」
「わかったわ。」
金谷さんはさっさと席を立つ。
さすがに優汰も無言で立ち上がった。
2人が部屋を出た後にあっくんも出て行った。
しっかりと出て行ったのを確認してから
「麗ちゃんが嫌でなかったら、服を脱いでもらえないかしら?もちろん上だけ。1人で脱ぐのが嫌だったら私も脱ぐわ。」
とカオリンが言う。
「別にいいですよ。1人で平気です。」
そう言って麗は上だけ脱いだ。
そこには胸がなかった。
男だと思われているから胸当ての類すらなく、少しの膨らみもなく、完全な真っ平。
骨格も、丸みを帯びていることもない。
まるで痩せた子供のような体型。
「麗ちゃん、服の上から、少し腰を触ってもいいかしら?」
「??どうぞ。」
カオリンが麗の腰を触りだす。
その様子を見ていても、骨盤が出ている様子も見受けられない。
「ありがとう。もう大丈夫よ。服を着てちょうだい。」
カオリンはお礼を言い服を着るよう促した。
「この部屋に移動してから、麗ちゃんがこれは何に使うの?って聞いた布があったわよね?覚えているかしら?」
「はい。覚えてます。」
「あれは生理の時に使う物だからって言ったら、生理がきてないって言ってたわよね?」
「はい。」
「あの時は、この世界に連れてこられてから生理が止まったのかと思って大して気にしていなかったの。食料事情も悪いし、我慢するのにも限界はあるから食は細くなる。精神的なストレスもかかって生理が止まっても不思議ではないわ。元々地球でも生理が不順だったりしたのかしら?」
「いいえ。きてません。」
「……きていない?」
「はい。」
「きていないというのは、つまり、1度も生理がきていないということ?」
「はい。」
「初潮が、ない?」
「はい。でも、個人差ですよね?胸の大きさだって個人差。」
そんなわけないだろう。
17で生理がこないなんてまずあり得ない。
それに、胸も、本当になかった。
あれでは少年に間違われても仕方がない。
「麗、いくら胸がないって言っても、少しくらいは膨らむものだよ。」
「えっ!?でも貧乳って言われてた人達だって膨らみなんて全然ないじゃない!」
「いくら貧乳でも少しくらいの膨らみはあるもんなの。それに、17で生理がこないのも遅すぎるんだよ。それはもう個人差とは言えないの。もしかして、子宮や卵巣に病気があったんじゃない?」
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