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第207話 畑の土
しおりを挟むハンスが走り出し私とあっくんもそれについていくが、遅いっ!!!
「ハンス遅いっ!優汰の畑何処なの!?」
「こちらを真っ直ぐ行けば着きます!」
「先に行く!みんなを案内して!」
その言葉を残し私はダッシュ。
「お待ちください!お1人ではっ!紫愛様!!」
「……うそだろ?しーちゃん足早すぎ!!」
「川端君!?何故1人で行かせたの!?」
「違いますよ!置いていかれたんです!あんなスピード追いつけませんよ!ハンス!畑はそんなに遠いのか!?」
「いいえ!さほど遠くありません!」
「なんなのよあれ!!オリンピックでも優勝間違いなしでしょ!何であんなに超人なのよ!!!」
「速すぎ…」
そして私は1人で優汰の元へ辿り着いた。
優汰に付いている護衛3人はダッシュで来た私を見て目をまん丸にして驚いている。
「紫愛ちゃん!ねぇ!さっきビームみたいな光がきたんだけど何か知ってる?俺ビックリしたよ!すぐ消えたし、気になったんだけど俺は畑行かなきゃだしさぁ!」
「大丈夫、何も問題ない。それより畑見に来た。」
「あ!そうそう!あっち見てみ?」
私は優汰を探しながらダッシュしていたから優汰以外を視界に入れていなかった。
優汰が指差す方向を向くと、そこには砂に植わった野菜野菜野菜。
「本当に砂に植わってる…」
「でしょ!!」
足元の砂を掴んでみるけど、サラッサラ。
どう見たって触ったって砂だ。
「ここの畑は全部この砂なの?」
「そうだよ!どう考えても頭おかしいだろ!?」
これで野菜を育てようだなんて無謀も良いところ。魔力与えて野菜が育つのだって不思議でしょうがないのに。
「ねぇ、逆に考えたらさ、砂漠でもどこでも野菜が作れるってことじゃないの?」
「そりゃ砂漠に住むやつ理論でしょ!?ここでは態々砂持ってきてるんだよ!?周りは土なのに!!!」
「土だと手間がかかるってことなんじゃない?」
「手間ぁぁぁ!?野菜は手間暇かかるもんなんだよ!」
激昂する優汰。
そこへやっとみんなが到着した。
「しーちゃん!はぁはぁはぁ……1人で行動したら、はぁ駄目だよ!」
「あっくんめっちゃ息切れてない!?」
「しーちゃん、が!はぁはぁ、速すぎ!だよ!」
「だって早く戻りたかったから。」
「なにかあったら、はぁ、どうすんの!?」
「大丈夫でしょ。私は殺すの躊躇わないんだから問題ないよ。みんなもお疲れ様!」
あっくん以外は言葉を発する事もできないほどゼェーハァーしている。
労いの声だけ掛けて優汰に向き直る。
「だからさ、土だと雑草も生えるでしょ?それに下からの虫の被害とかも、土だからこそだよね?そこまでの時間をとられたら人手が足りなくなるってことなんじゃないの?」
「紫愛ちゃんの言ってることはわかるよ!でもそれは土で野菜育てるって基本がわかってこそじゃん!?ここの奴らは魔力与えられてない野菜を食べること自体考えられないって言うんだよ!そんなの食べるなんて貴族じゃないって言うの!」
「ん?じゃあ平民は土で育てた野菜食べてるってことじゃないの?」
「そう!」
「平民が育てた野菜はどうなの?」
「俺達が食べる分の野菜は入ってこないよ!入ってくるのは人間が食べない飼料!それだって皇帝や俺が食べる分はここで作ってるし、使用人達が口にする分だけしか入ってきてない!」
「それ、食べさせてもらった?」
「食べたよ!同じようなもんだった!大体品種改良されてない原種ばっかなんだからどれも美味いわけない!」
「同じなら魔法で手早く作っちゃおうってなっても不思議じゃないんじゃないの??」
「魔力使って育てた野菜じゃないと駄目なんだってさ。魔力の回復が追いつかないらしい。」
「は??魔力使って野菜育てて、それを摂取して魔力回復してんの?」
空気中にある魔素を取り込んでいるんじゃなかったの?
「そう!野菜に与える魔力は少しで良いらしくて、1番効率が良い方法がこれなんだってさ!」
「じゃあ私達だってそれ当て嵌るよね?育て方変えたら駄目なんじゃないの?」
魔法が使えなくなったら意味がない。
「だからぁ!!直接野菜じゃなくて土に魔力与えて育てて魔力回復もして味も美味かったらそっちのが良いでしょ!ってことなの!」
「色々説明不足が過ぎるよ!初めて聞いたことばっかりだよ!!」
「そうだぞ!食い物から魔力回復させてるなんて初めて聞いた!」
息を整えたあっくんが会話に入ってくる。
「俺だって畑来る前は知らなかったよ!」
「でもカオリンの最初の説明では空気中から勝手に取り込んでるって言ってなかった?本が間違ってんの?それともその考え方が最新過ぎて本に載ってないの?」
「昔の本は間違ってないと思うわ。多分魔力を与えて育てた野菜を接種した方が回復が早いのではないかしら?」
「別に食べても食べなくてもいいってこと?」
「紫愛ちゃん、ここは魔法至上主義なのよ。魔力が足りなければ魔法は使えない。平民は生命維持に使うのみで魔法自体使えないから魔力有りの野菜を食べる必要性はない。対して貴族は?魔法が使えなければ貴族としては認められない。魔力有りの野菜の摂取が必要不可欠になっていったとしても不思議ではないわ。この育て方をいつからやっているか、それが話の肝になるわね。」
今まで野菜を食べて魔力が回復した実感なんて少しも無い。
「そこまで回復量が違うのかなぁ…」
「もしかしたら魔力量の多い私達にはわからないくらいの量なのかもしれないわね。でも、下位貴族になればなるほど魔力の総量が減っていく。例えば私達の総量が1000だったとして、そこに20の魔力が増えてもたったの2%。何も感じないでしょうね。でも、総量が100しかない下位貴族の魔力が20増えたら?20%増だわ。」
「それじゃあ下位貴族の方が食べなきゃいけないんじゃないの?」
「どれをどれほど摂取して、どれだけ魔力が回復するかわかっていなければ?具体的な数値として出ていなければ、強い魔法が発現できる人間の優先順位が高いに決まっているわ。いざと言う時に魔法を使ってもらわなければならないんだもの。」
「そうですね。比較的新しい情報ならば魔法具にもその数値の計測器なんてないでしょうし。」
目で見て確認できる術がなければ感覚頼りになるに決まってる。
「俺は直接野菜に入れこんでそれで野菜が育つって言うんなら、土に入れても野菜が魔力吸ってくれると思うんだよね。もし野菜が魔力を吸ってくれなくて人力で入れこまなきゃいけないなら、美味い野菜作った後に入れこめば良いじゃんって思ってんだ。」
「優汰君の言う通りだと思うわ。それに、魔力が回復すると言ってもどの程度なのかさっぱりわからないんだもの。」
「優汰は土で作られた野菜食べて、いつもと何か違うなって感じた?」
「何にも感じなかった!味も大して変わんないね!」
「じゃあ優汰には引き続き美味い野菜を作ってもらって、それ食べてみてから考えるってことでいいな。金谷さん、土混ぜ込んでもらってもいいですか?」
指名された金谷さんは優汰に聞く。
「範囲の指定と土の柔らかさ、あと混ぜ込んだ後の土は平らで良いの?」
「とりあえず混ぜてくれれば何でもいい!ここから!」
優汰はダッと走り出し
「ここまで!お願いします!」
範囲の指定をした。
「混ぜ込む土はどこ?」
「こっち!!」
優汰がまた走り出す。辿り着い先には色々な種類の土の山が沢山あった。
「全部混ぜていいの?」
「うん!お願いします!」
それを聞き金谷さんは全ての土の山を持ち上げ空中で混ぜた後、指定された範囲に均一に撒き、畑の砂がグワッと撒かれた土を飲み込んでウネウネとしたと思ったら
「終わった。」
完了の合図が出された。
「ぉ、おおっ!おおぉぉぉぉぉぉっ!!!」
優汰は雄叫びを上げながら畑の土に魔力を流す。
土の認識が成されたんだろう。
優汰の魔力で畑の土が動き出す。
「金谷様っ!!!ありがとうございますっ!」
「ククッ良いよこれくらい。」
平身低頭な優汰が面白かったんだろう、金谷さんはまた肩を震わせて笑いを漏らす。
「あとは虫だぁぁぁ!!!」
「は?虫って何よ!」
麗が聞く。
「ミミズとかワラジムシとかヤスデとかだよ!」
「ヒィッ!!それ畑に必要なの!?」
「当たり前だろ!?今混ぜ込んでもらった腐植にも微生物は沢山いるんだ!虫がいなきゃ大きな物の分解は時間がかかり過ぎるだろ!?それに虫がいなきゃ土の中に酸素も入っていかないしすぐに土が固まっちゃうんだよ!」
「それ優汰が集めてくるの!?私絶対手伝わないからね!!!」
麗は完全に拒否。
「集めるにしたってどこから集めるつもりなんだ?」
あっくんだって不思議そうにしている。
「そりゃーいそうな所教えて護衛達にお願いする!」
優汰以外の全員が畑の脇に立っている護衛に同情の視線を送った。
護衛達はある程度の距離があるため会話は聞こえていないだろう。呼ばれているわけでもないのに視線が送られ意味がわからず困惑している。
「手伝えと言われてもそんな時間はないからどうしようかと思ったけれど、それなら大丈夫そうね!」
カオリンはそう言って笑顔を見せる。
「じゃあもう戻ろう!!!」
畑はとりあえず一件落着!
早く戻って絢音の様子を確認したい!
「しーちゃん待って!1人で戻るのだけは絶対駄目だ!アイツに何されるかわからない!戻るなら全員でだよ!!!」
「そうよ!あんなスピードで走られたらとても追いつけないわ!」
「待ってよ!俺も戻らないと駄目なの!?」
優汰から文句が出る。
「優汰はそのままここに居てもいい。俺達は戻る!暗くなる前には戻れよ!」
「わかったぁ!」
そう言って優汰以外の全員でハンスに先導してもらい部屋に戻った。
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