水と言霊と

みぃうめ

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第208話    sideケーニヒ①

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 地球という星から8人のヒトが呼び出された。
 常に行われることであり、特別なことではない。
 興味があるのは、私達と同じ者が居るかどうかのみ。
 その確認さえできれば日常に戻る。

 およそ2000年周期での呼び出しは私達にとってそれ程長い時間ではない。
 自らがヒトだった時とは違い、時間の概念が無いに等しい。
 有限だったモノが無限に、概念が消失しつつあるのは当然。

 呼び出されるヒトの数は回数を追うごとに少なくなった。
 それに伴い私達と同じ者の出現も激減した。
 絶対数が少ないのだからそれも当然。
 今回も期待は無かった。
 だが、現れてくれたのだ。
 加えて何たる器の大きさよ!
 地球人たるヒトはこの国のヒトよりも器が大きい者達が多いが、この子は今までで1番の器。
 この器の大きさであれば!

 我等は陽の下でしか魔力を使えない。
 その者の有事の際に守りたくとも、その者達の魔力を使わなければ守れない。だが、その者達の器は尽く小さく、守ろうとすると同時に器が壊れ死んでしまった。
 来る度に今度こそとは思うが、我等がこの子の魔力を使用して死なない保証はない。
 この子が自ら魔法を使用する時まで観察し、待たなければならない。


 その子の名前は絢音と言った。

 ‎ 我々はすぐに絢音がどんな人物かを探った。
 大人の風貌、しかし中身は子供だとすぐに判明した。
 私はすぐに絢音が『ママ』と慕う人物の形を模した。
 だが難があった、意思疎通ができないのだ。
 私の姿を見ることは可能、しかし意思疎通ができなければ絢音には物言わぬ『ママ』の姿の視認のみ。
 絢音の中の『ママ』は意思疎通ができる存在だった。不安を煽ってしまうかもしれない。
 
 更なる大きな問題はあの異端者だ。
 口にするのもおぞましいあの異端。

 地球から来た時点で既に彼奴は見たこともない混交。
 絢音が部屋に籠る間は問題はなかった。
 だが些細な事から接触が生まれて以降、異端者は事ある事にこの子に接触を図る。

 当初はまだ許容範囲。
 この子の精神的な安定、更にピアノなるものの用意。
 それでこの子の魔法の発現がピアノに起因することが発覚した。
 惜しくも異端者の行動により、この子との意思疎通も可能になった。私達は妖精だと理解し易く教え、この子が光の因子を持つ者であることを1番に伝えられた。
 それと同時に、この世界で過去に光因子を持つ者が排除されてきた過去も簡潔に伝え、危険故、光の因子を秘密にするようにと口止めもできた。

 だが、故に。
 何故、この子に構い続ける。
 
 あの異端者が接触を増やすほどこの子の危険は増す。
 何より、この子に何かの面影を重ねている。
 この子の為と吐きながらこの子自身を見ていない。
 この子を守りたいのか突き放したいのか不透明。

 異端者めが。
 巫山戯るのも大概にしてもらいたい。この子に近付くなと更なる忠告をするべきか。
 

 魔法の練習の際、この子が怖がり異端者を拒否した。

 やっと、やっと、この子は理解したのだ!
 
 この子と会話をする度に、幾度となく異端者に近付かないようにと言葉を選んで伝えても首を縦に振ってはくれなかったが、やっとその危険性を感じてくれたのだ。
 繋がりが切れれば少しは安心だ。

 が、甘かった。

 あの異端者は部屋への道中、騎士達を昏倒させた。
 それ自体は水魔法の魔力だ。
 問題はのち、騎士達が昏倒した後に辺りに残り漂うおぞましい気配。

 何故、何故呑まれていないのにその力が使えるのか。
 その場にいた私の部下達は必死であの子を守った。
 あの大きな身体のヒトが咄嗟に背に庇わなければ、間に合ったかどうか。
 異端者はあまりに危険。
 私の理解が及ばない存在。
 呑まれるのではなく混ざりあって行くのみの化け物のようなそれ。
 どうしたら排除できるのだ……



 そしてとうとう容認できないことをした。
 怖がるこの子を叱りつけたのだ。
 親でもなければ守る力も持ち得ない、光の魔力すら感じない異端が!
 お前に一体何の権利があるというのだ!
 存在そのものが害悪でしかないお前に何故私達の大切な愛しい子を叱りつける権利があると思うのだ。
 異端などさっさと呑まれて消えろ!

 ……そうだ、呑まれてしまえばいい。

 過去には異端者のようなおぞましいモノの片鱗を見せる者もいた。
 だが、一度呑まれてしまえば自死か器の破壊かで絶命する。
 過去の異端者の精神状態はいつだって不安定だった。
 それは彼奴も例外ではない。
 精神の未熟、ゆえに不安定。
 そこを揺さぶれば自然と崩壊する。
 崩壊へ導いてやろう。

 この子を叱り飛ばした後、部屋から出て行く異端者達。
 異端者に考えろと言われ素直に考えだすこの子。無意識なんだろう、考えながら運指を始めた。
 ピアノを引かずとも運指だけで光魔法の発現が可能なことを知った。
 
 この子の周りにいる部下達が
「ケーニヒ!今が好機です!
 私達が範囲の拡大と固定、運用をしますから異端者の元へ急いでください!」
「早く早くっ!ケーニヒ!急いで!」
「早くしないとこの子がいつ止めちゃうかわかんないよ!」
 口々に急かされる。
 
 光の因子を持たない者は、光魔法の範囲内に居なければ私達を視認することは不可能。
 この子もまた、自力での制御ができないうちは視認可能なのは魔法を発現させた時のみ。

 光魔法の運用をしない残りの部下達にこの子の魔力制御の手助けを命じ外に出た。
 そして、異端者の精神を揺さぶりに行った。
 異端者は確かに精神が不安定になった。
 だがそれだけだった。
 もっと直接的な言葉の方が良かったかと後悔する。
 精神的に追い詰められているのはこの子も同じだった。
 
「ぼく、なにもできない。
 みんなみたいにまほうつかえない。
 にげてばっかりのよわむし。
 ひかりのまほう、ようせいさんがみえるだけ。
 ぼくもみんなをまもりたいのに!」
「絢音が何もできないなんてことない。
 光の魔法はとっても強いんだよ。
 絢音が使えるようになるまでみんなで手助けするから大丈夫。」
「まま、てつだってくれるの?」
「うん!一緒にやろうね。
 光の魔力はもう感じた?」
「ちいさいよーせーさんがやってくれたみたいだけど、ぼく、わからなかったの。」
「大丈夫。今度はママとやってみようね。」

 部下達はかなり魔力の総量が少ない。
 あの小さな身体を保つほどの魔力量しか持たないのだから当たり前だ。
 保つ身体が小さくなればなるほど、人間だった時の記憶も失われていく。
 私ほどの姿と記憶を保つ者はいない。
 だからこそ皆からケーニヒと呼ばれている。

 私が魔力を流すと
「あったかい。」
 と、この子が言う。
「そう。それが光の魔力だよ。
 それが絢音の中にもある。
 絢音が集中して感じてくれれば、妖精さん達が制御を助けてくれるからね。」
「ぼく、がんばる。」
 そう言った夜には、集中すれば自力で魔力を感じることが可能になった。
 感じてくれれば制御は容易い。
「よく頑張ったね。」
 と、部下達と共にこの子を労っていると
「ぼく、みーちゃんとこいく。」
 と言って立ち上がった。
「待って!どうして行くの?」
「ぼくかんがえた。
 みーちゃんにごめんなさいしたい。」
「絢音が謝ることなんて何もないよ?」
 絢音は首を横に振り、部屋から出て行ってしまった。
 二人きりになどさせられるわけがない!
 さっき精神を揺さぶったばかりでいつ呑まれるかもわからないのに!
 私もついていこうとしたが、ケーニヒに何かあれば取り返しがつかないと部下に阻まれる。
 仕方なくありったけの部下についていくように命じるしかできなかった。

 この子が異端者に謝罪し、魔力制御を見せ、異端者の部屋を出ると同時におぞましい魔力が異端者の部屋の中に渦巻いた。
 何故このタイミングで?
 この子は謝罪し魔力制御を見せ、おまけに異端者にキスまでしたのに。
 しかもこの魔力量。
 この前の騎士達の昏倒の際の魔力も、言わば漏れ出た程度だったのだと理解した。

 今度こそ呑まれたか?
 ならばそこにいては絶対に守れない!!!
 慌ててこの子を部屋に招き入れ結界を張ろうとしたところで、急に悍ましさが消え去った。

 絶命、したのか?


 いや、していない!!!
 何故だ!!!あれ程の魔力放出をして何故呑まれもせず自死もしない!!!
 何故水の魔力と混在が可能なのだ!!??
 何故だ!何故!?
 その時だった。

 カチン

 と、軽く響きわたる音。
 一瞬意識が飛んだようにも思えた。
 この子と部下達を見ても何も反応していない。
 私だけに聞こえたのか?

 音の出処を探ろうと視線を動かすと、異端者の部屋の方で視線が止まる。
 いや、動かせないと言った方が正しい。
 なんだ、あれは?
 異端者は本当に人間なのか?

 そう思ってしまうほど異様な光景。
 異端者の身体の中を水の魔力と悍ましい魔力がマーブル状に渦巻いていた。


 何とかこの子にあの異端者に近付かないように言わねば。
「絢音はあの人のことが嫌じゃないの?」
「どうして?」
「だって怒られてたし。怖かったよね?」
「ぼく、みーちゃんすき。
 ぼくのためにおこってくれた。
 いやになるわけない。」
「………………んーーーーー。
 そっかぁー。好きかぁー。」

 誘導にも乗らない。
 手詰まりだ……


















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