水と言霊と

みぃうめ

文字の大きさ
247 / 346

第247話    ギトー辺境伯領 魔物

しおりを挟む



 次の日、いつも通りの時間に馬車に乗り込み出発。

 平民街を進むにつれ、段々と建物がボロくなっていくのを感じる。
 と、思ったら、急に綺麗な建物が見えた。
 建物もそうだけど、屋台の様な物まで見える。
 それをあっという間に過ぎると、広い土地に突入した。

「ギトー辺境伯家の敷地に入りました!」

 外からハンスに声をかけられる。

 ここがラルフの実家かぁ。
 広い土地にいくつもの建物が建ち並び、奥にはそびえる塀。
 ハンスが8mはあるって言ってたな。
 まだかなり距離があるにもかからわず、かなり高いことがハッキリと確認できる。
 そういえばスラムが見当たらなかったな。
 もっと奥にあるんだろうか?

 かなりの広さが確保された場所に馬車が停車する。

「お疲れ様です。到着いたしました。」

 ハンスが声かけとともに馬車の扉を開ける。
 あっくんと馬車を下りると、塀にかなり近かった。思わず見上げてしまう。

 塀の上には見張りらしき人影が複数。
 ちょっとした見張り台の様なものまである。
 あんなに高い所から見張っていれば魔物も見逃さないだろう。
 塀には大きな門に加え、人が並んで2人通るのがやっとという小さな扉が門を挟んで左右にあった。

「あちらが本日から宿泊していただくギトー家になります。お疲れでしょうし荷物もございます。まずはお部屋にご案内いたしましょうか?」
「そうしてくれ。腰が痛くて仕方ねぇ。」
「私も。道酷かったね。」
「ではご案内いたします。」

 ラルフの実家なのに案内はハンスなんだなぁと考えていたら、見張り台から

 カンカンカンカン

 と、金属を打ち鳴らしたような音が聞こえてきた。

「何事??」
「動物か、魔物ですね。」

 ハンスは淡々と答えながら門の方を注視している。
 私達もそれにつられて門を見る。
 門の下では辺境の騎士団と思われる人達が直ぐ様騎乗していた。
 小さな扉の方は左右両方開け放たれている。
 すると小さな扉の右側から数名の子供達が飛び込んで来たのだ。
 子供達は飛び込んで来たと同時に笛の様な物を吹く。

 ピーピーピーピーピー

 それを合図に、門が開かれ既に騎乗していた辺境の騎士達は飛び出して行った。

「何で外から子供達が入ってくるの!?まだ外に人がいるの!?」
「そうだ!!!あり得ねぇだろーが!!!」

 子供達は全力疾走してきたんだろう、みんな肩で息をしてる、しゃがみこむ子もいた。

「どうやら魔物だったようですね。ですが大丈夫ですよ。上の鐘を叩く音が止んでいますから。どうなさいますか?塀の外へ向かいますか?それとも部屋へ移動なさいますか?既に魔物は討伐されているようですが、新たに魔物が来ないとも限りません。」
「行く!!早く!!!」

 何でそんなに落ち着いてんのよ!
 子供達が外から入ってくるのなんて考えられない!逃げ遅れた子達がいるかもしれないでしょ!!

「では馬車へお乗りください。」

 あっくんと私は馬車へ飛び乗る。
 ハンスとニルスは直ちに騎乗し

「このまま外へ出る!!騎士団員達も後を追ってこい!!」

 辺境へ到着してから荷降ろしや片付けをしている者も多く、ハンスやニルスのように馬が隣にいない者も多い。

「早く出してっ!!!」

 騎士団達の準備なんて待ってられない!
 本当は走り出したいのをぐっと堪えている。
 右も左も分からないここで勝手な行動はできない。苛立ちが募る。

「では行きます!!」

 私達の乗った馬車を挟みハンスとニルスが馬で駆ける。
 門を抜け、逃げ遅れた子供がいないか馬車の窓から顔を出し確認すると、馬車の前方から子供だけではなく大人も何人も走ってきていた。

「逃げてぇー!!!!!」

 力の限り叫ぶ。
 逃げてくる人達とすれ違いながら進む。



 そこには信じられない光景が広がっていた。



 集落がある。
 人の姿は見当たらない。
 どうして?塀の外だよ?
 もしかしてもっと遠くに更に塀があるの?
 遠くの方を見てもそれらしき物はない。
 見えているのは、多分森。

「ここ外だろ!?何で外に人が住んでるんだ!?ハンスが言ってたスラムって外なのか!?なんで塀の中に入れてやらねぇんだ!!」

 あっくんは馬車の中からハンスに向かって怒鳴り散らしている。かなりスピードを出しているため馬車の音と馬の駆ける音が煩く、ハンスに声が届いているかはわからない。

 そういうこと?スラムって外のことなの?

 その集落は門から200mほどしか離れていなかった。
 馬車で駆け抜けてきたため、すぐに到着する。
 そこには先に出て行った辺境の騎士達の姿があり、ハンスが言った通り魔物の姿はどこにもなく討伐は既に終わっているようだった。

 ハンスは騎乗したまま辺境の騎士達に

「状況は?」

 と尋ねる。

「大型の狼のような魔物が2体だけでしたのですぐに終わりました。」
「そうか、いつもの通り頼む。」
「「「「「「はい!」」」」」」

 ハンスは落ち着き払っている。
 その様子に、辺境ではこれが通常なんだという雰囲気を感じる。
 私達は馬車から降り

「おい!!!スラムが外にあるなんて聞いてねぇぞ!一体どうなってやがる!!!」
「そうだよ!子供達が危険な目に合うなんて!」

 あっくんと私は口々にハンスに詰め寄る。

「そのお話はギトー家に戻ってからいたしましょう。間もなく中央の騎士団員もここに到着します。暫く様子を見てからギトー家に戻ります。ここには辺境の騎士達が残りますので。」

 ハンスはここで話す気はなさそう。
 わざと淡々と説明口調にしている感じすらする。

「巫山戯んなよ!これじゃあほんとに餌じゃねぇか!!」

 あっくんの怒りは止まらない。

 が、そんな話をしている時間はなかった。
 集落よりもさらに奥、森付近から

 ブォォォォーーーーーーーー

 と、低く鳴り響く音。

 今度は何!?

「お2人共!!!魔物が来ますっ!!チッ   まだ騎士団員が揃っていないというのに!」

 私達の後方からは騎士達が続々と近付いてきているけど、まだ少し距離があった。
 辺境の騎士達は既に臨戦態勢。
 騎乗している人もいる。

「しーちゃん!気をつけて!俺から離れないで!!」
「あっくんも気をつけて!」
「ニルス!お2人の前に出てお守りしろっ!」
「はい!!」

 森の方から、土煙が上がる。
 その数4。
 それが遠目から見ていても物凄い勢いでこっちに近付いてくるのがわかる。

 なんだろう、この感じ…
 まだ姿も見えないのに、握りしめた手に汗をかき、息がしにくい。

「来るぞ!!!油断するな!!」

 誰かの声が聞こえる。

 後方からの騎士団員の増援はまだ。
 魔物の方がこっちに着くのが早い!
 魔物の咆哮ほうこうが響き渡る。
 この場の全員が迫り来る魔物に意識を集中している。
 魔物が目視できる距離まで近づいてきた時、私は息ができなくなった。



 どうしてかわからない。
 でも、確かに魔物から感じる。

 激しい恐怖
 耐え難い痛み
 筆舌に尽くし難いほどの憎悪

 それがダイレクトに私に流れ込んでくる。

 そして気がついてしまった…

 私は無力感に包み込まれる。
 私はこれを知っている。
 父親と対峙していた時と同じだ。
 

 クルシイ
 イタイ
 ツライ
 ユルサナイ
 コロシテヤリタイ


 息ができないまま膝から崩れ落ちる。
 身体の震えが止まらない。
 嫌な汗が噴き出す。
 みんな目の前の魔物に意識が奪われている。
 そんな私に誰も気がつかない、と思った。

「しーちゃん!!!!」

 その声はあっくんだった。
 今にも倒れ込みそうな私を抱き留めてくれる。

「邪魔だっ!!どけぇぇぇ!!!」

 あっくんの怒号とともに、ガンッと大きな音が響き渡る。
 辺りが一瞬静寂に包まれ、ガヤガヤとしだす。

 私はあっくんの胸の中で意識が朦朧としてきた。

「しーちゃん、もう大丈夫。ゆっくり息をして。」

 いつの間にか私はあっくんの膝の中。
 あっくんの大きく温かい手が背中を撫でる。

「大丈夫、何も心配ないよ。」

 あっくんの温かい体温と優しい声色。
 他には何も聞こえない。
 少しずつ呼吸ができるようになってきた。

「…………あっく……あ、りがと…う」
「俺は何もしてないよ?」

 その言葉に首をゆっくり横に振る。
 首を動かしたからか、密着しているからか、落ち着く匂いがする。

「……フフッ…………」

 忍び笑いが漏れる。

「しーちゃん?」
「あっく、んの……におい…が、する……」

 その言葉を口にして、私は意識を失った。













しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

生贄公爵と蛇の王

荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
 妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。 「お願いします、私と結婚してください!」 「はあ?」  幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。  そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。  しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。

処理中です...