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第263話 side香織 出発後②
しおりを挟む「最短で行けるよう手は尽くしますが、今すぐは不可能でございます。
魔法具と同じとお考えください。
その代わりに、私が御用意できる物であればすぐにでも手配いたします。」
まぁ、当然そうなるわよね。
私もすぐに行けるとは思っていなかった。
魔法具も本もこの国の根幹の部分なのだから、言わば重要文化財。
誰彼構わず見せるわけにはいかないでしょうね。
最短で、と、トビアスさんが言ってるのだから、魔法具の時のようにあらゆる圧をかけて手配してくれるはず。
魔法具は最短でも五日と言っていたわね…
長いわ。
書庫に行けるようになった時のために今できること、トビアスさんが集められるような資料、と考えると…
「では、この聖書の写しが欲しいわ。
なるべく古い物、且つ、丁寧に一言一句違えず写すような家庭の物なら尚良いわね。
それを、出来得る限り沢山。
可能かしら?」
「勿論でございます。
すぐに手配させていただきます。」
そう言い部屋を去るトビアスさんの背中を見つめながら、聖書が届くまでどう過ごそうか思案する。
そうだわ、魔法具の中にも文字が書いてあると言っていたわよね。
魔法具も気になるし、金谷君が修理しているのを見てみましょう。
書庫への許可が下りれば私は書庫に入り浸りになると思うし、金谷君もある程度落ち着きを取り戻したから、麗ちゃんと絢音君のそばで二人を守ってもらいながら修理はロビーでやってもらいましょう。
「金谷君、魔法具の作業はロビーでしてもらえないかしら?」
「香織さんの邪魔になりませんか?」
「私も魔法具の中の文字が気になっているのよ。
それに、今後私が書庫に行っている間は二人のそばにいて守ってほしいの。」
「集中して一人でやりたい時はどうすれば良いですか?」
「その時は言ってくれれば私が書庫へ行くのを控えてここにいても良いわ。
臨機応変にいきましょう。」
「わかりました。」
「魔法具の修理は見ていても構わないかしら?」
「大丈夫です。」
金谷君は部屋に持ち帰った魔法具10個をロビーへ持ってきて、食卓の上でその中の一つを分解し始めた。
一定の手順を踏んで行われるそれ。
「魔法具はからくり箱のような感じなの?」
「はい。多分、小さい魔法具は簡単に崩れないように複雑にしてるんだと思います。
ここに文字のようなものがあります。」
金谷君は分解した魔法具の一つを差し出して教えてくれた。
それは本当に小さな小さな文字?かしら?
こんな小さな文字、私は老眼が始まっているから見えないわよ!!!
と、思ったけれど、見えるわね……
まさか老眼も白い箱の中での身体的マイナス補正に入るのかしら?
何にせよ、見えて良かったわ。
じぃーっとその文字を見つめる。
文字には違いない。
これは灯りの魔法具と言っていたわね。
文字が魔法陣…じゃないのかしら?
てっきりそうだと思っていたんだけれど、それだと金谷君が直せる説明がつかないわ。
「これをどうやって直したの?」
「そこに彫ってある溝が回路の役割をしてて、回路が詰まってたり欠けたりしてたから動かないんじゃないかと思ったんです。
欠けてるのは直せないからそこは交換。
詰まってたらゴミを取り除く。
そうしたら直りました。
文字がどういう役割をしているかはわかりません。」
「では、金谷君の予想は当たっていたということね。
凄いわ!
私も頑張らないといけないわね!」
「よろしくお願いします。」
金谷君が分解した部品を舐め回すように見ているのを横目に、まだ分解していない残り9個の魔法具を手に取り、見る。
組んである時は真っ白で繋ぎ目もないのに分解できるなんて不思議だわ。
よくからくり箱だと見抜いたわね。
日本にあるからくり箱って手順を踏んだら少しずつズレたりするものなのに、それもなかった。
素晴らしい推察眼だわ。
魔法具の中に書いてある文字は小さく見にくいけれど、これは私達がいる箱の外に書いてある文字と同じように見える。
……………待ってよ、文字が同じ?
まさか私達が住んでいるこの箱も魔法具?
灯りの魔法具に繋ぎ目はない。というよりも目に見えない。
ではこの箱にも、見えないだけで繋ぎ目はあるということ?
これは安易に口にはできないわね。
もし口してしまえば、それを聞いた金谷君はじっとなんてしていられないわ。
中身が知りたくて破壊を選ぶ子なのよ?
もし魔法具だとして、バラせたとして、元通りに直せるの?
今ここには川端君も紫愛ちゃんもトビアスさんも居ないのに住む所が失くなるなんて絶対無理よ?
黙っていましょう。
こうなってくると、本当に魔法具に書いてある文字がどういう役割を果たしているのかが気になるわ。
他の魔法具も見てみたいわね。
もう一つの大きな灯りの魔法具を持ってきてと頼もうと思ったけれど、金谷君はかなり修理に集中していて声をかけるのは躊躇われる。
この箱の外壁にも文字は書いてあるけれど、読めもしないのに見るだけのためにこの箱の外には出たくない。
あっ!あるじゃない!
私はピアノの上に置いてある遮音の魔法具の存在を思い出した。
万が一にも落とさないように両手でそっと手に取り、色んな方向から見てみる。
やっぱり繋ぎ目はわからないわね。
手に持ったまま、スイッチを押して起動させてみる。
すると、魔法具の底がほんのり光った気がした。
裏返して確認してみると、薄ら光を帯びながら文字が浮かび上がっていた。
ん?
さっきまで文字は無かったわよね?
スイッチをを切りもう一度底を確認してみると、文字は消えていた。
どういうことかしら?
魔石にある魔力に反応して何らかの作用をしているということ?
でも今金谷君が修理している魔法具の中の文字は魔石の魔力がなくても消えたりしていないわよ?
んんん?
一人ではすぐに行き詰まる。
こういうことはやはり専門家の意見が重要だけれど……
金谷君に言うと壊されてしまうかもしれないわよね?
遮音の魔法具は数が少ないと言っていなかったかしら?
おまけにこの遮音の魔法具は壊れてもいない。
いくらなんでも壊れていない魔法具を壊してしまったら言い逃れは難しくなるわ。
これも今意見を聞くのは悪手だわ。
金谷君にある程度の魔法具が揃ってから聞いてみるしかないわね……
トビアスさんが30冊ほどの聖書を抱えてきたのはそれから二日後だった。
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