水と言霊と

みぃうめ

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第294話    魔物襲来②

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「来ますっ!!!」

 地響きが、する。
 咆哮が轟く。

「そんな……」
「何だあの数は!?」
「終わりだ…」
「死にたくない!」
「怯むな!!何としても死守せよ!!!」

 騎士達の絶望と鼓舞する声が聞こえてくる。
 魔物達の感情の波が押し寄せる。
 身体が硬直し息の仕方もわからない。
 そんな私を抱き締めていたあっくんの腕に更に力が入る。

「しーちゃんじゃない!!苦しいのはしーちゃんじゃないんだ!!!」

 その言葉でパニックに陥りそうだった私を現実に引き戻してくれた。

「……だい、じょぶ。」

 苦しいのは相変わらず。
 鼓動がバクバク煩い。
 でも、体の強張りはマシになった。
 そんな私を確認し

「やるよ!準備して!」

 あっくんの右腕が解かれる。
 魔物を直視し、その数に驚く。
 さっきの倍、いや3倍?
 いや、数なんて関係ない!
 やることは1つ!
 魔物の直上に鋭いツララをイメージする。
 無数に!埋め尽くすように!
 周りの温度が急激に下がっていく。

 ガンッ!!!!

 凄まじい音と共に、瞬時に見渡す限りの針山が出現した。
 騎士達がどよめく。
 串刺しにされた魔物達は悲鳴にも似た鳴き声をあげ宙に浮いている。
 その姿に、声に、涙が溢れる。

「しーちゃん!!」
「はいっ!!!」

 今楽にしてあげるから……ごめんね…
 用意していたツララを魔物達に降らせる。

 ドドドドドドドドッ



 私を苛んでいた苦しみは、消えた。
 それは魔物が全滅したことを意味する。
 上がった土煙に視界が遮られ緊迫感が解けない騎士達。
 舞い上がっていた土煙が収まりだすと、視界が少しずつ開かれ魔物の様子が徐々に確認できるようになっていく。
 手前から、晴れども晴れども途切れない針山とツララ。
 魔物達の姿は既に大半が半壊。
 崩壊して完全に塵となって消え去るまであと僅かといったところ。
 結局、途中から針山は途切れたが、ツララは森の入り口付近までビッシリと地面に刺さっていた。
 あっくんの針山よりも範囲が広いそれは、魔物の討ち漏らしを許さなかった。

 吐く息が白い。
 苦しみは消えたのに胸が痛かった。
 歓喜に沸く騎士達。

 あっくんは私の顔を自身の肩へ押し付け

「頑張ったね。」

 と、押し付けた手でそのまま頭を撫でる。
 そうやって涙が止まらない私の泣き顔を周りから隠してくれた。

「ハンス!ブランケット!」
「はい!」
「しーちゃん、落ち着いたらあの氷消せる?視界が確保できないと魔物が来た時危ないんだ。」
「グスッ、ズッ…水に戻すで、いい?」
「いいよ。俺も針山消す。……あそこ沼地みたいになるかな?」
「すっぐっ、乾く、はず。」
「こんなに寒いのに?」
「地面は、そう簡単には、ズビッ……冷えなっい。」
「それと周りから暖かい空気が入り込んでくれば、か。」

 落ち着いてきたからかいつの間にか涙は止まり、その代わりに急に寒さを感じ歯がカチカチと音を立てる。

「さむっ、いねっ。」
「ほんとにね。しーちゃんが空に氷作り出したら急激に温度が下がったんだよ。」
「あれ、かな?気化熱の、無理矢理バージョン、みたいな?」
「ははっ!無理矢理バージョンて!!しかも上には氷。氷から冷気が降りてきてダブルなわけね!」
「お待たせいたしました!」
「しーちゃん、少しだけ下ろしても良い?」
「もう1人で動けるよ?」
「ブランケット巻いたらまた抱き上げる。」
「何で?」

 もう泣き止みましたけど。

「騎士達の目付きがヤバい。この状況で離れたら不自然だ。近寄らせたくないんだよ。声すら掛けられたくない。」

 辺りを見回し、納得。
 どう見ても私達に声を掛けるタイミングを見計らっている。
 ギラついた目付きを隠すこともしないそれは、辺境へと出発してから見かけなかったために頭から抜けていたものだった。

「でも、それじゃ私は簀巻き?私達半袖だよ?ブランケット1枚しかないのにあっくんが寒いでしょ?」
「俺はしーちゃん抱っこしてたら暖かいから大丈夫。早くしないと風邪引いちゃうから一旦下ろすよ。」

 そっと下ろされ、ハンスから手渡されたブランケットを緩く2周巻かれたらすぐにまたあっくんの左腕に乗せられる。

「なんか……お手数おかけします。」
「ははっ!何言ってんの?しーちゃんがいてくれるから俺も声掛けられずに済むんだからお互い様。とりあえず針山と氷の解除しよう。」
「うん。」

 氷から水に戻すのは分子の結合を自由に。とイメージするだけ。

 ビシャアァァァーーー

 ツララが溶け水に戻ったは良いけど……あっくんの足元まで水が押し寄せ、ちょっとした池のようになっている。
 その上からあっくんが針山を崩した土をサラサラと落とし、見た目は池から水溜りくらいにはなった。

「土がフリカケみたい。白米食べたい。」
「しーちゃんて本当……ククッ連想が食べ物ばっかりだよね。」
「そうかな?それより足元濡らしちゃった。寒いのにごめんね。」
「全身濡れたわけじゃないし、平気だよ。それよりヌカルんだなぁー。これだけ足がとられたら騎士達もすぐに追いかけてはこれないだろ。ハンス!どこへ行けばいい!?」
「1度馬車へ戻りましょう。」
「1度?まぁいい。ここに突っ立ってる訳にもいかないからな。誰も近寄らせるんじゃねーぞ?」
「心得ております。ギトー家の騎士達に確認して参りますので馬車の中で少々お待ちください。ニルスを立たせておきます。」
「ああ。俺も警戒しておく。」

 そうして馬車へと戻った。
 馬車の中でもブランケットに包まれたままあっくんの膝の上に横に座らせられる。

「もう下ろしてもいいよ。」
「ここにいてくれないと俺が寒いよ?」
「2人でブランケット使えばいいでしょ?」
「駄目。女の人は身体冷やすの良くないんだよ。それにこんなに急な温度変化、体調崩すからね。」
「それを言うならあっくんだって。」
「しーちゃんがここにいてくれたら暖かいから。」
「私は湯たんぽですかい?」
「ははっ!そうそう!だからここにいて。」
「頑固だねぇ~。」
「しーちゃんもね?」
「大人しくしてます。ところで、いつまで此処にいるの?」
「暫く戻れないかもなぁ。」
「何で?」
「さっきの、2回続けて魔物が来たでしょ?またすぐ来る可能性高くない?戻ってもまたすぐ呼ばれるだけだよ。」

 いつ魔物が出るかわからず戻ってヤキモキするよりはここに残った方がいい。

「確かに。あの魔物の数ってどうなのかな?普通?多め?それともかなり多い?」
「魔物の出現数の平均が分からないけど、初日は4匹だけだった。今回の1回目の数くらいなら有り得るんじゃないかな?でも2回目の騎士達のあのビビリ様は普通じゃない気がする。そもそも何度も押し寄せるものなのかも不明だよね?」
「また魔物が来るかもしれないなら魔力温存してた方がいいんじゃないの?」
「魔力出してるの心配してくれてるの?」
「うん。」

 常に魔力を出し続けての警戒は精神的にも疲れそうでもある。

「それなんだけどさ、しーちゃんは氷出して魔力の消費どう?多少は感じてる?」
「うーーん……実はあんまり感じてない。」
「そうだと思った。俺もなんだよ。ほとんど感じないんだ。こうやって魔力出して警戒してる方がよっぽど消費してる感じがする。」
「かなり減ってる感じがする?」
「いや、消費してる感じは確かにするけど、魔法よりはって程度。もっと濃く出せば別だけど、この程度なら今すぐ魔物が出てきても全く問題ないよ。」

 あっくんがそう言うなら本当に大丈夫そう。

「俺、気になってることがあるんだ。俺としーちゃんがいくら化け物並みの魔力量を誇っていても、あれだけ大規模な魔法を使ったのにも関わらずこんなにも消費を感じないのはいくらなんでも不自然じゃない?此処に来る前、トビアスに魔法見せたんだよ。年長者で実力もあるトビアスから見て俺の魔法をどう思うか気になってね。出てきた答えはハンス達と同じ。できると思えないだった。そして気にしていたのは魔力消費量。何をして見せてもそこを気にしてたんだ。そもそもの魔力の質が違うんじゃないかとまで言っていた。消費量を減らす努力をし続ける辺境の人間ならそこを気にするのは理解できる。それで思ったのは、なんとなく魔法使ってるから消費量が減らないんじゃないかってこと。」
「なんとなく?」

 ぼんやりってこと?

「そう、なんとなく。この国の人間は魔法はこうだと固定概念でしか考えてないでしょ?物理がどうだという考えが無い。それは“なんとなく”使ってると言えない?本当は物理に則ってするべきことで、実際それが魔法という形として現れているのに原理は誰も考えない。」

 あっくんの言いたいことがわかってきた。

「対する俺達は?専門家じゃないから明確な確固たるモノは無くとも、大まかには物理を理解し、それに合わせて分子がどうだと無意識に細かく魔力を使っている。違いがあるとすればそこだと思うんだ。つまり、理解せず結果のみを求め、魔力だけで分子なりを無理矢理動かしている状態。だから消費量がいくら減ったと語ったところで本質的な無駄は減らない。」
「そっか!魔力量の暴力は私達じゃなくてこの国の人達の使い方で一一一一

 コンコン

「ハンスです。戻りました。今後の動きを確認したく思います。」


 話を遮ったのは戻ったハンスだった。













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