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第0章(お試し版) 黒猫少女と仮面の師
16.地に足をつけて
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「―――つーわけでよ、今日からこいつも俺達の仲間になる。よろしくしてやってくれ」
「……あ、はい、よろしく…お願い、します…」
天井から吊るされたランプに照らされながら、コンドウが椅子に腰を下ろすヒミコの背中を押して、威勢よくそう告げる。
すると、彼らの前に整列した五人の男女が拍手を送り、ヒミコを出迎えた。
二人がいる場所は、机と椅子が何組も置かれ、その上に大量の料理が置かれたとある一室。
コンドウが務める、ラルフィント共和国の治安維持を担う騎士団。その拠点である屋敷が誇る食堂である。
「まーまー、そう緊張すんな! 初日なんで、歓迎会の面子は全員お前が見知った仲の奴だけにしておいた。色々募る話もあるだろうし、好きなだけ食って話せ、な?」
「……いただきます」
「せんせー、そういう問題じゃないと思いま-す」
ゲラゲラ笑いながらヒミコの背中を叩くコンドウだが、少女は死んだ目で目の前の面々を見つめるだけ。
そんな彼女を慮ってか、集められた面々の一人、茶髪に眼鏡をかけた女性が口を挟んだ。
「…ほんとに久しぶりだよね、ヒミコちゃん。20年振り…って言いたいとこだけど、ヒミコちゃん的には半日振りぐらいなんだよね」
「…新井さん、だよね。三組の…」
「うん、大分大人ンなっちゃったし、わかんないと思ってたよ」
懐かしそうに目を細め、話しかけてきた彼女―――新井白亜を、ヒミコは呆然としたまま凝視する。
ヒミコの記憶では、彼女は二つ隣の学級に在籍していた少女。髪を染め、制服を着崩していた姿が思い出される。
お世辞にも学業に対する姿勢がよかったとは言えず、度々担任教師に叱られる姿を目にしていた。
だが、今目の前にいる女性は全く違う。
明るくしていた髪は地毛に戻り、服装も襟元まできちんと閉じた、真面目そうな大人の女性になっている。社会人、という単語がヒミコの脳裏に浮かんだ。
「20年振り……って事は、新井さんは20年前にこの世界に?」
「うん。街のずっと南の……原っぱの所にいつの間にか倒れててね、そしたら、あの人が拾ってくれて先生の所まで連れてきてくれたんだ」
「あの人ってのは……あの真っ黒の?」
「そ、男の人か女の人かもよくわかんない、大きな鎧とお面のあの人」
恐る恐る、と言った風に尋ねてみれば、ハクアはふわりと優しく微笑みながら頷く。
記憶の中にある彼女の、世間に対し突っ張っていた嘗てと今の態度の違いに戸惑い、ヒミコは圧倒されたままため息をこぼすばかりだった。
すると、二人の様子を伺っていた他の四人が好機と見たのか、圧を感じさせる勢いで迫ってきた。
「あ、俺! 俺の事はわかる⁉ 二組の忠邦! 文化祭の時、部活で催し物する時に一緒だったの!」
「…俺は、石川。テニス部で……あんまり面識はないけど、一応久しぶり」
「お、俺は伊藤! 伊藤甲司! 同じクラスだったんだけど、わかる⁉」
「ど、どうも……二組の豊臣秀彦です」
自分の事を思い出してもらおうと、かつて親しかった者もそうでなかった者も自己紹介を始める。
ヒミコは必死に記憶を辿るものの、顔と名前を一致させることが難しく、うまく思い出す事ができなかった。
なにせ、全員が大人になっている。顔の作りは面影がある気がするのだが、体型も身長も大きく変化しているのだ。
隣の学級だった伊能忠邦は、かつてより身長が伸びて見上げるほどになっていて。
テニス部でそれなりの実力者だったと聞く石川琢磨は、横にかなり大きくなって原型をとどめておらず。
人気者だった伊藤甲司は、背丈は伸びたがやや猫背になっていて、覇気の薄い弱々しい姿に。
遠慮がちな豊臣秀彦は、日本にいた頃はもっと元気のいい、学級の盛り上げ役だったはずなのだ。
自分の同級生達の未来の姿だと聞かされても、ヒミコにはまだ受け入れ難かった。
変わり果てた彼らを見せつけられ、いっそ全員が自分を騙そうとしていると言われた方が納得出来そうで、恐ろしかったのだ。
「落ち着いて、みんな。ヒミコちゃんが困ってるよ」
「あ、悪い」
「貴重な故郷の女の子だからよ、つい…」
「お、お気になさらず」
ハクアが注意を促すと、四人の元同級生達はばつが悪そうに引っ込んでいく。
代表して、どこか草臥れたサラリーマンのような雰囲気を放つ男、伊藤が頭を下げると、ヒミコもつられて頭を下げた。
「後は、土方と沖田と斎藤と……本居もいるんだが、あいつら仕事がまだ片付かねぇらしくてな、まぁそのうち会えんだろ。生きてりゃ何とかなる」
「……そう、ですか」
「…やっぱまだ落ち着かない感じだな。気ぃ遣わねぇように同郷の奴だけで固めたんだが……」
身を強張らせ、老いた同級生達を見渡すヒミコに、コンドウが困惑した様子で首を傾げる。
そこに、ハクアが咎めるような眼差しを向けてくる。
「そりゃそうだよ、先生。……私達がいくらヒミコちゃんを知ってたからって、ヒミコちゃんに私達は全く知らない赤の他人に見えちゃってるんだから」
「…あー、そうか、そうだよな。悪い、妃」
「…すみません。何とか受け入れようとしてるんですけど、やっぱりなんか信じられないみたいで」
知らない世界、知らない国、知らない街。
縁もゆかりもない場所に一人残された気分でいるヒミコにとっては、一日経った今でもあまりに現実味がない状況だった。
そんなヒミコの気持ちをわかってか、ハクアは無理にヒミコの傍に寄ろうとしなかった。
居心地の悪そうな彼女の斜め前に立ち、傍にいられる最短距離を測っていた。
「地に足をつけられるまで、私達も随分かかったからね……こればっかりは今すぐにはどうにもできないよ。いつかでいいから、ゆっくり話そう」
「う、うん……」
「生活についちゃあ……暫くは保証する。余裕ができてきたら、働き口も紹介できっからな。自分で言うのもなんだが、あんまり金銭的に余裕はねぇから、その辺は気を遣ってくれ」
「先生、それ言っちゃったらこれまで積み重ねてきた株、全部台なしになんぞ」
「……悪い」
保護をする、と豪語した口で情けない事を口にするコンドウにコウジが指摘し、頭を掻く元担任教師。
その様が可笑しかったのか、他の四人からくすくすと笑い声がこぼれる。自信を笑う彼らに、流石にコンドウも我慢ができなかったのか、目を吊り上げて抗議の声を上げる。
その光景に、ヒミコははっと息を呑む。
揶揄う生徒と怒る教師、それらのやり取りは、日本にいた頃に何度も見た事がある光景であったからだ。
ヒミコはそれで、ようやく確信する。
姿や年齢、雰囲気は変わっていても、ここにいる彼らは間違いなく自分の同郷の者達なのだと。
(なんか、タイムスリップして未来の同窓会に出席しちゃったみたいだ)
もし、あの事故が起きなければ、学校を卒業して数十年たった後に、こんな景色を見たはずなのかもしれない。心も体も大人になって、過去を懐かし合う時間が、あったのかもしれない。
そう考える事で、ヒミコの強張っていた気持ちは少しずつ緩み、落ち着きを取り戻し始めた。
「じゃ、じゃあその……よろしくお願いします」
わいわいと騒がしく騒ぐ彼らに向けて、ヒミコはぺこりと頭を下げる。
少女の少しだけ態度が和らいだ事を察し、コンドウがヒミコの肩をばしばしと叩き、全員が拍手を送る。
表情を綻ばせ、一歩足を踏み出したヒミコを、男性陣が料理の方へと誘っていった。
輪の中に混ざっていったヒミコ。
彼女の楽し気な背中を見つめながら、ふとハクアがコンドウの方へと近づき、彼の耳に口を寄せる。
「……ところで先生、例の連中はまだ?」
「ん? ああ…割と来るぜ。毎回追い返してんだが、毎回しつこくってなぁ」
ハクアが問うと、コンドウは苦虫を噛み潰したような顔になり、宙を睨みながら吐き捨てるように言う。
ハクアは彼の返答にため息をつき、自身の身体を抱くように腕を組む。
「先生が盾になってくれているお陰で、私達の方には近付いて来ないのは幸いだけど……新しくこっちの世界にやって来たヒミコちゃんの方に来る可能性もあるね」
「とりあえず今は話さないでおこう。無駄に怖がらせちゃ駄目だ」
「そうですね……本当、迷惑な連中」
はぁ、とため息をつき、肩を竦める。
それは、唐突にコンドウ達のもとにやって来た者達だった。
純白に金の装飾が施された、眼に痛みが走るような眩しさを放つひらひらとした格好に、やたらと分厚い革表紙の本を抱えた猿人ばかりの集団。
何処か虚ろに感じられる、相手を見ているようで見ていない眼で、コンドウを訪ねてきた集団。
彼らはコンドウに許しを得る事なく、コンドウの自宅の前に陣取り、べらべらと聞いてもいない自分達の信条とコンドウへの要求を語り始めたのだ。
その内容というのが―――
「『世界を在るべき姿に戻す為に、貴殿らの知恵と力をお貸し願いたい』……でしっけ? 何でも、先生を含めた地球の……〝漂流者〟との接触を望んでいるのだとか」
「ああ、確かそんなんだ。正直いって俺ぁ、宗教だのカルト集団だのとは関わりたくないんだよなぁ……何しでかすかわかったもんじゃねぇから、話も半ばに締め出したんだが」
「ですけど、騎士団でもその手の輩の事が問題になってるんでしょ? 一応頭に入れておいては?」
「そうなんだよなぁ……ったく、本当に面倒臭ぇ奴等だよ」
ただ普通に、地に足がついた平和な暮らしを続けたいと願う彼女にとって、以前にコンドウから伝えられた〝とある集団〟の誘いは、迷惑極まりないものであった。
〝漂流者〟、つまりは地球の人間の知識を求め、それを持つ者を招き入れる。
少しでも関わりを持つと認識された者、あるいはそう語る者がいれば、本人の元まで赴き招き入れようとすると、コンドウの元に報告が上がっている。
求めに応じた者がどうなったのか、詳しい事は未だ不明だが、後の行方に知っている者は誰もいない。
何らかの黒い思惑で動き、邪魔をした者、情報を騙った者に害をなしている事は明らかであった。
「何が目的なのか、関わっちまったらどうなんのかはまるでわからねぇが、少なくとも近付くのは危険だ。その内ヒミコの奴に余裕ができたら教えるさ」
「……それしかないですねぇ」
現在、多少気持ちに余裕ができ始めているヒミコに知られれば、精神的に参ってしまうかもしれない。
件の集団の目的が何であろうとも、同郷の者達の身の安全は確実の守らなければならない。
コンドウ達は、そう心に決めていた。
「……そんで、連中の名前は何つったっけ?」
「えっと確か―――〝素晴らしき人の世〟とか何とかいう集団だったかと」
「はーん……中二病みてぇな名前」
二人はそこまで深刻になる事なく、不気味な集団について一応の注意を抱く。
たったそれだけに留めてしまったのだった。
「……あ、はい、よろしく…お願い、します…」
天井から吊るされたランプに照らされながら、コンドウが椅子に腰を下ろすヒミコの背中を押して、威勢よくそう告げる。
すると、彼らの前に整列した五人の男女が拍手を送り、ヒミコを出迎えた。
二人がいる場所は、机と椅子が何組も置かれ、その上に大量の料理が置かれたとある一室。
コンドウが務める、ラルフィント共和国の治安維持を担う騎士団。その拠点である屋敷が誇る食堂である。
「まーまー、そう緊張すんな! 初日なんで、歓迎会の面子は全員お前が見知った仲の奴だけにしておいた。色々募る話もあるだろうし、好きなだけ食って話せ、な?」
「……いただきます」
「せんせー、そういう問題じゃないと思いま-す」
ゲラゲラ笑いながらヒミコの背中を叩くコンドウだが、少女は死んだ目で目の前の面々を見つめるだけ。
そんな彼女を慮ってか、集められた面々の一人、茶髪に眼鏡をかけた女性が口を挟んだ。
「…ほんとに久しぶりだよね、ヒミコちゃん。20年振り…って言いたいとこだけど、ヒミコちゃん的には半日振りぐらいなんだよね」
「…新井さん、だよね。三組の…」
「うん、大分大人ンなっちゃったし、わかんないと思ってたよ」
懐かしそうに目を細め、話しかけてきた彼女―――新井白亜を、ヒミコは呆然としたまま凝視する。
ヒミコの記憶では、彼女は二つ隣の学級に在籍していた少女。髪を染め、制服を着崩していた姿が思い出される。
お世辞にも学業に対する姿勢がよかったとは言えず、度々担任教師に叱られる姿を目にしていた。
だが、今目の前にいる女性は全く違う。
明るくしていた髪は地毛に戻り、服装も襟元まできちんと閉じた、真面目そうな大人の女性になっている。社会人、という単語がヒミコの脳裏に浮かんだ。
「20年振り……って事は、新井さんは20年前にこの世界に?」
「うん。街のずっと南の……原っぱの所にいつの間にか倒れててね、そしたら、あの人が拾ってくれて先生の所まで連れてきてくれたんだ」
「あの人ってのは……あの真っ黒の?」
「そ、男の人か女の人かもよくわかんない、大きな鎧とお面のあの人」
恐る恐る、と言った風に尋ねてみれば、ハクアはふわりと優しく微笑みながら頷く。
記憶の中にある彼女の、世間に対し突っ張っていた嘗てと今の態度の違いに戸惑い、ヒミコは圧倒されたままため息をこぼすばかりだった。
すると、二人の様子を伺っていた他の四人が好機と見たのか、圧を感じさせる勢いで迫ってきた。
「あ、俺! 俺の事はわかる⁉ 二組の忠邦! 文化祭の時、部活で催し物する時に一緒だったの!」
「…俺は、石川。テニス部で……あんまり面識はないけど、一応久しぶり」
「お、俺は伊藤! 伊藤甲司! 同じクラスだったんだけど、わかる⁉」
「ど、どうも……二組の豊臣秀彦です」
自分の事を思い出してもらおうと、かつて親しかった者もそうでなかった者も自己紹介を始める。
ヒミコは必死に記憶を辿るものの、顔と名前を一致させることが難しく、うまく思い出す事ができなかった。
なにせ、全員が大人になっている。顔の作りは面影がある気がするのだが、体型も身長も大きく変化しているのだ。
隣の学級だった伊能忠邦は、かつてより身長が伸びて見上げるほどになっていて。
テニス部でそれなりの実力者だったと聞く石川琢磨は、横にかなり大きくなって原型をとどめておらず。
人気者だった伊藤甲司は、背丈は伸びたがやや猫背になっていて、覇気の薄い弱々しい姿に。
遠慮がちな豊臣秀彦は、日本にいた頃はもっと元気のいい、学級の盛り上げ役だったはずなのだ。
自分の同級生達の未来の姿だと聞かされても、ヒミコにはまだ受け入れ難かった。
変わり果てた彼らを見せつけられ、いっそ全員が自分を騙そうとしていると言われた方が納得出来そうで、恐ろしかったのだ。
「落ち着いて、みんな。ヒミコちゃんが困ってるよ」
「あ、悪い」
「貴重な故郷の女の子だからよ、つい…」
「お、お気になさらず」
ハクアが注意を促すと、四人の元同級生達はばつが悪そうに引っ込んでいく。
代表して、どこか草臥れたサラリーマンのような雰囲気を放つ男、伊藤が頭を下げると、ヒミコもつられて頭を下げた。
「後は、土方と沖田と斎藤と……本居もいるんだが、あいつら仕事がまだ片付かねぇらしくてな、まぁそのうち会えんだろ。生きてりゃ何とかなる」
「……そう、ですか」
「…やっぱまだ落ち着かない感じだな。気ぃ遣わねぇように同郷の奴だけで固めたんだが……」
身を強張らせ、老いた同級生達を見渡すヒミコに、コンドウが困惑した様子で首を傾げる。
そこに、ハクアが咎めるような眼差しを向けてくる。
「そりゃそうだよ、先生。……私達がいくらヒミコちゃんを知ってたからって、ヒミコちゃんに私達は全く知らない赤の他人に見えちゃってるんだから」
「…あー、そうか、そうだよな。悪い、妃」
「…すみません。何とか受け入れようとしてるんですけど、やっぱりなんか信じられないみたいで」
知らない世界、知らない国、知らない街。
縁もゆかりもない場所に一人残された気分でいるヒミコにとっては、一日経った今でもあまりに現実味がない状況だった。
そんなヒミコの気持ちをわかってか、ハクアは無理にヒミコの傍に寄ろうとしなかった。
居心地の悪そうな彼女の斜め前に立ち、傍にいられる最短距離を測っていた。
「地に足をつけられるまで、私達も随分かかったからね……こればっかりは今すぐにはどうにもできないよ。いつかでいいから、ゆっくり話そう」
「う、うん……」
「生活についちゃあ……暫くは保証する。余裕ができてきたら、働き口も紹介できっからな。自分で言うのもなんだが、あんまり金銭的に余裕はねぇから、その辺は気を遣ってくれ」
「先生、それ言っちゃったらこれまで積み重ねてきた株、全部台なしになんぞ」
「……悪い」
保護をする、と豪語した口で情けない事を口にするコンドウにコウジが指摘し、頭を掻く元担任教師。
その様が可笑しかったのか、他の四人からくすくすと笑い声がこぼれる。自信を笑う彼らに、流石にコンドウも我慢ができなかったのか、目を吊り上げて抗議の声を上げる。
その光景に、ヒミコははっと息を呑む。
揶揄う生徒と怒る教師、それらのやり取りは、日本にいた頃に何度も見た事がある光景であったからだ。
ヒミコはそれで、ようやく確信する。
姿や年齢、雰囲気は変わっていても、ここにいる彼らは間違いなく自分の同郷の者達なのだと。
(なんか、タイムスリップして未来の同窓会に出席しちゃったみたいだ)
もし、あの事故が起きなければ、学校を卒業して数十年たった後に、こんな景色を見たはずなのかもしれない。心も体も大人になって、過去を懐かし合う時間が、あったのかもしれない。
そう考える事で、ヒミコの強張っていた気持ちは少しずつ緩み、落ち着きを取り戻し始めた。
「じゃ、じゃあその……よろしくお願いします」
わいわいと騒がしく騒ぐ彼らに向けて、ヒミコはぺこりと頭を下げる。
少女の少しだけ態度が和らいだ事を察し、コンドウがヒミコの肩をばしばしと叩き、全員が拍手を送る。
表情を綻ばせ、一歩足を踏み出したヒミコを、男性陣が料理の方へと誘っていった。
輪の中に混ざっていったヒミコ。
彼女の楽し気な背中を見つめながら、ふとハクアがコンドウの方へと近づき、彼の耳に口を寄せる。
「……ところで先生、例の連中はまだ?」
「ん? ああ…割と来るぜ。毎回追い返してんだが、毎回しつこくってなぁ」
ハクアが問うと、コンドウは苦虫を噛み潰したような顔になり、宙を睨みながら吐き捨てるように言う。
ハクアは彼の返答にため息をつき、自身の身体を抱くように腕を組む。
「先生が盾になってくれているお陰で、私達の方には近付いて来ないのは幸いだけど……新しくこっちの世界にやって来たヒミコちゃんの方に来る可能性もあるね」
「とりあえず今は話さないでおこう。無駄に怖がらせちゃ駄目だ」
「そうですね……本当、迷惑な連中」
はぁ、とため息をつき、肩を竦める。
それは、唐突にコンドウ達のもとにやって来た者達だった。
純白に金の装飾が施された、眼に痛みが走るような眩しさを放つひらひらとした格好に、やたらと分厚い革表紙の本を抱えた猿人ばかりの集団。
何処か虚ろに感じられる、相手を見ているようで見ていない眼で、コンドウを訪ねてきた集団。
彼らはコンドウに許しを得る事なく、コンドウの自宅の前に陣取り、べらべらと聞いてもいない自分達の信条とコンドウへの要求を語り始めたのだ。
その内容というのが―――
「『世界を在るべき姿に戻す為に、貴殿らの知恵と力をお貸し願いたい』……でしっけ? 何でも、先生を含めた地球の……〝漂流者〟との接触を望んでいるのだとか」
「ああ、確かそんなんだ。正直いって俺ぁ、宗教だのカルト集団だのとは関わりたくないんだよなぁ……何しでかすかわかったもんじゃねぇから、話も半ばに締め出したんだが」
「ですけど、騎士団でもその手の輩の事が問題になってるんでしょ? 一応頭に入れておいては?」
「そうなんだよなぁ……ったく、本当に面倒臭ぇ奴等だよ」
ただ普通に、地に足がついた平和な暮らしを続けたいと願う彼女にとって、以前にコンドウから伝えられた〝とある集団〟の誘いは、迷惑極まりないものであった。
〝漂流者〟、つまりは地球の人間の知識を求め、それを持つ者を招き入れる。
少しでも関わりを持つと認識された者、あるいはそう語る者がいれば、本人の元まで赴き招き入れようとすると、コンドウの元に報告が上がっている。
求めに応じた者がどうなったのか、詳しい事は未だ不明だが、後の行方に知っている者は誰もいない。
何らかの黒い思惑で動き、邪魔をした者、情報を騙った者に害をなしている事は明らかであった。
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「……それしかないですねぇ」
現在、多少気持ちに余裕ができ始めているヒミコに知られれば、精神的に参ってしまうかもしれない。
件の集団の目的が何であろうとも、同郷の者達の身の安全は確実の守らなければならない。
コンドウ達は、そう心に決めていた。
「……そんで、連中の名前は何つったっけ?」
「えっと確か―――〝素晴らしき人の世〟とか何とかいう集団だったかと」
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