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薄幸の少女と森の賢者達

07-1:守護者達

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 それは、分厚い鎧を身に纏った六人だった。
 流麗な装飾が施された、純白に近い光沢を放つ鎧。全身を余すことなく覆い、ずしずしと重そうな足音を響かせて向かってくる、異様な雰囲気を放つ。
 徐々に近づいてくるその六人を、アザミは荷物とシェラを抱きかかえたまま物陰から覗き、じっと息を潜めていた。

「……あのひとたちは、だれ?」
「憲兵……国の治安を守る、って名目で、国の中で怪しい事してる奴らを片っ端から捕まえてる連中だよ。…正直、あたし達は正規の許可を得て商売してないから、奴らにとっては格好の獲物なんだよ」

 自分が発した一言で起きたこの状況。シェラはアザミと同じように声を押さえ、自分を抱きしめるように隠している彼女に問う。
 アザミは通りの方に細心の注意を払いながら、こめかみから一筋汗を垂らし、緊張した様子で答えた。

「ちあんをまもる…? いいひと? じゃあ…アザミのほうがわるいひと?」
「…だったらよかったんだけどね」

 聞く分には、こうもみんなで恐れて身を隠すほど恐ろしい者達には思えないと、シェラは不思議そうにアザミを見つめる。一方で、問われたアザミは眉間にしわを寄せ、もう目と鼻の先にまで近づいている憲兵達を見やる。
 異様な緊張感があちこちの物陰から立ち込め始めた時、アザミ達の前を通り過ぎようとした彼らの内の一人がが、不意に口を開いた。

「いませんねぇ……不許可の物売り連中。抜き打ちで来たから不意を突けると思ってたのに、当てが外れましたかね?」
「黙って探せ。必ずどこかに身を潜めているはずだ」
「面倒臭いなぁ…」

 六人のうち、最後尾を歩いていた一人―――茶髪に気の抜けた表情をした優男が、後頭部で手を組みながら気だるげに呟き、ため息をつく。
 軽薄そうな態度が容易にわかる、明らかにやる気がなさそうな彼に、最前を歩いていた者が咎める声を放つ。よく見れば、最前にいる彼の鎧は少しだけ豪華な装飾が施されていて、彼の地位が他の五人より高いことを示していた。

「表の大通りに奴らは店を出せん。裏の廃棄街を使う命知らずはそういない…ならばこの貧民街の通りにしか奴らは集まれん。そうだろう!?」
「確かにそうですけど……別にほっといてもいいんじゃないですか? ここらに来る奴らは、大した金もない奴らで、俺達には直接関わりがないですし」
「何を呑気なことを言っておるか!!」

 ぶつぶつとぼやいていた部下に、最前の一人が怒鳴りつける。
 その大きさに思わずビクッ!と身体を震わせるシェラに気付くことはなく、最前にいた隊長らしき男が足を止め、最後尾の一人の方にずんずんと詰め寄る。

「誉高き我ら憲兵団が、国に仇為す亜人共を捕らえられないでどうする! 奴らは生きているだけでも罪だというのに、まるで癌のように我が国に巣食い、毒素を撒き散らしているのだぞ! もっと真剣にやらんか!」
「隊長の言う通りだ。あの腐臭がする人間擬きが近くにいるというだけで、俺は吐き気がするんだ。この手で駆除しなければ気が済まん」
「真面目ですねぇ……まぁ、そのやる気に水を差す気はないですけど」

 体調のすぐ後ろにいた男が吐き捨てるように呟くと、他の三人も同じ意見なのか頷きを見せる。
 優男は、隊長達の怒気にも全く動じた様子はなく、相変わらず面倒くさそうに肩を竦め、気だるげなため息をつく。他の五人に比べて、彼だけこの役目に積極的でない様子が明らかだった。
 その態度は、隊長達にとっては気に入らないものらしく、さらに彼らの怒りが上がったように見えた。
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