糸ノ神様

春風駘蕩

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第3章 交わらぬ少年

  、のろいうた

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 ーーーどうして?


 教室にあの子が戻ってくる。

 笑ってる。隠そうとしてるけど、隠れてない。
 いつもの追い詰められた顔をしていない。悲しそうに目を伏せてない。

 なんで?

 なんでそんな顔してるの?
 笑ってたらおかしいのに、泣いてなきゃおかしいのに。落ち込んでるのが当たり前なのに。

 なんで? なんで?

 あなたはそんな顔してちゃいけない。
 そんなに嬉しそうにしてたらいけない。暗い顔じゃなければいけない。いまにも死にそうな顔で過ごしてなければいけない。

 違う。あなたは笑っていてはいけない。
 違う。安心した顔なんかしちゃいけない。

 なんで? なんで? なんで?

 せっかくひとりぼっちになったのに。そうしてあげたのに。
 私がそうしてあげたのに。

 この先もずっとずっと、孤独でいなければいけないのに。そうじゃなきゃおかしいのに。それ以外ありえないのに。

 なんで? なんで? なんで? なんで?

 誰のせい?
 誰があなたを笑わせたの? 誰があなたを喜ばせているの? 誰があなたを救っているの?

 だめだ、だめだ、だめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだだめだ。

 そんな人はいらない。
 あなたは救われてはいけない。孤独で苦しみ続けなければいけない。

 消さなきゃ。
 必要ない人間は消さなきゃ。

 邪魔する者は消さなきゃ、排除しなきゃ、殺さなきゃ。

 違う。違う。違う違う違う。

 笑うな、喜ぶな、浮かれるな。
 あなたはそんな顔をするために生きているんじゃない。そんな事のためにあるんじゃない。

 だめだ、いやだ、いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ。

 そんな顔見たくない。笑ってるところなんか見たくない。壊したい。ぐちゃぐちゃにしたい

 計画を早めよう。
 早急に見直しをしよう。
 想定外の事態が起こっている。こんなのは考えていない、求めていない。

 消そう。邪魔者を。

 そうすれば全て上手くいく。
 全部が片付く。全部が思い通りになる。

 だから……。







 塵はみんな死ね。
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