孤独な人狼はバーベナの君に希う

花菱陽玖

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14【誕生日おめでとう】

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「リズちゃんが退院したら、バーベナ家に帰るでしょ?屋敷の方見ておかない?」
「今じゃなくていいだろ」
別邸の方じゃ狭くなるだろうし、屋敷にもリズの部屋はないから用意しないといけないなとは思う。今この国に滞在している叔父さんも顔を出してくれるというから、これからどうするな相談してからでも遅くないだろうと、首を横に振る。
「ちょっとだけだから、お願いヨウくん」
何故か引かずに、チカはぐいぐい背中を押して屋敷の方へと出向かせてくる。
両親と祖母が亡くなってからずっと踏み入れてなかった場所だから、正直怖かった。俺が入ってはいけない場所、けれど、あの塔で母さんの部屋を見てから温もりが恋しいのもあって、リズの為という名目もあって、理由をつけて、最終的にはチカの手の温もりが感じられて、踏み出した。扉を開けられて、明かりを灯す。チカがここに来てから屋敷にいることもあったから、それなりに片付けてあるとは思うけど、人の住んでいない建物という冷たさと静けさはあった。
「こっちに来て」
もうあの血溜りもなく、銃声も聞こえない。綺麗な廊下を大人しく手を引かれて、進んでいく。窓から差し込む日は落ちて、灯りをつけたけど電球は弱く薄暗い。階段を登ってヨウくん、とチカは足を止めた。ある部屋の前だ。覚えていないのに知っている、不思議な感覚があった。
「ヨウくんの部屋だよ、ずっと残されてたんだ」
躊躇う俺に容赦なくチカは扉を開いて、前に進ませる。部屋の壁に掛けられたランプの柔い灯りだけなのに、温かかった。おかしい事だと思うけど、残ってないはずなのに、懐かしい匂いがした。小さな椅子や机、絵本だらけの本棚。成長を見越してか広いベッド。
「ちょっと前に掃除したし、シーツも変えておいたから、綺麗だと思うけど」
「いつの間にやってたんだよ」
「ははは、準備してたのに色々あったせいで遅くなっちゃった」
クローゼットの中には当時の服がかけられており、おもちゃが仕舞われている。そして、ラッピングされた箱が何個も置いてあった。
「じいさんも不器用だよね。部屋も残して綺麗に保ってるし、プレゼントも毎年ちゃんと用意してたみたいなのに、一回も渡せなかったみたい」
「俺に?」
「シュンヨウお誕生日おめでとうって書いてあるよ」
「……ほんとだ」
添えられたメッセージカードに驚く。祖父の書いた字なんて知らないから、本物か分からなかったけど、幼い頃使っていた俺の部屋は残されていて、数年分の誕生日プレゼントは用意されていた。
「銀の銃弾とか物騒だけど、ハンターらしいね」
チカに手伝ってもらいながら、開封して苦笑いする。子供が欲しがるような玩具が分からなかったのか、短剣や銃など武器が主なもので、子供だったら手に馴染むような、年齢に合わせた大きさだった。バーベナの花が彫られていて、俺用のものだ。
「もう少し早く教えれば良かったね、ごめん」
「いや……」
行き場のない泣きたくなる気持ちを、どうしていいか分からなくてチカに抱きつく。祖父なりに俺の事を守ろうとしていたのは分かった。でもその守り方は俺を一人にして寂しかった。ちゃんと話そうとすれば、変わっていたのだろうか。
「ヨウくんも、オレみたいに死に戻りでやり直せたら良かったかな」
「……無知なせいで後悔ばっかしてるけど、やり直ししたら、今のチカに会えないだろ」
肩に顔を埋めてすすり泣いていると、そのうちに何か当たるのに気付いた。睨むと、恥ずかしそうに顔を赤くする。
「だって怪我で起きてられなかったし、ずっと忙しかったし……ちょっと手ぇ貸して欲しいな」
「俺じゃなかったら嫌われてるからな」
「ヨウくんにしか言わないよ」
「シーツ変えたのこの為か」
「バレたか」
二人でベッドに乗り、向かい合うように座る。チカの足の間に割入るように膝立ちしながら、ベルトを抜いて既に硬く勃っているのを見下ろす。下着をずり下ろして取り出したチカの肉棒を握った。長、と呟く。根元から先端まですりすり取り敢えず擦り上げて、また戻ってを繰り返す。
「チカ、どう触ったら気持ちいい?」
「えぇ~もう駄目そうなんだけど。ここ、先端とか、押すの好き」
亀頭をくに、と柔らかく押して同時に玉袋を転がすように揺らす。扱いが難しくて、こわごわと力を入れ過ぎないように擦りあげる。溜まってた分、すぐに鈴口から先走りが溢れて手がぐちょぐちょに汚れていく。
「……ぁ~、だめだぁ出そう」
「早漏」
「んなら、ヨウくんも一緒にしよ?」
「はぁ?」
どーんとふざけながら肩を押されると尻餅をついてしまう。腰のベルトを抜き、留め具を外して下着越しに股間を揉んでくる。テント張ってるのを見て、チカの口角が上がっていた。
「興奮してた?」
「うるせ」
「いいじゃん、気持ちよくなろうよ」
「……ばぁか、」
腰を浮かせてずりずり下ろして、汚すからと下を全部脱がされると、向き合ってチカの足に乗るようにして密着した。柔く勃ち上がってる先端を合わせて、チカの手を借りながら竿を上下に擦った。
「ここ、こうすんの好きなのマジだ」
「ヨウくんのだから余計にそう」
亀頭を押し込んでやると、足を閉じようと身動ぎした。それを阻止して両股を更に開かせて足を絡める。押し相撲のように互いのものをぶつけつつ、どっちのものか分からないくらい溢れた我慢汁で手を汚してくと、息が荒くなっていった。
「ぁ、ぅ」
「きもちい?」
「……ん」
チカの肩に額を押さえつけてぐりぐりする。撫でられた内腿から更に降りて、開かれてることで触りやすくなってる秘孔の縁をなぞるように指を這わされた。とん、と肩を押されて柔らかいベッドに倒れる。
「久しぶりだからゆっくりしよ」
「ぁ、おいっ、」
太腿を固定されて足を閉じようとしても、間に顔を埋められて、晒された割れ目を舐め始める。ぬぷ、と中を解すように入り込んできて、指とは違う質感と熱を身体が馴染まずに、快感がせり上がってくる。
「っぁっ、」
子犬がミルクを求めるような動きです唾液と共に、內壁を舌が擦る度に腰が揺れてしまう。ふやけた入口を既に感じて垂れていく先走りを潤滑剤にして、指で広げ始めた。あっという間にチカの指を飲み込んでいく。
「ぅっあっ、んっっ」
「上も汚れるから脱いじゃおっか」
シャツが剥ぎ取られて、露になる。火照る肌から、急に外気に晒された乳首が主張するようにつんと立っていて、チカは舌を伸ばす。
「ぃ、ひゃ」
周りを舐られて、先端を押し潰されると、身体が仰け反った。それが余計に差し出さす体勢になるから喜んで口内に含まれる。ぷっくり腫れたままのもう片方の乳首を指先で弾く。乳輪をくるくるともどかしくなぞられた。
「っぁ、ん……っ、ゃだ、ぁちゅうち、ぅしないで、」
唾液をたっぷり含んで舐められるせいで、音がよく聞こえる。わざとらしく音を立ててるのもあるけど、両乳首にそれぞれ与えられる違う感触に気持ちいいのがお腹から擦り上がってくる。ふやけてしまうんじゃないかってくらい吸ったり甘噛みしたり弄られると快感に溺れそうになり、チカの頭に抱きついた。
「キスしよ」
「ぅ、うん……んっ、」
「ヨウくん、ほら指にすごい吸い付く」
指で拡げられて柔く受け入れる準備の出来ている箇所に亀頭を押し当てられれば、ぬぷぬぷと圧迫感が迎えにいく。
「ぁ、っ、んっ」
「痛くない?大丈夫?」
「へいき、あぅ……ふぅ……ぁっ、」
「あったかい」
押されたり、引いたり、ゆっくり進めば、肉壁は慣れた形に包んでいく。ぐちゅぐちゅ音が混ざった。そのまま馴染ませるように止まった。鎖骨の辺りに顔を埋めて、匂いを嗅いでくる。髪に微かに香るシャンプーと汗と、血の匂いに余計にぐらついた。どちらかともなく、熱っぽく蕩けた瞳に浮かされて、唇を重ねる。吸いあって舌を絡めて、唾液を口の端から零すのも厭わず、求める。お互いが吐く息を吸いながら、短く触れるだけのキスを交わして、チカは一気に奥へと貫いた。ん~と、探るように肉襞を抉りながら、自身を動かす。
「ぁっ、ぅっあっ!ぐっぁ、そこ、っん、びぃ、びりってする……っぅ」
淫靡な体勢に羞恥が煽られる。腹を撫でられて外側からぐいぐい押されると、堪らなくて首を振った。
「やぁだ、お腹変っ、」
「かわい、」
足を掴んで肩にかけて腰を持ち上げられた。その下に滑り込むようにしてぐゅ、と奥へと押し込んでチカは抽挿を繰り返す。
「っあっん、ぁっう、っあっ」
甘ったるい声に合わせて喉が動く。ぬこぬこと突くのは先端が知らない場所、おそらく結腸の奥を突いてくる。
「やっ、ぁっ、っぁん、……っ、ぁふ、ぁ」
脂汗が出て、最奥の更に向こうへと招くのは痛むけど、チカだから来て欲しかった。舌を絡めて、どこにも境界線がないくらいに触れて、存在を受け入れる。
「きっつ……搾られる」
「はぁっ、ぁぅ、っはぁぅ、ぅ、」
「ん……、」
「ぁぁう、」
中で膨らんだ亀頭球で入口付近もぎゅうぎゅうになって、両脚を腰を掴んで回す。いっぱいキスを繰り返して、全部くっついてしまうくらい抱きしめ合うと、嬉しかった。
「ぁっうっ、出る、っ、ぅっっぁ、」
快感を拾いあげてるのに、精液が出ない。代わりにごちゅ、と届いた箇所のせいで電流が流れたかのように身体が跳ねる。どこもかしこも感じて、頭がおかしくなりそうなくらい気持ち良く、涙が出てくる。
「中でイッちゃったね、」
「ちかぁ、ぅ、ぁっふ、こぁい、」
「ぅん、やめる、こわい、?」
「……っぁ、違う、やめないで、気持ちよすぎてこわいだけだから、」
「ん、」
「ひゃ、ぁ、っん、またおっきくなった」
はくはくと呼吸しながら、腹の中で肥大する主張を撫でると、チカは駄目、と謝ってくる。
「ぁう、ごめん出していい……」
「ぅん、欲しい」
「待っ……ちょっ、ぅんっ」
チカが抜こうとするから、絡まった脚でまた腰を寄せて、離さないようにする。ぶるりと震えて、我慢できずにオオカミ特有の長い射精が始まった。
「ぅ、きもちい、ぬるぬる、する……こんなん抜けなくなる、無理だって」
「ふぅ、ぅ、初めてぁ、じゃないだ、ろ」
「それはそだけど、」
零れないように亀頭球が入口を蓋してるから、中に吐き出された精液でどんどん薄かったお腹が膨れていくのが分かる。止まらない射精のまま、ゆっくり中を煽動されると、それに合わせて声が出た。
「はぁっ、ゅぅ……」
「きもちい、……」
「チカぁ、ぅん」
「好き」
「……ぁっ、い、いっぱい、言って……ぁっ」
「ヨウくんのことすき、大好き」
モノクロみたいに視界がチカチカして、でも気持ち良くっておかしかった。そんな俺に懇願するかのように、キス交じりに問いてくる。
「ヨウくん頷いてよ、俺のこと好き?」
「……ぁ、好きだよ、チカが」
触れるだけのキスから、舌を舐めあって、ぬくもりを余すことなく感じて、幸せに身を預けてく。恋心の灯火は消えることなく、夢中になって貪る。オオカミ特有の長い射精が終わり、萎縮した性器を抜くと同時に、中に出していた精液が尻穴から音を立てて溢れてく。はくはく肩で息をしてると、チカが横に寝転んで、容赦なく顔に甘ったるく口付けが降り注いでくる。
「ヨウくん、ヨウくん、もっと言って」
「……好きだって、チカが、前の俺のこと好きなとこも含めて好き」
「それは浮気にならない?」
「前の俺が好きなの聞いた時はムカついたけど……死に戻りまでして生きてきた今のチカが好きだから、許してやる」
「ありがと、ヨウくん」
「ちなみに聞くけど、本当に片想いだった?」
「そうだよ、だって兄貴にメロメロだったからね。オレは話し相手……友達だったかも」
「そっか」
多分俺にとって初めての友達だったろうなぁ、それは嬉しいことかもしれない。何を話したか、どんな時間が流れていたか知らないけど、きっと好きだったと思う。チカに出会えていて良かった。
片付けるから寝てていいよ、なんて優しい言葉にうつらうつらとしてくる。仲直り出来たのとチカからの好意が身に染みて、安心する。祖父のことは、どう折り合いをつけていけばいいか分からないけど、これから考えていけばいい。リズだって帰ってくるんだから、ゆっくりここで家族になれば、屋敷にある孤独は埋められる。
そういえばお腹がすいた、明日はチカと何を食べようかと考えてると、少し夢の世界へと片足を突っ込んだ感覚があった。
『……けて、』
誰かの苦しそうな声が、俺を呼んでいる。その声が自分だと認識するには時間がかかった。遠くの俺にはないはずの記憶が流れる。バルコニーから落ちていた前の俺を、見つけたのはチカだった。そこで助けを求めたんだったっけ。
『助けて、チカを助けてやって』
鋭い刃が俺の首を掠める前に、飛び起きる。けど少し遅くて、血が少し流れた。それに怯む前に、チカの頭を拳で殴ってベッドから飛ばして転がせた。
完全に避けられなかったわけじゃない、でも相手がチカだったからだ。チカが俺の事を殺すわけが無いと、無意識に思い込んでいた。だってずっと気を許していた、自分の触れられたくない内に招くくらいには。
「……え?」
戸惑って、自分が何をしようとしていたか分からないと顔でチカは青ざめる。頭の痛みだけじゃない痛みに藻掻く。
「落ちつけチカ、俺は死んでない」
「今、今のオレ、確実にヨウくんのこと殺そうとしてたよね?」
不安が、恐怖が、暗闇を引き寄せて、チカの身体は大きく跳ねた。胸を押えて苦悶の表情を浮かべる。
「ぁっ、うぐ……」
黒い刺青のようなものがチカの肌を伝い、心臓を掴んでいるように見えた。尋常じゃない様子にこのままだとチカが殺されてしまう、と背筋が凍った。
「チカ!」
窓の外から差し込む月明かりに照らされて、やけに伸びた影が落ちる。チカの影が蠢いているのに気付いて、俺は祖父からのプレゼント箱から取り出した短剣を突き刺した。
「……おい?」
すると、身体の力が抜けたようにチカは伏してしまう。肌を伝っていた影は逃げ戻る。反応はあるけど、糸を切られた操り人形のように途端に動けなくなったようだ。床にへばりつき震える。
「チカ、大丈夫か?」
「大丈夫……でもオレ、なんだった?ヨウくんを殺さないとって思考が支配されて動いてた、なのに今、なんにも力が入らない」
「チカの影に何かいたから刺したら、動けなくなったからそのせいだと思う。殺せた感触は無いから、またどうなるかわからない」
「何を差し出したって兄貴に言われたのさ、今更意味が分かった。オレの願いを叶えるのに足りなくて、オレが思ってる以上のものを奪われてたんだ」
教会の狙いは始祖のヴァンパイアの血を引く者。死に戻りをさせたチカが俺に一番近い存在となったのを利用して、今身体の自由を奪って殺させようとしたのだ。
「……悪魔だ」
願いを叶えるのに、メリットしか提示せず取引をするのは悪魔のようだと思った。この国に伝わる太古の存在として扱われてるけど、ヴァンパイアや人狼がいるんだ、実在するかもしれない。悪魔は天使みたいな顔をしていると書物で読んだし、教会の人狼に対する在り方が似ている。優しさを装って近付いて、人狼の心を開き導いて、裏で事を進めている。確証は無いけど、存在は近い気がする。
「自分が自分じゃないみたいだった、オレがヨウくん殺しちゃう」
目線が合わないで、チカは頭を抱える。死に戻りの為に、魂が輪廻から外れただけじゃ足らず、知らないうちにもっと大きな代償を支払ってしまっていた。具体的に何を奪われたのか分からないけど、始祖の血を引く者を殺すという目的を果たす為に、チカは身体を操られていた。
「舌噛むなよ、俺の事一人にする気か」
「……うぐ、ヨウくんは一人にならないよ、リズちゃんもいるし叔父さんも、」
「チカがいない」
口の中に指を突っ込んで噛めないようにすると、涙目に訴えかけてくる。チカの頬を濡らす液体は、俺から落ちてきていた。
「俺を殺そうとするくらいなんだよ、そんなの出来るわけないだろ。俺の方が強いし」
「操られて理性無くしてるんだから、どうなるか分かんないじゃん、ヨウくんのこと殺すくらいなら死んだ方がマシだよ」
手を引いて、身体を起こさせるけどまだ力は入らないようでこちらに倒れ込んできた。もがくように背を抱きかく。
「なんでこうなっちゃったのかな、ヨウくんのこと助けたかったのに、殺したくなっちゃうなんて……死に戻りするのが間違いだった?」
「そんなことない、チカがいなかったら今の俺は生きてられなかったよ。間違いなんて言うなよ」
「でもヨウくんのこと傷つけようとした」
「ひとりだった俺が分かり合いたい、思い切り愛してみたい、優しく愛されたい、そう思えるようになった。その相手はお前だよ。沢山は望まないから、チカ、ずっとそばにいて欲しいよ」
出来るだけ、出来るだけふさわしい言葉を探して、沢山貰った言葉を返していく。死ぬよりも怖いのはチカを失うことだ。どうでもいい、負けたくない。
「……。」
抱き合う体温に身を溶かして、互いに泣いてると、ひとつ思いついた。散々嫌だと突き返しておいて、今更欲しいだなんて虫のいい話かもしれない。でも、縛りには、より強い縛りを与えれば、おそらく勝てる。半分のヴァンパイアの俺だからどうなるか分からないけど、今のチカの影響を和らげることが出来るかもしれない。
「……チカ、『血の契約』しよっか」
「え?」
それっぽく顔を寄せてキスをすると、きょとんとしてマヌケ面だった。可愛い。
チカの血以外を受け付けなくなるし、チカが死ねば餓死するのは俺で、俺が死ねば、チカはこれまでにない喪失感と孤独を得る。だから終わりは血をもたらす、でも今は始まりだ。互いの命を握ることになる『血の契約』を結ぶのは怖かったけど、チカが俺のものじゃないのは気に食わない。チカが生きるのも死ぬのも俺のせいがいい。
「あんなに嫌がってたのに、なんで急に」
「どっかの誰かにとられるくらいなら、チカの命は俺のものと溶かしたいし、俺が死ぬ時はチカを理由にしたい」
「そんな、でも」
「今生は俺に捧げてくれるんじゃなかったのか?」
「ずっとそのつもりだけど」
「じゃあいいじゃんか、俺の命もチカにあげる」
「ご飯美味しく食べれなくなるかもよ」
「ならもっと美味しく作って」
「どっちか死んじゃったら、生きていけなくなっちゃうよ」
「お前のことは俺が殺すから、チカは俺を殺していいよ」
「物騒だなぁ」
「死がふたりを分かつまで一緒にいようって分かりやすい約束でいいって、チカが言ったんだろ」
「……本当にいてくれんの?」
「いいよ、チカのことそんくらい好きにはなっちゃった」
「そっか、なら俺の勝ちだね」
「勝負した覚えないけどな」
「ごめん、ありがとうヨウくん」
「そこは好きって言え」
「愛してる」
互いの手を取り、口に含んだ。チカの薬指の根元まで齧って、血をごくごく飲み込む。代わりにチカが口に含んでいる俺の指先から魔力を注いだ。ゆっくりと身体の中のものを交換をする。
「ん、」
他人には見せない行為だから、ナターシャも隠してはいたけど、あれのお陰で『血の契約』への考え方を改めたのもある。どんな終わり方を迎えるか分からないけど、この約束は二人だけのものだって気付いた。
誰にも邪魔させない、誰にも渡さない、二人で決めたことだから、と縛りを上書きしていく。チカの血が行き渡り、お腹の中からじんと熱が染み渡ってくる。
「あったかい」
薬指に互いの消えない跡が残って、唾液を落としながら離れるけど、目と目は合ったまま。『血の契約』により、命を預け合い、目の前のチカが自分のものだと心の底から高揚した。怖いくらいに結ばれた確かな絆が感じられる。この選択に悔いはないか、まだ分からない。祖父の一件から『血の契約』がずっと怖かったのに、今はチカが離れることの方が上回ったのだからこれでいい。
チカがいてくれたら、何も怖いことなんてない。沢山言葉を交わして、沢山考えて、納得出来る二人の物語の終わり方を見つければいい。この先の未来がどうなるか分からないけど、そう思えるほど誇りを持てる愛を見つけたから。誓いの口付けみたいにどちらかともなく触れ合うと、ゴーンゴーンとどこかの部屋の時計が鳴り響いて、日付が変わったことを知らせる。チカは嬉しそうに抱き締めてくれて、強く強くぬくもりを与えてくれた。
これまでの俺と、これからの俺への餞の言葉と共に。
「お誕生日おめでとう、ヨウくん」
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