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第10話 反省中の次期当主
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アイリが通された部屋は日当たりのいいテラス付きの部屋だった。キングサイズのベッドにドレッサー、クローゼットといった調度品はどれも華美ではないが作りが上質であることが窺える。
ベッドの横にぽつんとアイリの旅行鞄が置かれている。立派な部屋に使い古した鞄は妙に不釣り合いにアイリには思えた。
メイドに部屋の説明を受け、何かあったら呼び鈴を鳴らすように伝えられる。メイドが部屋から辞した後、アイリはクローゼットの中身を確かめた。
中には何着もの綺麗なドレスがしまわれており、着替えはたくさんありそうだ。だが、アイリにはどうにも窮屈に感じられて、もっと動きやすい格好になりたいと感じていた。
「自分の服に着替えるのなら、いいはずよね……」
ぽつんと置かれた鞄の元に行くと、アイリは中からいつも孤児院できていたワンピースに着替えた。デイドレスのたたみ方はわからなかったが、持って来たワンピースと同じようにたたんでベッドの脇に置く。
テラスのある窓を見やれば、まだ日は高いが徐々に昼下がりを感じさせる位置に太陽は傾いていた。
「ユリウス様、大丈夫かな……」
少しくらいなら屋敷の中を歩き回ってもいいだろう。外に控えていたメイドに屋敷を回ってくる旨を告げると、一人屋敷の地図を覚えようと歩いていく。
長く大きな廊下には絨毯が敷かれ、歩くたび毛足が柔らかく靴を受け止めてくれる。なんだか雲の上を歩いているような心地になりながら進めば、どこからか誰かの呻き声が聞こえた。
よくよく耳を澄まして聞いてみるとユリウスのものだとわかり、アイリは気になって早足で声の元へ向かう。
「反省中……?」
そう書かれたドアプレートに目を瞬かせ、アイリはその小部屋のドアを開けた。
「オルヴォー……、まだ壁向いてなきゃダメー?」
そこには壁に向かって置かれた椅子に姿勢良く座ったユリウスがいた。入ってきたアイリをオルヴォと勘違いしたユリウスは、恨めしそうに壁に向かって呻いている。
「だってアイリ、喜ぶと思ったもん。俺だって見せたかったし……ねえ……あれ?」
足音がオルヴォのものと違うと気づき、ユリウスは振り返る。そしてアイリを見るなり表情をぱあっと明るくさせた。
「アイリ! 来てくれたの?!」
「あなたの声が聞こえたから、来てみたのですが」
「でも会いに来てくれたんでしょ! やったぁ!」
「私が会いに来るのが、そんなに嬉しいものなんですか?」
アイリがわかり兼ねて言えばユリウスは椅子からぴょんと立ち上がってアイリの前にやってくる。
「もちろんだよ。だって俺の婚約者なんだもん! 好きな人ってことだよ!」
満面の笑みを見せるユリウスにアイリは逆に表情を曇らせる。
「ごめんなさい。私、こういうときどんな風にしたらいいのかわからなくて」
「そうなの? アイリは俺のことやだ?」
「嫌、ではないですけど。正直よくわかりません」
好き嫌い以前に、人に好意を持って接されることが少なかったアイリにはそれをどう受け止めたらいいかわからないのだ。
「俺は好きだけどな、アイリのこと。一緒に暮らせるって思うとわくわくする」
「一緒に過ごすだけで、どうしてそんなに楽しくなるんですか?」
アイリの言葉にユリウスはぽかんとしてしまった。
「アイリは楽しくないの?」
「……楽しい、ってどういう気持ちなんですか?」
アイリが思いきって尋ねると、ユリウスは首を傾げて考える。
「それは……」
中々言葉にできないユリウスにアイリはなんだか悪いことをした気持ちになってきた。
「すみません……私、うまく人の気持ちがわからなくて」
「そうだ!」
謝ろうとするアイリを遮って、ユリウスはアイリの手を取り腰を抱き寄せた。
ベッドの横にぽつんとアイリの旅行鞄が置かれている。立派な部屋に使い古した鞄は妙に不釣り合いにアイリには思えた。
メイドに部屋の説明を受け、何かあったら呼び鈴を鳴らすように伝えられる。メイドが部屋から辞した後、アイリはクローゼットの中身を確かめた。
中には何着もの綺麗なドレスがしまわれており、着替えはたくさんありそうだ。だが、アイリにはどうにも窮屈に感じられて、もっと動きやすい格好になりたいと感じていた。
「自分の服に着替えるのなら、いいはずよね……」
ぽつんと置かれた鞄の元に行くと、アイリは中からいつも孤児院できていたワンピースに着替えた。デイドレスのたたみ方はわからなかったが、持って来たワンピースと同じようにたたんでベッドの脇に置く。
テラスのある窓を見やれば、まだ日は高いが徐々に昼下がりを感じさせる位置に太陽は傾いていた。
「ユリウス様、大丈夫かな……」
少しくらいなら屋敷の中を歩き回ってもいいだろう。外に控えていたメイドに屋敷を回ってくる旨を告げると、一人屋敷の地図を覚えようと歩いていく。
長く大きな廊下には絨毯が敷かれ、歩くたび毛足が柔らかく靴を受け止めてくれる。なんだか雲の上を歩いているような心地になりながら進めば、どこからか誰かの呻き声が聞こえた。
よくよく耳を澄まして聞いてみるとユリウスのものだとわかり、アイリは気になって早足で声の元へ向かう。
「反省中……?」
そう書かれたドアプレートに目を瞬かせ、アイリはその小部屋のドアを開けた。
「オルヴォー……、まだ壁向いてなきゃダメー?」
そこには壁に向かって置かれた椅子に姿勢良く座ったユリウスがいた。入ってきたアイリをオルヴォと勘違いしたユリウスは、恨めしそうに壁に向かって呻いている。
「だってアイリ、喜ぶと思ったもん。俺だって見せたかったし……ねえ……あれ?」
足音がオルヴォのものと違うと気づき、ユリウスは振り返る。そしてアイリを見るなり表情をぱあっと明るくさせた。
「アイリ! 来てくれたの?!」
「あなたの声が聞こえたから、来てみたのですが」
「でも会いに来てくれたんでしょ! やったぁ!」
「私が会いに来るのが、そんなに嬉しいものなんですか?」
アイリがわかり兼ねて言えばユリウスは椅子からぴょんと立ち上がってアイリの前にやってくる。
「もちろんだよ。だって俺の婚約者なんだもん! 好きな人ってことだよ!」
満面の笑みを見せるユリウスにアイリは逆に表情を曇らせる。
「ごめんなさい。私、こういうときどんな風にしたらいいのかわからなくて」
「そうなの? アイリは俺のことやだ?」
「嫌、ではないですけど。正直よくわかりません」
好き嫌い以前に、人に好意を持って接されることが少なかったアイリにはそれをどう受け止めたらいいかわからないのだ。
「俺は好きだけどな、アイリのこと。一緒に暮らせるって思うとわくわくする」
「一緒に過ごすだけで、どうしてそんなに楽しくなるんですか?」
アイリの言葉にユリウスはぽかんとしてしまった。
「アイリは楽しくないの?」
「……楽しい、ってどういう気持ちなんですか?」
アイリが思いきって尋ねると、ユリウスは首を傾げて考える。
「それは……」
中々言葉にできないユリウスにアイリはなんだか悪いことをした気持ちになってきた。
「すみません……私、うまく人の気持ちがわからなくて」
「そうだ!」
謝ろうとするアイリを遮って、ユリウスはアイリの手を取り腰を抱き寄せた。
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