7人目の禁書使い

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第1部 1章

2. 1年E組( ブロンズ )

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 東校舎についた翔は、1年E組 ーー自分の教室のドアの前に、見慣れない女性が立っているのに気づいた。どうやら、教室に入るのをためらっているらしい。誰だ? と思いつつ声をかける。

「あのー…」

 急に後ろから話しかけられてビックリしたのか、その人物は肩をビクッとさせながら振り向いた。

「な、なにかな? 」 

 後ろ姿からはわからなかったが、その女性はとても整った顔立ちをしていた。黒髪を2つに縛り、胸の方に垂らしている。目は赤みがかった茶色で、パッチリとした二重。少し幼さが残り、まるで中学生のような顔立ち。

 「入らないんですか? 教室」

「あ、ごめんね。い、今入るところ」

 そう答えた女性は、ふぅーっ、と深呼吸をしてドアに手をかける。だが、そこから先が全く進まない。よく見ると、手が小刻みに震えている。

 ( あ、この人臨時の先生の…… 確か名前は……黒坂真名くろさかまな…… )

「あのー、もしかして臨時の先生の黒坂真名さんですか? 」

「え、あ、うん、そうよ。君は? 」

「このクラスの天ノ翔です。どーかしましたか? 」

「えっ……どうかしたってなにが? 」

「さっきから震えてるみたいですけど、なんかあったんですか? 」

「気づかれちゃった……?  実は今日が初めての仕事で。その、緊張しちゃってて……」

 ( そーいえば新任の先生だったっけ。まだ若そうだし、むりもないか )

「僕でよければ一緒に入りましょうか? 」

「えっ? うん、ありがとっ」

 そう言うと彼女はもう一度深呼吸し、思い切ってドアをあけた。

 遅刻ギリギリだったからか、ほとんどの生徒が登校していた。当然クラス中の視線が音のした方ーーつまりドアへと集まる。

 数秒の沈黙。

 気まずい、これは気まずいぞと思っていた矢先、そんな沈黙を壊して1人の男子生徒が翔に話しかけてきた。 
 
「翔! 誰その可愛い人!? もしかして俺らの新しい先生? 」

「そう。担任の黒坂真名先生」

「おぉぉーー!!! 」と男子たちの歓声が上がる。

「マジでか! 」 「かわいくね!? 」などの声が聞こえる中、翔は真名に「僕の助けなんていりませんでしたね」と苦笑いする。それを聞いた真名はブンブンと首を振る。

「そんなことないっ! すっごく助かっちゃった。ありがと、翔くん」

「いえ、それじゃあ僕は自分の席に」

 と一礼すると、翔は自分の席へと向かった。翔の席は一番後ろの窓際で、その隣には来宮優弥くるみやゆうやが座っている。優弥とは席が隣なこともあり、翔の友達の中では特に仲が良い男子だ。席に着くと、その優弥が話しかけてきた。

「あの先生かわいいな! 翔の知り合い? 」

「そんなわけないだろ。たまたま入ってくるタイミングが一緒だっただけ」

 「そりゃそうか。それにしてもかわいくね? 」

「まーそーだな」

 確かに、男子生徒が騒ぐのもわかる。真名先生はこの学校では若い教師だし、とてもかわいい。しかも少しあどけなさが残っていて、それが余計に男子たちの庇護欲なるものに火をつけたのだろう。

 「そ、それじゃあホームルームを始めるので、席に着いてください」

 それまで騒いでいた男子生徒たちも、その柔らかな声に一斉に黙り込む。そのチームプレーがなんというか、ただただすごかった。

( こいつら完全に真名先生にハート掴まれたな。おれはまだ掴まれてないから!……たぶん…… ) 

 翔は真名先生をチラチラ見ながら、そう心につぶやいた。

***

 ホームルームでの真名先生の自己紹介タイムはすごかった。男子たちが我先にと質問しだしたからである。「彼氏いますかー? 」とか「何歳ですかー? 」など、質問攻めだった。その度に、真名先生は苦笑いしたり、あははは、などとごまかしていた。( 中には、「3サイズなんですか!? 」なんていうアホもいたっけ )

 そんなホームルームと始業式が終わり、早速授業にはいる。なんで始業式の日に授業を受けなきゃなんないんだ、という本音を、翔はため息でかき消した。

( まーブロンズだしなぁー……仕方ないって言えばそーだけど  )

 そう、実は今日午後まで授業があるのは、ブロンズだけである。どーせ、他のランクの生徒たちは「午後どっかいくー? 」とか話ながら帰っているんだろーなー、などと考えていたら余計に腹が立ったので、翔は考えるのをやめた。ふと校庭を見ると、翠がこちらに手を振ってきていた。翔は軽く手を振り返す。

「ほんと、なんでこんなに差がつくんだか」

 またもや翔は、ため息まじりにそうつぶやいた。


 
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