何輪もの花

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別になんでもないその横顔

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別になんでもないその横顔が好きだった。
耳にかけていた髪がその横顔を隠しても、その隙間から覗く顔とか
夕焼けの色を浴びてキラキラとしている瞳とか、その景色にぼんやりとしている顔とか
ふとした時に見るお前の横顔が好きだった。
綺麗だと思ったし、正直ずっと眺めて余すとこなくお前を記憶していたいと思う。
なんて、言えるけもないしドン引かれて絶縁まっしぐらだ。

それにやっぱり一番綺麗だと思ったのが道を歩いて話しながら帰っている途中、やはりあの時もふとした時で、お前が何かに視線を奪われてそれを目で追った。その先には道路を挟んで向かいの道を黒髪の女の子がスタスタと歩いていて遠くに行ってしまった時。確かに綺麗で気の強そうな女だなぁと俺は思った。でも、やっぱりお前の顔には負ける。

「今の子が好みなのか?」

「…違う…ただ、見てただけ…うん…」

「ふぅん。そっ。」

お前の視線を奪う物はどれだって綺麗だった。夕焼けや青空や森の奥に、どこかの建物、別になんでもない物だったけれどお前が見ていて、そして、一緒に見ているととても美しい物に見えるんだ。でも、その時は違った。お前の視線が真っ直ぐではなくてユラユラと炎が風で揺れるような、そんな揺らぎをして俺に向けた視線を弱々しく逸らした。お前がいつもは何かを眺める時は特に理由がなくても理由があっても真っ直ぐな視線なのに、あの女だけは違った。

一目惚れなんて存在するなら、頼むからしていないで欲しいと叫びそうになった。バカみたいに止めてくれと懇願してしまいそうだった。お前が特に意味の無い理由でそれを眺める時が好きなのに、何か理由を己の感情でそれを見たいと意識してしまったその顔はとても俺は嫌だった。とてもとても綺麗で、嫌だった。

「帰ろう、夕焼けも落ちてきた。」

「あぁ、そうだな。今日も…綺麗だ。」

隣を歩く、いや、少し俺が後ろで。
視線をこっそりお前に向けて、その横顔を見たいから。何を見て、何を思っているのか?なんて到底分からないけども、頼むから今はまだ真っ直ぐお前の美しい物を見ていて欲しいと俺は願っていた。
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