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第二章 街へ
第57話 フィル・ザ・スケルトン 誕生編
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アンデッドとして蘇ってしまった剣聖フィルモア・レインクラッド。
だが、それは本来、有り得ない事であった。
通常、きちんと埋葬され、祈りを捧げられた死体はアンデッド化はしないはずなのである。特に、聖職者にちゃんと祈りを捧げられた場合は確実に昇天・他界できるはずであった。
自分の葬儀で、ちゃんとシスター(アマリア)を呼んで祈りを捧げてくれていたのを、フィルは棺桶の中から感じ取っていた。死んでいるので身体はまったく動かないが、霊魂としての意識ははっきりしていたのだ。
別に、アマリアが冒険者兼業のシスターだから効果がなかった、というわけでもない。むしろ、冒険者として苦労し生死を垣間見てきたアマリアは、聖職者として街の一般的なシスターよりよほど優秀だったのである。
事実、アマリアの祈りの効果はちゃんと出ており、フィルは心地良い穏やかな光に包まれていった。
それは、穏やかな死であった。
さすがに、死ぬのはフィルも初体験であるが、こんな風に、静かで穏やかな気持ちには、生きている間はなれなかった気がする。
やがて、アマリアの祈りが終わる頃、フィルの意識も徐々に遠のいていく。安らかに眠りについた後は、肉体から幽体が分離し、別の世界へと旅立っていくのだ。すべては順調であった。
しかし……
眠ってしまったフィルは気付かなかったが、フィルの躰の奥からドス黒い霧が沸いてきて、フィルの身体を包んでいったのだ。
そして、どれほどの時が流れたのか……
埋葬された棺桶の中で、フィルは再び目を覚ましたのであった。
不思議な事に、土に埋められた棺桶の中は真っ暗闇のはずなのに、薄明かりに照らされたように内部が見えた。
狭い棺桶の中なのであまり大きくは動けないが、自分の手を顔のほうに持っていって見てみると、なんと、肉はなく白い骨だけとなっていた。
しかし、手の感覚はちゃんとあるし、自由に動くのである。
はて? 何かがおかしい……。
モジモジ動いていると、自分の腰の脇に剣の感触があった。剣があるなら……
とりあず、いつまでもこうしていても仕方がない。フィルは狭い中、四苦八苦しながら剣を鞘から抜き取ると、レインクラッド流の奥技を繰り出し棺桶の蓋に穴を開け、地上へ出る道を作り出したのである。
なんとか地上に這い出してきたスケルトン・フィル。月明かりしかない夜であったが、それだけで十分、昼間のように明るく見える。そこで改めて自分の身体を見てみたが、見事に骸骨であった。
フィル「うーむ、やはりスケルトンになってしもうたようじゃな……
原因は分からんが、まぁ、なってしまったものは仕方ない。ゾンビでなかっただけマシかの。ゾンビは汚らしいからのぅ」
フィルは剣を片手に、ルークと暮らしていた小屋に向かった。
「しかし、スケルトンになっても、やはり、剣を身につけていないと落ち着かないものだな」
ルークが棺桶に入れておいてくれた剣は、鬼斬丸ではないが、フィルが持っていた剣の中では一番良い剣であった。剣の達人のフィル爺である、死後の世界でも剣があったほうが良いだろうと、ルークが気を効かせて入れておいてくれたのだった。
フィル「ルーク、グッジョブじゃ!
しかし、あれからどれくらい経ったのか……ルークやポーリンはどうしているかのう? 儂が白骨化してるくらいだから、かなりの年月が経っておるのだろう、もしかしたらもう二人も生きてはおらんかもしれんの…。
そうじゃ、リスティ! 長命なエルフのリスティなら、まだ生きてるかも知れん! 奴に聞けば、儂がアンデッド化した原因も分かるかも知れん。さて、やつは今どこにいるだろうか…エルフの国に居るだろうか? たしか、小屋の中に地図があったはずじゃな」
小屋はしっかりと戸締まりがされており、人の気配が長くなかった様子であるが、近づいてい見ると、思ったほど傷んではいなかった。むしろ、自分が死ぬ直前まで住んでいた状態から何も変わりない、そのままある。
フィル「はて、思ったほど時間は経っていないのか? まずは、今がいつなのか知る必要があるの。とは言え、街にスケルトンが行ったりしたら討伐されてしまうだろう。冒険者や騎士など返り討ちにできるじゃろうが、そんなわけにもいかんしのう。はて、どうするか……」
『おい、お前』
その時、フィルに声を掛ける者が居た。
振り返ると、スケルトンが一体、立っていた。
スケルトン「お前、新入りだな?」
フィル「?」
スケルトン「スケルトンに “なりたて” なんだろう?」
フィル「どうやらそのようじゃな」
スケルトン「そうか、じゃぁ分からない事もあって不安だろう、色々教えてやろう」
スケルトンは意外といいヤツのようだ。フィルは、とりあえず直球で質問をぶつけてみた。
フィル「儂はなんでスケルトンになってしまったんじゃ?」
スケルトン「ああ、それはな……」
だが、それは本来、有り得ない事であった。
通常、きちんと埋葬され、祈りを捧げられた死体はアンデッド化はしないはずなのである。特に、聖職者にちゃんと祈りを捧げられた場合は確実に昇天・他界できるはずであった。
自分の葬儀で、ちゃんとシスター(アマリア)を呼んで祈りを捧げてくれていたのを、フィルは棺桶の中から感じ取っていた。死んでいるので身体はまったく動かないが、霊魂としての意識ははっきりしていたのだ。
別に、アマリアが冒険者兼業のシスターだから効果がなかった、というわけでもない。むしろ、冒険者として苦労し生死を垣間見てきたアマリアは、聖職者として街の一般的なシスターよりよほど優秀だったのである。
事実、アマリアの祈りの効果はちゃんと出ており、フィルは心地良い穏やかな光に包まれていった。
それは、穏やかな死であった。
さすがに、死ぬのはフィルも初体験であるが、こんな風に、静かで穏やかな気持ちには、生きている間はなれなかった気がする。
やがて、アマリアの祈りが終わる頃、フィルの意識も徐々に遠のいていく。安らかに眠りについた後は、肉体から幽体が分離し、別の世界へと旅立っていくのだ。すべては順調であった。
しかし……
眠ってしまったフィルは気付かなかったが、フィルの躰の奥からドス黒い霧が沸いてきて、フィルの身体を包んでいったのだ。
そして、どれほどの時が流れたのか……
埋葬された棺桶の中で、フィルは再び目を覚ましたのであった。
不思議な事に、土に埋められた棺桶の中は真っ暗闇のはずなのに、薄明かりに照らされたように内部が見えた。
狭い棺桶の中なのであまり大きくは動けないが、自分の手を顔のほうに持っていって見てみると、なんと、肉はなく白い骨だけとなっていた。
しかし、手の感覚はちゃんとあるし、自由に動くのである。
はて? 何かがおかしい……。
モジモジ動いていると、自分の腰の脇に剣の感触があった。剣があるなら……
とりあず、いつまでもこうしていても仕方がない。フィルは狭い中、四苦八苦しながら剣を鞘から抜き取ると、レインクラッド流の奥技を繰り出し棺桶の蓋に穴を開け、地上へ出る道を作り出したのである。
なんとか地上に這い出してきたスケルトン・フィル。月明かりしかない夜であったが、それだけで十分、昼間のように明るく見える。そこで改めて自分の身体を見てみたが、見事に骸骨であった。
フィル「うーむ、やはりスケルトンになってしもうたようじゃな……
原因は分からんが、まぁ、なってしまったものは仕方ない。ゾンビでなかっただけマシかの。ゾンビは汚らしいからのぅ」
フィルは剣を片手に、ルークと暮らしていた小屋に向かった。
「しかし、スケルトンになっても、やはり、剣を身につけていないと落ち着かないものだな」
ルークが棺桶に入れておいてくれた剣は、鬼斬丸ではないが、フィルが持っていた剣の中では一番良い剣であった。剣の達人のフィル爺である、死後の世界でも剣があったほうが良いだろうと、ルークが気を効かせて入れておいてくれたのだった。
フィル「ルーク、グッジョブじゃ!
しかし、あれからどれくらい経ったのか……ルークやポーリンはどうしているかのう? 儂が白骨化してるくらいだから、かなりの年月が経っておるのだろう、もしかしたらもう二人も生きてはおらんかもしれんの…。
そうじゃ、リスティ! 長命なエルフのリスティなら、まだ生きてるかも知れん! 奴に聞けば、儂がアンデッド化した原因も分かるかも知れん。さて、やつは今どこにいるだろうか…エルフの国に居るだろうか? たしか、小屋の中に地図があったはずじゃな」
小屋はしっかりと戸締まりがされており、人の気配が長くなかった様子であるが、近づいてい見ると、思ったほど傷んではいなかった。むしろ、自分が死ぬ直前まで住んでいた状態から何も変わりない、そのままある。
フィル「はて、思ったほど時間は経っていないのか? まずは、今がいつなのか知る必要があるの。とは言え、街にスケルトンが行ったりしたら討伐されてしまうだろう。冒険者や騎士など返り討ちにできるじゃろうが、そんなわけにもいかんしのう。はて、どうするか……」
『おい、お前』
その時、フィルに声を掛ける者が居た。
振り返ると、スケルトンが一体、立っていた。
スケルトン「お前、新入りだな?」
フィル「?」
スケルトン「スケルトンに “なりたて” なんだろう?」
フィル「どうやらそのようじゃな」
スケルトン「そうか、じゃぁ分からない事もあって不安だろう、色々教えてやろう」
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