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第四章 マドネリ村

第80話 オーベルジュ マドリー&ネリーの家1

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オーベルジュとしてマドリー&ネリーの家が人気になったのには、もう一つ理由があった。

これも、コジローの提案でコジローが実現した事なのだが・・・風呂に温泉を引いたのである。

マドリー&ネリーの家にはもともと水が豊富にあったが、それは実は、死霊の森のはるか奥深くにある山脈の中にある湧き水があるのだが、そこにゼフトが転移魔法陣を設置して、湧き水を直接マドリー&ネリーの家に転移で運んでいるのであった。

それを知ったコジローが、湧き水があるなら温泉もあるのでは?と尋ねたところ、山の中には温泉もあるという。ただ、死霊の森のさらに奥深くの山中となると、ドラゴンなどのSランクモンスターが生息する場所であり、とてもではないが人間が入っていける場所ではなかった。

だが、コジローとマロなら別である。コジローはマロに乗って山中の温泉まで行き、温泉を移送する転移魔法陣を設置した。マドリー&ネリーの家の風呂は源泉掛け流しの温泉となったのである。



温泉が引かれた事で、宿泊希望の客がさらに増えた。だが、オーベルジュとして人気になりすぎると、客が入れないという問題が出て来る。

現代日本などであれば、人気店で予約が取れない店というのはたまに聞く話であるが、通信手段が限られているこの世界では、街から離れた場所にあるマドリー&ネリーの家では、予約制度を実現するのは少し難しい。

予約制度がないとなると、とりあえず行ってみるしかなくなってしまう。日帰りできない距離ではないが、決して近いとも言えない距離(アルテミルから馬車で片道2~3時間)である。わざわざ来てもらったのに満員で入れなかったとなる人が多く出るようになったのである。

食事だけならば、とりあえず前の客が終わるのを待ってもらってからと言う事になるが、宿泊は部屋が埋まってしまえばそうも行かない。

状況は加熱していく一方で、そのうち貴族や大商人というような者達まで訪れるようになってきた。そうなると、レストラン部分を増築するという話や、アルテミルの街に店を出さないかという話が持ちかけられるようになったのである。

とりあえず、店をアルテミルに出すという事は、マドリー&ネリーにとっては街に帰れる魅力的な案でもあったのだが、二人で話し合った結果、却下となった。ゼフトを頼ってくる依頼者も多くなっており、またマドリーとネリーもゼフトの手伝いがしたいという思いが強くなっていたためである。

その代わり、アルテミルに予約専用の連絡所を置き、そこから毎日一度、報告を入れてもらう事で予約の問題は解決した。

最初、モニカにその連絡所に毎日通ってもらうという案があったのだが、モニカが拒否したため、別途人を雇う事になった。実はモニカは、家の中で手伝いをするのは問題ないのだが、外に出たがらない引きこもり気質だったのである。前世の日本では、引きこもりの少女だったというが、そのような魂の性質を受け継いでしまっている部分があるのであった。

予約制度が始まったばかりの頃は、知らずに来てしまう人が多かったが、予約が必要という話はすぐに浸透し、混乱は収まっていった。それでも、たまに予約なしで来てしまう客がたまにあったのであるが。一度は許すが、当然、予約客が帰るまで待ってもらい、食事だけは出すが、二度目以降は予約なしの客は帰ってもらう事とした。当然宿泊は部屋が塞がっていれば断るしかない。



そこでもう一つ問題は、コジローが客室の一室を借りて居候してしまっている事である。マドリーとネリーは気にすることはないと言うが、コジローが出ればもう一室分客が泊まれるのである。

実はコジローは、既にアルテミルとウィルモア領の首都ブギルに、アパートの一室を借りているのだが・・・(ちなみに家賃は一ヶ月2G程度であった)。

人に見られずに転移で移動するための出入口として借りているだけで、最低減のごくごく小さい部屋である。それでも、目的は主に市場に通う事だったので、出入りを毎回誰かにチェックされるような場所では困るし、市場から遠くても困るので、条件にあう場所を見つけるのは意外と大変だったのだが。

マドリー&ネリーの家を出てそこに住むという手もあるのだが・・・実は、コジローはモニカ目当てにマドリー&ネリーの家に下宿していたのである。最初は淡かったその思いだが、今ははっきりとした恋心としてコジローも認識していた。

そこで、コジローはマドリー&ネリーの家の隣に家を建ててしまう事にしたのだった。マドリー&ネリーの家に増築の話を持ち込まれたのを聞いて、その手があるかと思いついたのだ。いつまでも借り物のホテル住まいや下宿ではなく、誰にも気兼ねしなくてよい自分の家を持ってしまうのも悪くないかなと、前々から思っていたのである。魔法の実験や剣の練習なども自分の家の庭でできるようになればありがたい。これまではマドリー&ネリーの家の裏庭を借りたりしていたので、それも心苦しいところがあった。

その話をした時に、マドリー&ネリーの家を建てた大工を紹介してもらった。それはゼフトの知り合いで、ゼフトが紹介してくれたのだが・・・ドワーフの職人であった。

ドワーフは、身長は人間より小さく、体はがっしりとしたズングリムックリな体系をしているが、物作りの職人として非常に優秀であることで有名である。人によって得意分野は当然違っていて、鍛冶が有名だが、それ以外にも大工や酒造り、服飾や道具作りなどでも優秀な職人が多いのである。特に、ゼフトが紹介したドワーフは、その道で非常に有名な人物であった。

ちなみに、この世界では、土地の所有という概念はない。土地はすべて領主の持ち物なのである。すべての領民は領主から土地を借りているという形になっている。そのため土地に関する税金はない。特に、街の外の人が住まず放置されている原野は、領主が許可をすれば自由に開拓して住んでも構わないのである。その許可も基本的には事後承諾で特に制約はない。人が住んでいるのをみつければ、税金を払うように役人が来る。税金さえ払っていれば特に何を言われる事もない。


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