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第三部 暗殺者編

第135話 王への報告

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王城、謁見の間。

部屋に案内されたブランドは部屋の中央に進み膝をついた。(初めて来た者には控室で作法の説明があるのだが、何度も来ているブランドには不要である。)

正面には空の玉座が一段高いところに据えられている。部屋の左右の壁際、玉座寄りの場所には護衛の騎士達が控えている。(その中には騎士団長であるジャクリン・ヴァレットの姿もある。)

壁際、玉座から遠い側には高位貴族達が並び立っている。

宰相が部屋に入ってきて、王の入場を告げると、その場に居る者全員が片膝を突き頭を垂れる。

玉座の背後にある扉が開き、王が出てきて玉座へと座わった。

王の名はミトビーツ。ミトビーツ・ラヘル王である。

国の名はラヘルブーレ王国と言うが、この国はその昔、ラヘル王国とブーレ王国というふたつの王国が合併してできた国なのである。そのため王家とその親族の家系(公爵家)はラヘル系とブーレ系の二系統が存在しており、現在の王はラヘル家から出ているというわけである。

とは言え、二つの王家の仲は悪くなく(円満合併であった)、今では両家の血はかなり混ざり合っており、明確に2つの系統を分けて考える意味はあまりなくなりつつあるのだが。

ミトビーツ王 「面をあげよ」

王の言葉に従い壁際の貴族達は立ち上がるが、ブランドは顔を上げるも跪いたままである。

王 「堅苦しくする必要はない、立つが良い」

だが、横壁に並ぶ貴族から横槍が入る。声を発したのはダイナドー侯爵である。

ダイナドー侯爵 「お待ち下さい、王よ。子爵ごときが王の御前で立って話すなど許すべきではありません。低位貴族は王城では常に平身低頭を守らせるべきでしょう」

本来、王の許可なく発言するのは本来無礼な行為なのだが、気さくな性格の王はあまり堅いことは言わず、周囲もそれに慣れてしまっている。(ある意味、舐められているとも言えるが。)

また、ダイナドー侯爵は隣国ダブエラを制圧し、鉱山を入手した事で国内貴族の中で権力を増し、強い発言力を強めてきている。そのため尊大な態度を取る事が多くなっていた。

ダイナドー 「王が気さくな方なのは存じておりますが、あまり低位の貴族を甘やかすと、勘違いして王家を軽んじ、そのうち反逆し始めるやも知れませぬぞ?」

王 「ヴァレット家は長らく王家のために働いてくれた忠臣、そのような心配は無用だ。それに、私が良いと言っているのだ。それとも…

…余の言葉が聞けぬと申すか?」

ダイナドー 「いえ、そのような事は…。まぁ良いでしょう」

珍しく王が厳しい言葉を口にしたので、ダイナドーは気圧され引くことにした。普段は気さくな王であるが、その気を出せば十分な威厳を放つ事ができるのである。

王 「さぁ、ヴァレット子爵、話しにくいから立ってくれ」

ブランド 「御意」(やっと立ち上がるブランド)

ミトビーツ 「おお……ヴァレット子爵、いやさブランドよ、久しいな。また元気な姿が見られて嬉しいぞ。先のスタンピードで大怪我を負ったと聞いたが、もう身体は良いのか?」

ブランド 「はい、もう大丈夫です。長らく動けなかったもので、ながらくの無沙汰、誠に申し訳有りませんでした」

王 「元気になったならば良い。して…

…ペイトティクバの攻略に成功したと聞いたが、真か?」

ブランド 「はい。そのように、冒険者ギルドからは報告を受けております」

ダイナドー 「報告? その話、本当なのか?」

ブランド 「冒険者ギルドがそのような嘘をつく理由もないでしょう」

ダイナドー 「確認したのか?」

ブランド 「いえ、まだ詳細には確認できておりませんが…」

ダイナドー 「そんな重大な事を確認もせずに報告しにきたというのか?!」

ブランド 「ダンジョンについては、今、息子のワルドマに確認させておりますが、確認には時間が掛かります故、報告が遅れるのも良くないかと思い、馳せ参じた次第です」

ダイナドー 「ペイトティクバはこの王国ができる前からあると言われている古いダンジョンだ。難易度はSSS級、攻略などできるわけが―」

宰相 「ダイナドー侯爵、少し黙られたほうが良かろう」

王の横に立っていた宰相がジロリとダイナドー侯爵を睨む。王ほどではないが、宰相もなかなかの威厳がある。

宰相 「いくら王が鷹揚な方だからとて、謁見の間で王を差し置いて勝手に発言し続けるのは如何なものか?」

ダイナドー 「これは…、失礼、致しました…」

宰相 「ヴァレット子爵、報告の続きを。冒険者ギルドから報告という事は、ギルドが冒険者を組織して大掛かりな作戦を行ったという事か?」

ブランド 「いえ…一人の優秀な冒険者が現れまして。その者が攻略に成功したと」

宰相 「ほう? その冒険者には会ったのか?」

ブランド 「報告を受けてからは、まだ会えておりませんが…」

王 「ほうつまり、その冒険者はそなたの知っておる者なのだな?」

ブランド 「はい。攻略を始める前に、攻略の許可を求められましたので」

王 「そちの見立てでは、その者は、難関ダンジョンを攻略できる実力のある冒険者であったか?」

ブランド 「…はい。ダンジョンの全容が分からなかったため確証はありませんでしたが、その者なら可能性はあるとは思っていました」

ダイナドー 「おい、国軍の総力戦でもなければ攻略できないと言われていたダンジョンだぞ? 本当ならその者は一人で国軍にも匹敵する力を持つという事になるが?」

ブランド 「ああ…一人ではないです」

ダイナドー 「先程一人と言ったではないか? 紛らわしい言い方をするな」

宰相 「なるほど、大勢の優秀な冒険者が集まって成し遂げたというわけか?」

ブランド 「いえ…その、総勢二十人ほどであったと聞いておりますが、リーダーの冒険者以外は全員、その冒険者が集めた奴隷だったようです」

王 「ほう…?」

ダイナドー 「なるほど! 奴隷を大量投入し、使い潰しながらダンジョンを攻略したというわけか? そして生き残れたのがたった二十人か、なかなか下衆な作戦だな?」


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