パワハラで人間に絶望したサラリーマン人間を辞め異世界で猫の子に転生【賢者猫無双】(※タイトル変更-旧題「天邪鬼な賢者猫、異世界を掻き回す」)

田中寿郎

文字の大きさ
66 / 85
序章(プロローグ)

第66話 マニブール王国の最後

しおりを挟む
国王コレトラ「俺が出る。奴を殺して、賢者でないと証明して見せよう」

宰相サイジラ「いけません、国王自ら出るなど…」

だが、コレトラの発した【威圧】をぶつけられ、サイジラは腰を抜かし尻もちをついてしまう。

メイヴィス(ほう、これはなかなか…)

実際コレトラの【威圧】はなかなかのモノで、その威力はドラゴンに対抗できそうなほどであった。

なるほど、一国の王だけの事はあるとメイヴィスは感心する。

※この世界の身分・階級は、その実力によって築かれてきたという経緯がある。魔力の強い者が貴族となり人々を支配し、魔力が弱いものは平民として貴族に支配される。魔力の強さ、戦闘力の強さがそのまま階級となる。つまり、下位貴族より上位貴族のほうが魔力が強いという事である。そしてそのような魔力偏重主義の傾向は辺境の小国ほど強くなる。そのような国では、最強の魔力を持つのはその国の貴族のトップ、つまり、国王(族長)と言う事になるのだ。

そのため、この世界における戦争では、国王(族長)自ら出陣し、敵を殲滅して見せるという事もよくある。コレトラもまた、過去の戦争では自ら出陣し、その圧倒的な魔力で獣人達を蹂躙し勝利を掴んだのである。

実は、その圧倒的な魔力は愛する者を奪われた悲しみ・憎しみによって目覚めたものであったのだが……。

コレトラは王位継承権を持ってはいたが、その順位は極めて低い傍流の五男であった。そのため、隣国である獣人の国に留学に出されていたのだ。

その国でコレトラはとある女性と出会い、愛を育んだ。(その相手は同じく留学中の人間の娘であった。)だが、その娘が獣人の王族と取り巻きに汚され殺されたのだ。

当時、魔力も筋力も弱かったコレトラは、手足を折られた上、獣人に押さえつけられ、恋人が凌辱されるのを眼前で見せつけられ、血の涙を流した。

獣人の生理的特性なのだろうか、『力こそ正義』『力の弱い者は強いものに蹂躙されても仕方がない』、そんな弱肉強食の思想が獣人の国にはあった。

獣人達は『弱いから悪いのだ』とコレトラを嘲笑ったのだ。

だが、その事がきっかけとなって、コレトラの魔力が覚醒する。元々闇属性の魔力に適正のあったコレトラは、覚醒するために強い負の感情が必要だったのだ。

コレトラは復讐を決意。その力を必死で磨いた。

そんな時、疫病が流行り故郷の王族が次々と倒れた。それにより王位継承者が居なくなり、異国に居たコレトラが王位継承権の最上位となったのだ。

唐突に王位を手にしたコレトラ。

彼はこれ幸いと地位を利用して復讐を始める。獣人の国に戦争を仕掛けたのである。それが先の人間対獣人の戦争の真相である。

もちろん、コレトラは先陣を切って戦いに望み、憎き獣人の王族をすべて虐殺した。コレトラの怒りは激しく、獣人達の降伏を認めず、このまま根絶やしにするかに思われたが……コレトラはそうはせず、獣人達の降伏を認めた。

コレトラが獣人を皆殺しにしなかったのは温情などではない。憎しみが深すぎ、楽に死なせたくなかったのだ。単なる捕虜ではいずれ解放されてしまう。獣人達がもっと長く、子々孫々まで苦しみ続ける事をコレトラは望んだのだ。そして、獣人達を最低の立場に追いやる法律を作り、虐げる事にしたのだ。

それから三十余年の月日が流れたが、コレトラの心の傷が癒える事はなかった。それどころか、老いていくほどに孤独感が増し、その負の感情を拗らせていってしまったのだ。(コレトラは死んだ恋人とそのお腹に居た子供の事を思い、その後女性を側に近づけなかったのだ。後を次ぐ嫡子が未だに居らず問題となっていたが、その事にふれると王は激昂するため、誰も何も言えないのであった。)

そして……今回の獣人の賢者の話である。獣人を憎むコレトラにとって、獣人から賢者が生まれるなど、認められるはずがなかった。

(闇属性の魔力に染まると、感情に振り回され、冷静な判断力を失いやすい。その賢者は獣人ではない【妖精族】だなどと言われても、暗い感情に囚われてしまったコレトラの心にはもはや届かないのだ。)

老いたとは言え、コレトラの魔力はまだまだ国内最高峰を維持している。

これまでも、獣人の中からヒーローが生まれ、逆襲する機運が高まった事はあったが、すべて叩き潰してきた。今度もそうしてやるつもりであった。

それに、帝国の宰相と賢者がいるところで弱みを見せるわけには行かない。隙を見せれば帝国に飲み込まれるだろう。コレトラは獣人をその力で蹂躙して見せる事で、帝国に対しても抑止力となると考えたのである。

結局、宰相が止めるのも聞かず、コレトラは部下の護衛騎士数名を連れて、王都を出陣していった。

メイヴィス「やれやれ…。では、帰ろうかのブライナス。もう少し穏便に進めたかったのだがなぁ…」

ブライナス「見届けなくてよいのですか?」

メイヴィス「予知の通りに進んでおる。ここまで来たら結果も変わらんじゃろ。その獣人が本当に賢者であるなら、負ける事もないじゃろうしな」

ブライナス「それでは、次の段階に進みましょう」

メイヴィス「うむ、マニブール王国は消滅じゃな」

ブライナス「いや、消滅ではありませんよ、地名は残ります、文化と伝統も地域の文化として残っていくでしょう」

サイジラ「消滅?! 一体それはどういう…?!」

メイヴィス「国王が居なくなって、国も存続できないじゃろ?」

サイジラ「まだ陛下が獣人に負けると決まったわけでは…」

メイヴィス「だといいがな。儂の予知ではもうほぼ確定となりつつあるぞ?」

サイジラ「……」

ブライナス「後継者も居ないようですしねぇ…」

サイジラ「それは……もし王が斃れたら、誰か王家の血を引いているものを探すか、あるいは優秀な人材に王になってもらうか……」

メイヴィス「そんな時間はないじゃろうて。では……ゴキゲンヨウ」

メイヴィスとブライナスの足元に魔法陣が浮かび、二人の姿は透明になって消えて行った。

サイジラ「……この後…どうなるんだ……???」

結局、猫人討伐に出かけた国王コレトラは帰って来ず。現地の諜報員から国王が斃れたとの報告がサイジラの元に届いたのであった。



しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...