風船葛の実る頃

風船葛の実る頃

6 多栄子の家

　多栄子は京子とは姉妹だったが、京子が小学一年生のときに青山の本家へ養女に入ることになり、京子とは別々に暮らしていた。多栄子が養女に入った青山の本家というのは昔気質の家で多栄子は面食らった。元々青山家は家具商を営んで財を成した家でそれが、今となっては跡取りもいないほどであった。跡取りというと普通は男の子だが青山家は事情が違った。跡取りといっても老いて残された者を面倒看るために養女に入っただけであった。青山の本家には、多栄子たちの父の兄、長男夫婦がいた。しかし、本家の長男は戦争で亡くなっていたので奥さんと年老いた先代夫婦だけになっていた。長男夫婦には一人だけ子供がいたが幼いときに病気で亡くなっているという話だった。多栄子は、先代夫婦つまり、多栄子にとって祖父母の面倒を看るために養女にさせられたということだった。又、それと同時に長男のお嫁さんが多栄子の新しい母となった。
　多栄子はこの新しい境遇を受け入れた。そしてこう考えた。
「私を必要としているひとたちがいる。それは、私にとって大事な問題だわ。私は私を必要としてくれるひとたちの中では幸せをより感じるのだから」と。
多栄子は、小学生ながら少し大人びた子どもだったため友達同士の間では仲間外れにされがちでもあった。そんな多栄子を見てきた父の盛夫は思った。「多栄子は俺の母親にそっくりだ。母もそう言って亡くなったな」
　盛夫は、青山家の実子ではなかった。先代が他で生ませた子供であった。盛夫の母は井深総子といい、芸子して身をたてていた。それが、先代の目にとまり、身請けをしてもらったのだった。しかし、総子は盛夫が14歳のときに亡くなってしまった。亡くなると同時に盛夫は、青山家に入ることになった。先代は、盛夫が産まれるとすぐ認知していたので総子が亡くなったときも自分の家にくればいいと誘ってくれたのだった。それが、先代の前の家つまり、最初に葬式で多栄子達が行った元店構えの残るあの家であった。青山家の土地はあちこちにあり、集約すると3丁目2番地になったそうだ。今では3丁目2番地の1とか2番地の2とか枝番が別れている。