風船葛の実る頃

藤本夏実

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ソックモンキーのモンタロウ

モンタロウ保育園へ行く

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 なつみちゃんのお母さんの仕事が始まり、なつみちゃんは保育園に行くことになりました。なつみちゃんは、人見知りが激しかったということもあり、モンタロウというソックモンキーを作ってもらい、どこへ行くにもなつみちゃんと一緒でした。だから、通園も一緒に行くことになっていました。〈それについては、モンタロウの誕生日に書いてあります〉

 モンタロウは、なつみちゃんの黄色の肩掛けカバンの中にプラスチックのコップやお皿が入っている巾着袋と一緒にぎゅうぎゅう詰めに入れられ、保育園に着くとさくら先生に渡され、職員室に預かりとなりました。


 でも、なつみちゃんが人恋しくなり、寂しくなったときは、いつでも、職員室に来ていいという約束でした。なつみちゃんは
一日になんども職員室に通っていました。それでも、保育園に行かないとぐずることは決してありませんでした。なぜなら、モンタロウと一緒だったからでした。

 なつみちゃんはモンタロウが大のお気に入りで、モンタロウもそんな、なつみちゃんが大好きでした。自分はなつみちゃんのおかげでこの世界に誕生し、なつみちゃんの人見知りを直してあげるのが自分の使命だと考えていたからでした。だから、いくらぎゅうぎゅう詰めにされるカバンの中でも我慢できました。
 

 ある日のことです。

 いつものように、プラスチックのコップとお皿が入った巾着袋と一緒にカバンの中に入ると何か冷たい感じがします。なんと、前日からの雨で、カバンの中の巾着袋の乾きが悪く濡れていたのでした。又、なつみちゃんもぎゅうぎゅう詰めにカバンに入れるのは、気が引けたらしく、カバンから顔だけ出される入れ方だったため、顔に雨がかかり濡れてしまいました。


 保育園に着くと先生が待っていました。
さくら先生はいつものように、モンタロウを預かるとモンタロウが濡れていることに気がつきました。そこでさくら先生は、職員室の扇風機で風を送り、なるべく窓側の陽のあたる場所にモンタロウを置きました。

 そうして、帰りにはモンタロウはすっかり乾いていました。帰り際になつみちゃんにモンタロウを返そうとしたときです。なつみちゃんがカバンの中にモンタロウを入れ、顔だけ出したモンタロウを見てさくら先生は言いました。
「それでは又濡れてしまうわ。ちょうどいいものがあるわ。」


 そういうと、軽食にと買ってきたパンの空き袋を持ってきました。
「これを使うといいわ。」
なつみちゃんはお礼を言うとモンタロウを袋の中に入れ、家までモンタロウを濡らすことなく帰ったのでした。

 家に帰ったなつみちゃんは思いました。
《モンタロウ専用の袋が要るわ。》
それでお母さんに聞くと
「新しく袋を用意するのもいいけどせっかくさくら先生がパンの空き袋をもう一度使い回すといいとアイデアをくれたんだからそれを利用した方がいいわよ。」
と言いました。そういうことをリユースというと教えてくれました。もちろん、パンの空き袋は傷むことがあるのでそういう時のためなつみちゃんの家では、パンやケーキの空き袋をとっておいて時々取り替えましょうというはなしになりました。


 又、別の日のことです。
モンタロウはいつものように、職員室にいました。すると年長組のけんたくんが窓の外から、職員室を覗いていました。

 そして、さくら先生に言いました。
「どうしてソックモンキーがいるの?」
さくら先生は答えました。
「これは年中組のなつみちゃんのモンタロウですよ。よくソックモンキーだと知っていましたね。」
「僕も持っているから。でも僕のは東北復興支援のおのくんなんだ。」


 モンタロウは、同じソックモンキーでも使命が違うんだなと思いました。自分はなつみちゃんのために作られた個人の用途のソックモンキーだけど、おのくんというのは、公的な目的のために作られたソックモンキーで、復興支援のためというのは大したもんだと思いました。

 只、復興支援のソックモンキーのおのくんだとけんたくんは言っていたけど、名前がすべておのくんじゃ寂しいなと思いました。モンタロウが考えたのは、おのは、地域の駅の名前だから、名字「小野」と考え、名前は各々里親さんが付けてあげればいいのにと思いました。


 そうして、帰りがけの時のことです。
なつみちゃんがモンタロウを返してもらいに職員室に行くと男の子が待っていました。けんたくんでした。けんたくんはなつみちゃんに言いました。

「なつみちゃんのソックモンキーかっこいいね。名札がちゃんとあるから保育園に入園できたんだね。僕のは名前も名札もないんだ。名札をつけたくても僕はお父さんしかいないから忙しくて無理なんだ。なつみちゃんはいいな。」
なつみちゃんはそこまで聞くと何となくわかりました。


 お母さんに東北の震災については聞いていたからでした。津波という海の化け物が海岸からどんどん町の方へ迫り、町が襲われた映像を見た覚えがあり、お母さんにしがみついて見ながら津波は恐いなと思っていたからでした。

 なつみちゃんはお迎えのために、外で待っていてくれたお母さんを目で確認するとけんたくんに言いました。
「けんたくんは自分のソックモンキーに名前をつけないの?」
「僕のはおのくんなんだ。ショップの人に里親さんになってあげてねっていわれたんだ。だから….。」


 モンタロウは、思っていたことをなつみちゃんに耳打ちしました。
「おのは名字なんだって。だから好きな名前を付ければいいと思うわ。だってショップの人が思う以上に大事なソックモンキーだってあるわ。もし私が震災にあって片親になったのなら絶対自分より年下でも親の名前を付けるわ。」

けんたくんは眼を見開いて、
「ほんとう?」
と言いました。なつみちゃんはコクリとうなづきました。
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