モンタロウの失敗

藤本夏実

文字の大きさ
3 / 4
ソックモンキーのモンタロウ

モンタロウ保育園へ行く

しおりを挟む
 なつみちゃんのお母さんの仕事が始まり、なつみちゃんは保育園に行くことになりました。なつみちゃんは、人見知りが激しかったということもあり、モンタロウというソックモンキーを作ってもらい、どこへ行くにもなつみちゃんと一緒でした。だから、通園も一緒に行くことになっていました。〈それについては、モンタロウの誕生日に書いてあります〉

 モンタロウは、なつみちゃんの黄色の肩掛けカバンの中にプラスチックのコップやお皿が入っている巾着袋と一緒にぎゅうぎゅう詰めに入れられ、保育園に着くとさくら先生に渡され、職員室に預かりとなりました。


 でも、なつみちゃんが人恋しくなり、寂しくなったときは、いつでも、職員室に来ていいという約束でした。なつみちゃんは
一日になんども職員室に通っていました。それでも、保育園に行かないとぐずることは決してありませんでした。なぜなら、モンタロウと一緒だったからでした。

 なつみちゃんはモンタロウが大のお気に入りで、モンタロウもそんな、なつみちゃんが大好きでした。自分はなつみちゃんのおかげでこの世界に誕生し、なつみちゃんの人見知りを直してあげるのが自分の使命だと考えていたからでした。だから、いくらぎゅうぎゅう詰めにされるカバンの中でも我慢できました。
 

 ある日のことです。

 いつものように、プラスチックのコップとお皿が入った巾着袋と一緒にカバンの中に入ると何か冷たい感じがします。なんと、前日からの雨で、カバンの中の巾着袋の乾きが悪く濡れていたのでした。又、なつみちゃんもぎゅうぎゅう詰めにカバンに入れるのは、気が引けたらしく、カバンから顔だけ出される入れ方だったため、顔に雨がかかり濡れてしまいました。


 保育園に着くと先生が待っていました。
さくら先生はいつものように、モンタロウを預かるとモンタロウが濡れていることに気がつきました。そこでさくら先生は、職員室の扇風機で風を送り、なるべく窓側の陽のあたる場所にモンタロウを置きました。

 そうして、帰りにはモンタロウはすっかり乾いていました。帰り際になつみちゃんにモンタロウを返そうとしたときです。なつみちゃんがカバンの中にモンタロウを入れ、顔だけ出したモンタロウを見てさくら先生は言いました。
「それでは又濡れてしまうわ。ちょうどいいものがあるわ。」


 そういうと、軽食にと買ってきたパンの空き袋を持ってきました。
「これを使うといいわ。」
なつみちゃんはお礼を言うとモンタロウを袋の中に入れ、家までモンタロウを濡らすことなく帰ったのでした。

 家に帰ったなつみちゃんは思いました。
《モンタロウ専用の袋が要るわ。》
それでお母さんに聞くと
「新しく袋を用意するのもいいけどせっかくさくら先生がパンの空き袋をもう一度使い回すといいとアイデアをくれたんだからそれを利用した方がいいわよ。」
と言いました。そういうことをリユースというと教えてくれました。もちろん、パンの空き袋は傷むことがあるのでそういう時のためなつみちゃんの家では、パンやケーキの空き袋をとっておいて時々取り替えましょうというはなしになりました。


 又、別の日のことです。
モンタロウはいつものように、職員室にいました。すると年長組のけんたくんが窓の外から、職員室を覗いていました。

 そして、さくら先生に言いました。
「どうしてソックモンキーがいるの?」
さくら先生は答えました。
「これは年中組のなつみちゃんのモンタロウですよ。よくソックモンキーだと知っていましたね。」
「僕も持っているから。でも僕のは東北復興支援のおのくんなんだ。」


 モンタロウは、同じソックモンキーでも使命が違うんだなと思いました。自分はなつみちゃんのために作られた個人の用途のソックモンキーだけど、おのくんというのは、公的な目的のために作られたソックモンキーで、復興支援のためというのは大したもんだと思いました。

 只、復興支援のソックモンキーのおのくんだとけんたくんは言っていたけど、名前がすべておのくんじゃ寂しいなと思いました。モンタロウが考えたのは、おのは、地域の駅の名前だから、名字「小野」と考え、名前は各々里親さんが付けてあげればいいのにと思いました。


 そうして、帰りがけの時のことです。
なつみちゃんがモンタロウを返してもらいに職員室に行くと男の子が待っていました。けんたくんでした。けんたくんはなつみちゃんに言いました。

「なつみちゃんのソックモンキーかっこいいね。名札がちゃんとあるから保育園に入園できたんだね。僕のは名前も名札もないんだ。名札をつけたくても僕はお父さんしかいないから忙しくて無理なんだ。なつみちゃんはいいな。」
なつみちゃんはそこまで聞くと何となくわかりました。


 お母さんに東北の震災については聞いていたからでした。津波という海の化け物が海岸からどんどん町の方へ迫り、町が襲われた映像を見た覚えがあり、お母さんにしがみついて見ながら津波は恐いなと思っていたからでした。

 なつみちゃんはお迎えのために、外で待っていてくれたお母さんを目で確認するとけんたくんに言いました。
「けんたくんは自分のソックモンキーに名前をつけないの?」
「僕のはおのくんなんだ。ショップの人に里親さんになってあげてねっていわれたんだ。だから….。」


 モンタロウは、思っていたことをなつみちゃんに耳打ちしました。
「おのは名字なんだって。だから好きな名前を付ければいいと思うわ。だってショップの人が思う以上に大事なソックモンキーだってあるわ。もし私が震災にあって片親になったのなら絶対自分より年下でも親の名前を付けるわ。」

けんたくんは眼を見開いて、
「ほんとう?」
と言いました。なつみちゃんはコクリとうなづきました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

処理中です...