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本編
4、媚薬 上
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全てを話し終わるまで、アルフレッドはカレンを壁に追い詰めたまま動かなかった。カレンは心臓が破れてしまいそうなほど、ドキドキしている。
「それが、真実だとするなら、レダではなく、俺がカレンの無実を証明し、義理の母娘には鉄槌を下す」
怒気孕んだ声で、アルフレッドはカレンへ告げる。
「ですが、エマは今、殿下の婚約者なのでしょう?」
「冗談じゃない。あんな女に俺の婚約者が務まると思うか?」
「私は、それをお答えする立場にありませんので・・・」
カレンは、プイッと顔を逸らす。すると、アルフレッドは彼女の頤おとがいを掴んで顔を正面に戻した。
「カレン、ずっと会いたかった。直ぐに迎えに行けなくて、ごめん」
「いえ、久しぶりにお会い出来て嬉しかったです」
以前のように砕けた話し方をして来るアルフレッドに対して、カレンは、他人行儀な返事をした。この状況で、つい忘れてしまいそうになるがアルフレッドはこの国の皇子なのである。今のカレンとアルフレッドは婚約者でも何でもない。ましてや、アルフレッドには正式に婚約者がいる状況なのだ。いくら昔馴染みとは言っても、必要以上の触れ合いは避けた方がいいだろう。
「カレン、どうか許してくれ。そして、願わくば、以前のように・・・」
アルフレッドは、頭を垂れる。
「俺の気持ちはずっと変わってはいない。今も一緒に歩んでいきたいと思うのはカレンだけだ」
「ですが・・・」
「それに、この姿を見ただろう?これは王家の秘匿中の秘匿。どういう意味か分かるか?」
(謙虚に謝ってくれたと思えば、まさか今度は脅し?)
「知ったら消されるとか、そういう類のお話ですか」
「普通なら、こうもハッキリとこの姿を見てしまったら消される。だが、俺の妃となるのなら、何の問題も無い」
「でも、私は賊に辱めを受けたことにされています。皇家に嫁ぐ第一条件の乙女ではないと陛下が判断されたから婚約破棄となったのです。私はもう殿下の妃には成れないのです」
「しかし、その話は義母レベッカの作り話なのだろう?」
カレンは頷いた。アルフレッドはカレンの頬へ手を伸ばす。
(そんなに優しく触れられたら離れがたくなってしまう・・・。婚約破棄された時に殿下を嫌いになれていたら、こんなに苦しい気持ちにはならなかったのでしょうね)
「ならば、何の問題もない。カレンの無実は俺が証明する」
アルフレッドは、カレンの耳元へ無実を証明する方法を囁いた。それを聞いたカレンの顔は一気に赤くなる。アルフレッドは気持ちの通じているカレンなら少々強引な方法でも了承してくれると考えていた。しかし、予想に反しカレンは首を大きく左右に振った。
(いくら何でも、その提案は流石にマズいのでしょう。私は婚約者がいる人とそういうことをしたくないわ。その相手が殿下だとしても・・・)
アルフレッドの提案は、皇家の秘匿とされている内容を含んでいるものだった。
ニルス帝国の皇族は、一夫一妻制である。それ故、子を成す前に皇帝か妃のどちらかが亡くなるようなことがあれば、皇位は次の皇位継承者へ譲らなければならない。
また、皇子の妃になるには乙女であるということが第一条件だ。皇家の独特の儀式を経て婚姻を結ぶと、互いの手の甲に同じ紋様が浮かび上がり、それを持って正式に妃として認められる。だが、相手が乙女でない場合この紋様は浮かび上がらず、子を成すことが出来ないのである。
皇家の独特な儀式と言えば高尚に聞こえるが、要は乙女を抱いた際に互いの身体へ紋を刻む呪文を唱えるのだ。アルフレッドはカレンを抱けば、この問題が解決すると考え、それを彼女に話した。また、そうすればエマとの婚約破棄も同時に成せると目論んでいたのである。
しかしながら、この提案に対するカレンの返事はノー。アルフレッドは安易に提案してしまったことで、カレンを更に傷つけてしまったのではないかと後悔した。
静かな部屋で、壁掛け時計が時を刻む音だけが響く。助手キュイは隣の部屋へ行ったまま戻ってこない。と、そこで、カレンの脳裏にふとあることが思い浮かんだ。
「殿下、私レダは今、何をしているのかご存じですか?」
「私・・・?ああ、カレンに成りすましている占い師どののことか?」
「はい」
「それが、真実だとするなら、レダではなく、俺がカレンの無実を証明し、義理の母娘には鉄槌を下す」
怒気孕んだ声で、アルフレッドはカレンへ告げる。
「ですが、エマは今、殿下の婚約者なのでしょう?」
「冗談じゃない。あんな女に俺の婚約者が務まると思うか?」
「私は、それをお答えする立場にありませんので・・・」
カレンは、プイッと顔を逸らす。すると、アルフレッドは彼女の頤おとがいを掴んで顔を正面に戻した。
「カレン、ずっと会いたかった。直ぐに迎えに行けなくて、ごめん」
「いえ、久しぶりにお会い出来て嬉しかったです」
以前のように砕けた話し方をして来るアルフレッドに対して、カレンは、他人行儀な返事をした。この状況で、つい忘れてしまいそうになるがアルフレッドはこの国の皇子なのである。今のカレンとアルフレッドは婚約者でも何でもない。ましてや、アルフレッドには正式に婚約者がいる状況なのだ。いくら昔馴染みとは言っても、必要以上の触れ合いは避けた方がいいだろう。
「カレン、どうか許してくれ。そして、願わくば、以前のように・・・」
アルフレッドは、頭を垂れる。
「俺の気持ちはずっと変わってはいない。今も一緒に歩んでいきたいと思うのはカレンだけだ」
「ですが・・・」
「それに、この姿を見ただろう?これは王家の秘匿中の秘匿。どういう意味か分かるか?」
(謙虚に謝ってくれたと思えば、まさか今度は脅し?)
「知ったら消されるとか、そういう類のお話ですか」
「普通なら、こうもハッキリとこの姿を見てしまったら消される。だが、俺の妃となるのなら、何の問題も無い」
「でも、私は賊に辱めを受けたことにされています。皇家に嫁ぐ第一条件の乙女ではないと陛下が判断されたから婚約破棄となったのです。私はもう殿下の妃には成れないのです」
「しかし、その話は義母レベッカの作り話なのだろう?」
カレンは頷いた。アルフレッドはカレンの頬へ手を伸ばす。
(そんなに優しく触れられたら離れがたくなってしまう・・・。婚約破棄された時に殿下を嫌いになれていたら、こんなに苦しい気持ちにはならなかったのでしょうね)
「ならば、何の問題もない。カレンの無実は俺が証明する」
アルフレッドは、カレンの耳元へ無実を証明する方法を囁いた。それを聞いたカレンの顔は一気に赤くなる。アルフレッドは気持ちの通じているカレンなら少々強引な方法でも了承してくれると考えていた。しかし、予想に反しカレンは首を大きく左右に振った。
(いくら何でも、その提案は流石にマズいのでしょう。私は婚約者がいる人とそういうことをしたくないわ。その相手が殿下だとしても・・・)
アルフレッドの提案は、皇家の秘匿とされている内容を含んでいるものだった。
ニルス帝国の皇族は、一夫一妻制である。それ故、子を成す前に皇帝か妃のどちらかが亡くなるようなことがあれば、皇位は次の皇位継承者へ譲らなければならない。
また、皇子の妃になるには乙女であるということが第一条件だ。皇家の独特の儀式を経て婚姻を結ぶと、互いの手の甲に同じ紋様が浮かび上がり、それを持って正式に妃として認められる。だが、相手が乙女でない場合この紋様は浮かび上がらず、子を成すことが出来ないのである。
皇家の独特な儀式と言えば高尚に聞こえるが、要は乙女を抱いた際に互いの身体へ紋を刻む呪文を唱えるのだ。アルフレッドはカレンを抱けば、この問題が解決すると考え、それを彼女に話した。また、そうすればエマとの婚約破棄も同時に成せると目論んでいたのである。
しかしながら、この提案に対するカレンの返事はノー。アルフレッドは安易に提案してしまったことで、カレンを更に傷つけてしまったのではないかと後悔した。
静かな部屋で、壁掛け時計が時を刻む音だけが響く。助手キュイは隣の部屋へ行ったまま戻ってこない。と、そこで、カレンの脳裏にふとあることが思い浮かんだ。
「殿下、私レダは今、何をしているのかご存じですか?」
「私・・・?ああ、カレンに成りすましている占い師どののことか?」
「はい」
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