訳あり侯爵令嬢は成り行きで身代わり占い師をしています(元婚約者の皇子が相談にやって来ました)

風野うた

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本編

7、ハニートラップとは?

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 アルフレッドは朝食を用意するカレンとキュイの様子を眺めていた。キュイは黙ったままテーブルの上に三枚の深皿を置くとシリアルをザーッとそこへ注いだ。次に干しブドウ・アーモンド・クルミをそれぞれのガラス瓶から木さじで一杯ずつ取り出し、シリアルの上にのせていく。

 カレンは飲み物の担当していた。湯気の上がっているマグカップ三個とミルクの大瓶をトレイに載せてこちらへ来る。さきに香りが漂ってきて紅茶だと分かった。

「殿下、お待たせしました」

「いや、朝食の用意まで気を遣わせて、済まない」

「いえ、庶民の朝食で・・・。逆に申し訳ございません」

 カレンはテーブルの上を見まわしながら詫びる。

(殿下にシリアルの朝食はあんまりだったかも。だけど、倉庫に備蓄されているパン(いつ作られたのかが不明)を出すよりは、コレ(シリアル)の方が安心かなって思ったのよね。大体、満月の日に来るって分かっていたのに迂闊だったわ)

「カレン様、わたしも皇子殿下と朝食をご一緒して、本当に宜しいのでしょうか?」

 キュイが、か細い声で尋ねてきた。

「ええ、構わないわ。殿下、大丈夫ですよね?」

「ああ、全く構わない」

 アルフレッドは快諾する。カレンは配膳を終えると椅子に腰かけた。

「では、祈りましょう」

 いつもなら、カレンとキュイは席に着くとすぐに食事を始めるのだが、今日はアルフレッドがいるので感謝の祈りを捧げてから食事を始めることにした。

ーーーーー感謝の祈りとは、動植物の命をいただくという感謝の念を祈るもので、宗教的な意味合いは全く無い。

 そもそも、ニルス帝国は特に国教を定めていない。それはこの国が古来より貿易を通して集まった人々による他民族国家だということと、一つの宗教に固めようとして、無駄な争いごとを増やすようなことをしたくないという意味もあるのかも知れない。だが、一番の理由は皇家を脅かすような力のある団体を作りたくないというのが本音だろう。

 一見、大きな海を目の前に自由で開放的なニルス帝国と思われがちだが、実は人の道に外れるようなことや貞節にはとても厳しいのだ。それは皇家が一夫一妻制であることが影響している。それ故、カレンはあの義母による暴行事件の捏造により、既に今後の人生を諦めていた。たとえ、アルフレッドがカレンの無実を証明したとしても、彼の妃になることを帝国の国民が祝福してくれる可能性は低いと考えていたからである。

「殿下、先ほどのお話の続きはどうします?キュイが聞いていても大丈夫ですか」

「問題ない。俺が何故ここに来たのかをキュイは知っているのだから、今更だろう?」

「確かにそうですけど・・・」

「今回、俺を貶めようとしたのは、ヴァルツ公爵家一派のベストラン子爵・ラーシュ伯爵・バルド男爵だ」

「えっ、ヴァルツ公爵家の一派!?」

「そうだ。奴らはカレンのお父上であるシュライダー侯爵の政敵だ。ヴァルツ公爵はカレンの代わりにエマが俺の婚約者になった頃から、勢力を伸ばそうと躍起になっている。エマが皇子の婚約者になれるなら、誰にでもチャンスがあると考えたのだろう。分かりやすく言うなら、エマは貴族たちから侮られているということだ」

「殿下、ハッキリ言い過ぎですよ」

(確かに、あのエマなら馬鹿にされていると言われても驚かないわ。だけど、想像以上にあの性格というか・・・素行の悪さが、帝国の貴族たちに知れ渡っていたのね)

「俺が今回ハニートラップに引っかかったフリをして、尚且つ穏便にやり過ごそうとしている理由は至って簡単だ。罪を暴きヴァルツ公爵家が失脚してしまうと、シュライダー侯爵家の勢力が強まってしまう。後妻レベッカが実権を握っているような状況で家門の勢力を上げるわけにはいかないだろう?」

「確かにそうですね。父の権力が強まると強欲な義母はますます調子に乗ってしまいそうです」

「そうだ。しかも、今の状況ではエマが次の皇后となる」

「エマが、皇妃・・・。この国、滅びませんか?」

「ああ、滅ぶ可能性は十分にある。何しろ人の話を聞けない女が、国家間の付き合いなど出来ると思うか?――――本当に頭が痛い問題だ。俺としてはカレンの無実を晴らし、一刻も早くエマを放り出したい」

「ブッ」

 アルフレッドがあまりに真顔で“エマを放り出したい”などと言うので、カレンは吹き出してしまった。それを見ていた麗しき初恋の人アルフレッドもつられて笑い出す。

 キュイは静かに二人のやり取りを聞きながら、シリアルを口に運んでいる。

「キュイは、レダどのと連絡を取ったりはしていないのか?」

「!?」

 アルフレッドは唐突に問い掛けた。キュイは自分に質問が飛んでくるとは思っていなかったようで、口を開けてポカーンとしている。カレンはいつも能面のような表情のキュイが違う表情を見せたことに驚いた。

 キュイはスプーンを置き、深呼吸をしてからゆっくりと言葉を発する。

「・・・取っています」

「えっ!?キュイはレダさんと連絡が取れるの?」

(それ初めて聞いたのだけど!!何故、今まで教えてくれなかったのー!?)

「はい、念話が出来ます」

「そうか。それなら、この状況もレダどのは把握しているということで間違いないか?」

「はい、私のご主人さまは全てご存じです」

 曇りなき眼でキュイはハッキリと答えた。
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