大聖女セレスティアは腹黒教団から逃げて自由を手に入れたい!!(目の前で素朴な青年のフリをしているのはこの国の死神皇帝です)

風野うた

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 若葉がサワサワと柔らかな風を受けて囁く。陽の光はイーリスの泉の水面を七色に輝かせ、異世界のような雰囲気を醸し出す。ここはノキニアの森と呼ばれる場所。この国の大聖堂が管理する禁足地である。

「あー、折角アップルパイを持って来たのにー!!フレドは今日来ないのかなぁ・・・」

 白いエプロンドレスを着て、ポニーテールに赤いリボンを結んでいる若い娘、セレスは口を尖らせる。フレドというのはここで出会った青年のことだ。

 初めて会った時、フレドはリスと話していた。――――彼は動物と会話が出来るらしい。

(大きな青年が可愛い動物と親し気に話しているのを見かけた時はそのギャップに驚いたわ。あれは一体、どういう能力なのかしら。魔法?もしそんな魔法があるのなら、私もリスやウサギとお話してみたいわ。――――だけど、フレドは口数も多い方じゃないし、あまり自分のことを語ろうとしないから聞き出すのが難しいのよね。ただ、仕事はしているというのは教えてくれた。――――何の仕事をしているのかは分からないけど・・・。でも、あの素朴な感じは農園か牧場で働いている人だと思うのよね、多分)

 セレスはゴロンと芝生に転がって、流れていく雲を眺める。――――いつの間にか眠気に負けて、夢の世界へ入っていた。

―――――――


 その頃、この国(カミーユ・ロードス帝国)の皇宮では軍議が執り行われていた。電光石火で容赦の無い裁きを加えるため死神皇帝と言う二つ名が付き、民から恐れられている皇帝フレドリック。

 まさに今、彼は使い慣れた大剣を副官メルビンへ突き付けていた。

「陛下、どうか、どうかお静まり下さい!!そして、私の話を聞いて下さい!!」

「・・・・・・」

 異国の間諜を招き入れたことが発覚した第二帝国軍の副官メルビンは地面に頭を擦りつけ、必死に言葉を振り絞る。しかし、皇帝フレドリックは高く振り上げた剣を情け容赦なく振り下ろした。

 ドスッ。

 重い音が一人の男の生を終わらせる。皇帝の非道さを目の当たりにし、軍の重鎮たちは息を殺す。この場面で迂闊な行動を取れば、明日は我が身だ。

「片付けろ。第一騎士団の団長ノルト、報告の続きを」

「はい、教団の裏金調査の件ですが、こちら側の協力者が消されました。そのため、見込んでいた期間よりも・・・」

「もういい。その件は改めて来週の火曜日に会議の時間を設ける。それまでに協力者の確保と送金先を調べ上げろ」

「御意」

 団長ノルトは胸に手を当て敬礼した。それに合わせて、その場にいた部下たちも一斉に敬礼をする。――――皇帝フレドリックは彼らを一瞥すると硬い表情を緩めることなく部屋を後にした。

「ああ、怖かった・・・」

「俺、自分が斬られたような気分だったよ」

「あの金色の瞳と視線が合うだけで魂が抜かれてしまいそうだよな」

 騎士たちボソボソと死神皇帝への恐怖を呟く。まだ皇帝フレドリックの側近ミュゼが部屋に残っているとも知らずに・・・。


―――――

「セレス、セレス・・・」

 肩を揺さぶられ、セレスの意識が浮上していく。

「ん・・・・。その声は・・・」

(フレド・・・?)

 声の主を確認したくて、瞼を開けようとするのに陽の光が眩しくて、なかなか開くことが出来ない。それに気付いたフレドは気を利かして横にずれ、自身の身体で彼女の顔に降り注ぐ光を遮った。

「あー、眩しかった!!ありがとう、フレド。私、いつの間にか寝ていたのね・・・」

「――――セレス、遅くなってごめん」

 ボソボソと小声で謝るフレド。セレスは慌てて起き上がると、彼の手を自分の手で包み込んだ。

「いいのよ。フレドこそ、大丈夫?今日は悪い雇い主に怒られたりしていない?」

 セレスの言葉を聞いて、フレドは小さく頷いた。

(良かった。この前に会った時は特に元気が無かったから、何か仕事で失敗して、悪い雇い主から折檻でも受けているんじゃないかって、心配していたのよー!!)

「あ、そうだ!今日はアップルパイを焼いて来たの。一緒に食べない?」

 セレスはバスケットから折り畳んだクロスを取り出して草の上に広げる。

 次にワックスペーパーで包んだアップルパイとマグカップ二個をバスケットから取り出し、それをクロスの上に置いた。そして、水筒に入れてきた紅茶をマグカップへ注ぐ。

「アップルパイは半分ずつね」

 セレスは人差し指でアップルパイを上から切るような仕草をした。一歩遅れで白い光が現れ、セレスの指先と同じ軌道を辿って、アップルパイの上を通り過ぎていく。

(よし、ワックスペーパーごとキレイに切れたわ!!フレドの分はこっち・・・)

「はい、どうぞ!」

「――――ありがとう。セレス」

「どういたしまして!」

 最初はセレスの出す白い光に驚いていたフレドも、今はすっかり慣れてしまい、多少のことでは驚かなくなった。

(フレドに『少し魔力を持っている』と説明したら、それ以上、何も聞かれなかったのよね・・・)

 『少し魔力を持っている』――――それは大嘘だった。セレスの使う力は魔力ではなく神聖力と呼ばれている聖なる力。そう、彼女の正体はこの国の大聖堂(ベリル教団)にたった一人しかいない大聖女なのである。

――――セレスは労働させるだけさせて、雀の涙以下のお給金しか出さないベリル教団に不満を抱え、いつか逃げ出そうと考えていた。

 そんな彼女がこの泉で息抜きをするようになったのは今から四、五か月前。誰も寄り付かない森の奥で溜まりに溜まったうっぷんをボヤいてやる!と自作のお菓子を持参して訪れたら、動物と話しているフレドがいたというわけである。

 寡黙な彼から聞き出したところによると、彼は以前からこの泉へ通っていたそうだ。――――フレドも職場環境の悪さに悩まされ、ここで息抜きをしているのだと言う。

(この話を聞いてから急に親近感が湧いてきたのよね。互いに職場に対して不満があるということで・・・)

 それからはセレスがお菓子を作って来て、二人でのんびりと過ごすことが増えた。

――――彼は口数は少ないが、セレスが求めている言葉をくれる。普段の彼がどんな生活をしているのか知らなくとも、彼は信頼出来る人物だと自信を持って言える。

 本当は教団から逃げるために何かいいアイデアはないかとフレドに聞いてみたい。だが、そうしてしまうとセレスが大聖女であるということを彼に知られてしまう。

(私が大聖女だと知ったら、きっと今のような関係じゃなくなってしまう・・・)

 セレスはそんなつまらない相談事で彼との楽しい時間を終わりにしてしまうのは嫌だった。


―――――お礼をボソボソと言った後、フレドはアップルパイへ噛り付いた。ザクっといい音をさせている。美味しかったのか、フレドは一瞬で食べ切ってしまった。

「セレス、美味しかった・・・」

「あ、気に入ってくれた?じゃあ、これも少しあげる」

 一口だけ齧ったアップルパイをセレスは差し出した。フレドはセレスの大胆な行動に戸惑う。

「大丈夫よ。私、変な病気なんて持って無いから!ガブっと食べて!!」

 彼女の押しの強さに勝てず、フレドはセレスのアップルパイを一口齧った。

「あらら、頬にパイがついているわよ」

 セレスはフレドの頬についているパイを指先で取って、パクっと食べた。フレドは驚いて、目を丸くする。

「お行儀が悪いって?気にしない、気にしない!!ここには私達しかいないのだから」

 コロコロと楽しそうに笑うセレス。フレドも彼女に釣られて、柔らかな笑みを自然と浮かべてしまうのだった。


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