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本編
22 大聖女と死神皇帝は嘘つきです
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この二週間、フレドは悩みに悩んだ、しかし何の答えも出なかった。――――セレスと約束している時間になったので、イーリスの泉へ向かう。
ほとりへ辿り着くと木陰でセレスと長老ウサギのモリ―が会話していた。あの二人はどうやって意思疎通をしているのだろうか。フレドは二人の元へ急ぐ。ザッザッという足音に気付き、セレスが振り返る。
「あ、フレド!!今日は私の方が早かったわね!!」
「遅れて、ごめん」
悩んでいたのが嘘のようにいつも通りの会話が始まり、フレドはホッと胸を撫でおろす。そこへ長老ウサギのモリ―が、フレドだけにしか聞こえない声で話しかけて来た。
『ごきげんよう、皇帝陛下。セレス様は陛下に沢山お話したいことがあると言われていました。私はお邪魔にならないよう下がります。何か御用があったら呼んで下さい』
『分かった。ありがとう』
『どういたしまして!』
モリ―はピョンと飛び上がって、クルリと身を翻すと森の奥へ跳ねて行った。
「いいなぁ、モリ―と普通に会話が出来て・・・。フレド、動物と話す能力は生まれつき?」
セレスはフレドの顔を見上げる。しかし、フレドは彼女に対する色々な想いが入り混じってしまい、つい目を逸らしてしまった。
「何?言えないってこと?それなら、無理には聞かないわ。そうそう!今日は話したいことが沢山あるの!!だから、おやつはお喋りしながら食べられるものにしたわ!!準備するから、ちょっと待ってね」
セレスは慣れた手つきで布を敷き、その上に置いたマグカップへ紅茶を注いでから、アーモンドを練り込んだクッキーをペーパーナプキンの上へ並べる。
「さぁ座って。クッキーは同僚にも差し入れで配ったから、沢山焼いたの。遠慮なく食べてね!」
「ありがとう」
フレドはお礼を告げてから、セレスの横に腰を下ろす。
(先ずは職場環境が良くなったことを報告しなければ!!)
「あのね、報告したいことがあるの!!」
「どうぞ」
フレドは、『ああ今日もめちゃくちゃ可愛いなぁ』と、上の空でセレスの顔を眺めている。彼女は何も気づかず、話を始めた。
(うううっ、ドキドキする。上手く話せるかな・・・)
「まず、二週間前にあの箱を壁から取り出したでしょう?」
「ああ、あの箱のことか」
フレドは婚約祝いの入っていた箱を思い浮かべる。あの後も図書館長ヴォイジャー伯爵からもう一度見せて欲しいと付きまとわれて大変だった。
「そう。あの箱は何の役にも立たなかったのだけど、何故か雇い主たちが逮捕されたの。私の他にも不正に気付いていた人がいたみたい。それで、その人たちが暴いてくれたのよ。ただ、タイミングが良過ぎて驚いたけどね」
「偶然か・・・、それは驚くな」
「でしょう?私、真夜中に雇い主のところへ呼び出されたから、てっきり窃盗で捕まるのかと思ったのだけど、それは全然違う用事だったのよ」
真夜中に侍女を呼び出した?まさか雇い主に手を出されたなんてことはないよなと、無意識にフレドはピリッとした殺気を放ってしまう。
「違う用事とは?」
フレドが怒りを抑えた声で口を挟むと、セレスは額に手を当て、うーんと唸り出す。
(しまった。ここで婚約の話をしてしまうと、グダグダになってしまうわ)
「その話は後でしてもいい?先に職場の話をさせて!!」
セレスがサバサバとしているのを見て、フレドは深読みし過ぎたかも知れないと反省した。自分の行動を誤魔化すため、クッキーに手を伸ばす。
「――――ああ、セレス、このクッキー物凄く旨い!!」
「そう、それはありがとう。自信作なのよ!!――――ええっと、職場の話の続きなのだけど、雇い主が変わったの。それで私、結構出世することになって、この二週間は経営の勉強をしていたのよ」
「セレスが経営?侍女から経営陣に抜擢されたのか?」
フレドの一言でセレスはハッとした。
(あ、私、侍女をしているという設定を完全に忘れていたわ・・・)
セレスが固まったのをフレドは見逃さない。これは何か隠していると感じた。
「セレス?」
「ああああ、どうしよう。バカ、私のバカ~!!」
(侍女が経営陣に抜擢?ないわー!!もう嘘ばっかり吐いていたから、何を言っても嘘になっちゃう。どうしよう!!!)
「ど、どうしたんだ!?」
突然、自分の頬を両手でバシバシ叩きだしたセレスを落ち着かせようと、フレドは彼女をぎゅっと抱き締める。フレドの胸の中に包まれた途端、セレスは動きを止めた。
(フレド、こんな私を優しく抱きしめてくれるなんて・・・)
「大丈夫か?そんなに取り乱さなくても、言えないことなら無理やり聞かないから」
彼女の耳元へ優しく囁く。しかし、セレスは首を大きく横に振った。
(もう無理。これ以上フレドに嘘は吐きたくない。嫌われるかもしれないけど、本当のことを話そう)
「ダメよ!フレド。私を甘やかさないで!!今日、私はフレドに懺悔しないといけないことが沢山あるの!!」
「懺悔?随分、物騒だな・・・」
ボソッとフレドが呟く。セレスは彼の目をじーっと見詰めている。彼女は真面目な話をする気なのだと伝わって来た。
「あのね、私の本当の仕事は侍女じゃなくて・・・」
彼女の声は段々と細くなっていった。
逆にフレドはまさか!?という気持ちが大きくなってくる。そのまさかはこの二週間、フレドが女神様に祈り続けた願いのことだ。そう、セレスが大聖女セレスティアであって欲しいという願い、それは無謀な願いだった。
「あー、もうカッコ悪いわね。いざ言うとなると怖くて・・・。フレド、私の本当の仕事を聞いても、友達でいてくれる?」
フレドは黙ったまま頷いた。奇跡が起こるのだろうか?とハラハラしてしまう。
「あのね、私、えーっと、わたしは・・・」
「――――セレス、セレスティア?」
フレドは待ち切れなかった。もう確認したくて堪らなくて、心の中で何回も繰り返していた言葉がつい口から出てしまった。
「えっ?」
(嘘・・・、知っているの?)
「セレスは、セレスティア・ステラ・メルトンなのか?」
フレドがその言葉を告げると、セレスの顔が真っ青になった。フレドの腕に添えている指先が震えだし、目じりに涙が浮かんでくる。
(ああああ、フレドは知っていたのね。ということは、私の仕事も・・・)
「セレス・・・」
「そう、私の名前はセレスティア・ステア・メルトンよ。この国の大聖堂で大聖女をしているの。それでね、この国の皇帝陛下と・・・・」
震える声でそこまで言った瞬間、セレスは大粒の涙を溢しながら、フレドの胸に顔を押し付け、激しく泣き始めた。嗚咽を漏らしながら。
(もうダメ無理。本当にフレドとお別れしないといけないの?絶対に無理・・・。だけど、彼と今後も会い続けることは人として許されないことで・・・)
フレドは彼女をギュウっと抱き締めた。胸が苦しい。目の奥から熱いものが込み上がって来る感覚がする。でも、涙が零れるのを我慢出来なくなる前に、彼女に告げなければならない大切なことがあった。
「セレス、俺の懺悔も聞いてくれないか?」
「・・・・・」
大泣きしているセレスは何の返事もしない。フレドは彼女を抱いたまま、すくっと立ち上がった。驚いたセレスがフッと顔を上げた瞬間、フレドは彼女の額へキスを落とす。
(なっ!?この感触は!!!)
「ダメ!!キスは恋人じゃないとしてはいけないのぉ~」
セレスは震えた声でフレドへ注意する。やっと視線が合った。彼女の頬を伝う涙はキラキラと美しく輝いていた。
「セレス、俺のことが好きか?」
「――――それは言えません・・・」
(本当は声に出して、好きって伝えたい。大好きよ、フレド。でも、婚約者が出来てしまったから言えないの・・・)
「では、俺の懺悔を聞いてくれないか?」
(フレドが懺悔?私を泣き止まそうとしてくれているの?)
フレドを涙目で見ながら、彼女は小首を傾げる。セレスを抱き上げたまま、フレドは話し始めた。
「俺のこの姿は仮の姿なんだ」
「もしかして、――――本当はウサギさん!?」
閃いたとばかりにセレスが顔を近づけて来て、フレドは仰け反る。
「いや、何故?」
「いつも、モリ―とお話しているから・・・」
フレドは彼女が涙を流しながら可愛いことを言うので、愛おしくて堪らなくなる。だが、いざ正体を明かそうとすると緊張で声が震えてしまいそうだった。
「俺のことを、よーく見ていてくれないか」
精一杯の虚勢を張って、彼女の前で堂々とする。
(フレドを見ていたらいいのね)
「分かった」
フレドはブツブツと呪文を詠唱する。魔力が身体の内側からフワッと湧いて、ハニーブロンドの髪は黒髪へ、ライトグレーの瞳は金色へと一瞬で変化した。
「えっ、えっ、ええええ!!!」
セレスはまさかフレドが変装しているなんて考えてもなかったので大声を上げてしまう。
(色が変わった!!フレドは一体、誰なの!?)
「いいか、しっかり聞いてくれ。俺の名はフレドリック・ニール・カストライド。職場はカミーユ・ロードス帝国で役職は皇帝。そして、君の婚約者だ!!」
「――――う、嘘でしょう?」
「ああ、嘘みたいだな。この二週間、ガラにもなく女神様へ祈りを捧げた甲斐があった。最高だ!!」
「ウフフフ、嘘でしょう?女神さまに祈ったの?フレドが!?」
セレスは涙を目に溜めたまま、笑い声を上げる。
「ああ、祈った。そして、この二週間は人生で一番悩んだ。本気で国を捨てて、セレスと一緒に何処かへ逃げようかと思うくらい・・・」
「それは大変!!」
「茶化さないでくれ。それくらい深く、真剣に君を愛している」
フレドはセレスの肩へ、頭を乗せた。感情が高ぶり、我慢していた涙が溢れて来たからである。
(嘘っ!?フレド、泣いているの!?)
「もう、何なんだよ!お互いに嘘ばっかりじゃないか・・・」
泣いているフレドの頭の上にセレスは手のひらをのせる。いつものようにほんのり温かい神聖力をフレドへ勝手に流し込んでいく。
「俺、セレスが大聖女だったら、国に命を捧げるって女神様に約束してしまった」
ボソボソという言葉が可笑しくて、セレスはクスクスと笑ってしまう。
「それと、あのイーリスがくれたベールは婚礼用で刺繍に意味があるらしい。学者が言うには双子を授かるかもしれないと・・・」
「えっ、そうなの!?あー、アレ(イーリスの贈り物)は、私達二人へという意味だったのね。大預言者は怖いわね・・・」
(大預言者イーリス、怖すぎない?というか私達、あの箱を二人で開封しておいて互いに気付かないなんて、バカだわ・・・)
「周りが俺と大聖女の結婚話をドンドン固めていくから逃げられなくなって。セレスのことが大好きなのに、会ったこともない大聖女と婚約することになって、本当に辛かった・・・」
(珍しく泣き言を言っているわ。もしかして、フレドの方が私より辛い状況だったのかも知れないわね)
「フレド、もう大丈夫よ。私は間違いなく大聖女だし、あなたは皇帝陛下なのだから、何の問題も無いわ」
フレドはセレスを草の上に下ろし、両手のひらで涙を拭った。セレスは彼の本当の姿を眺めていると漸く、実感が湧いてきた。ただ、真っ黒な髪でも、彼の纏う空気は変わらない。金色の瞳は力強くセレスを見ている。
「恋人のキスをしたい」
フレドからストレートなお誘いを受け、セレスはこくんと頷いた。
--------------------
とうとう、セレスとフレドはお互いの正体を知りました。物語はまだまだ続きます。
どうぞお付き合いくださいませ!!
そして、最後まで読んで下さりありがとうございます。
面白いと思ったら評価、感想のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
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「あ、フレド!!今日は私の方が早かったわね!!」
「遅れて、ごめん」
悩んでいたのが嘘のようにいつも通りの会話が始まり、フレドはホッと胸を撫でおろす。そこへ長老ウサギのモリ―が、フレドだけにしか聞こえない声で話しかけて来た。
『ごきげんよう、皇帝陛下。セレス様は陛下に沢山お話したいことがあると言われていました。私はお邪魔にならないよう下がります。何か御用があったら呼んで下さい』
『分かった。ありがとう』
『どういたしまして!』
モリ―はピョンと飛び上がって、クルリと身を翻すと森の奥へ跳ねて行った。
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セレスはフレドの顔を見上げる。しかし、フレドは彼女に対する色々な想いが入り混じってしまい、つい目を逸らしてしまった。
「何?言えないってこと?それなら、無理には聞かないわ。そうそう!今日は話したいことが沢山あるの!!だから、おやつはお喋りしながら食べられるものにしたわ!!準備するから、ちょっと待ってね」
セレスは慣れた手つきで布を敷き、その上に置いたマグカップへ紅茶を注いでから、アーモンドを練り込んだクッキーをペーパーナプキンの上へ並べる。
「さぁ座って。クッキーは同僚にも差し入れで配ったから、沢山焼いたの。遠慮なく食べてね!」
「ありがとう」
フレドはお礼を告げてから、セレスの横に腰を下ろす。
(先ずは職場環境が良くなったことを報告しなければ!!)
「あのね、報告したいことがあるの!!」
「どうぞ」
フレドは、『ああ今日もめちゃくちゃ可愛いなぁ』と、上の空でセレスの顔を眺めている。彼女は何も気づかず、話を始めた。
(うううっ、ドキドキする。上手く話せるかな・・・)
「まず、二週間前にあの箱を壁から取り出したでしょう?」
「ああ、あの箱のことか」
フレドは婚約祝いの入っていた箱を思い浮かべる。あの後も図書館長ヴォイジャー伯爵からもう一度見せて欲しいと付きまとわれて大変だった。
「そう。あの箱は何の役にも立たなかったのだけど、何故か雇い主たちが逮捕されたの。私の他にも不正に気付いていた人がいたみたい。それで、その人たちが暴いてくれたのよ。ただ、タイミングが良過ぎて驚いたけどね」
「偶然か・・・、それは驚くな」
「でしょう?私、真夜中に雇い主のところへ呼び出されたから、てっきり窃盗で捕まるのかと思ったのだけど、それは全然違う用事だったのよ」
真夜中に侍女を呼び出した?まさか雇い主に手を出されたなんてことはないよなと、無意識にフレドはピリッとした殺気を放ってしまう。
「違う用事とは?」
フレドが怒りを抑えた声で口を挟むと、セレスは額に手を当て、うーんと唸り出す。
(しまった。ここで婚約の話をしてしまうと、グダグダになってしまうわ)
「その話は後でしてもいい?先に職場の話をさせて!!」
セレスがサバサバとしているのを見て、フレドは深読みし過ぎたかも知れないと反省した。自分の行動を誤魔化すため、クッキーに手を伸ばす。
「――――ああ、セレス、このクッキー物凄く旨い!!」
「そう、それはありがとう。自信作なのよ!!――――ええっと、職場の話の続きなのだけど、雇い主が変わったの。それで私、結構出世することになって、この二週間は経営の勉強をしていたのよ」
「セレスが経営?侍女から経営陣に抜擢されたのか?」
フレドの一言でセレスはハッとした。
(あ、私、侍女をしているという設定を完全に忘れていたわ・・・)
セレスが固まったのをフレドは見逃さない。これは何か隠していると感じた。
「セレス?」
「ああああ、どうしよう。バカ、私のバカ~!!」
(侍女が経営陣に抜擢?ないわー!!もう嘘ばっかり吐いていたから、何を言っても嘘になっちゃう。どうしよう!!!)
「ど、どうしたんだ!?」
突然、自分の頬を両手でバシバシ叩きだしたセレスを落ち着かせようと、フレドは彼女をぎゅっと抱き締める。フレドの胸の中に包まれた途端、セレスは動きを止めた。
(フレド、こんな私を優しく抱きしめてくれるなんて・・・)
「大丈夫か?そんなに取り乱さなくても、言えないことなら無理やり聞かないから」
彼女の耳元へ優しく囁く。しかし、セレスは首を大きく横に振った。
(もう無理。これ以上フレドに嘘は吐きたくない。嫌われるかもしれないけど、本当のことを話そう)
「ダメよ!フレド。私を甘やかさないで!!今日、私はフレドに懺悔しないといけないことが沢山あるの!!」
「懺悔?随分、物騒だな・・・」
ボソッとフレドが呟く。セレスは彼の目をじーっと見詰めている。彼女は真面目な話をする気なのだと伝わって来た。
「あのね、私の本当の仕事は侍女じゃなくて・・・」
彼女の声は段々と細くなっていった。
逆にフレドはまさか!?という気持ちが大きくなってくる。そのまさかはこの二週間、フレドが女神様に祈り続けた願いのことだ。そう、セレスが大聖女セレスティアであって欲しいという願い、それは無謀な願いだった。
「あー、もうカッコ悪いわね。いざ言うとなると怖くて・・・。フレド、私の本当の仕事を聞いても、友達でいてくれる?」
フレドは黙ったまま頷いた。奇跡が起こるのだろうか?とハラハラしてしまう。
「あのね、私、えーっと、わたしは・・・」
「――――セレス、セレスティア?」
フレドは待ち切れなかった。もう確認したくて堪らなくて、心の中で何回も繰り返していた言葉がつい口から出てしまった。
「えっ?」
(嘘・・・、知っているの?)
「セレスは、セレスティア・ステラ・メルトンなのか?」
フレドがその言葉を告げると、セレスの顔が真っ青になった。フレドの腕に添えている指先が震えだし、目じりに涙が浮かんでくる。
(ああああ、フレドは知っていたのね。ということは、私の仕事も・・・)
「セレス・・・」
「そう、私の名前はセレスティア・ステア・メルトンよ。この国の大聖堂で大聖女をしているの。それでね、この国の皇帝陛下と・・・・」
震える声でそこまで言った瞬間、セレスは大粒の涙を溢しながら、フレドの胸に顔を押し付け、激しく泣き始めた。嗚咽を漏らしながら。
(もうダメ無理。本当にフレドとお別れしないといけないの?絶対に無理・・・。だけど、彼と今後も会い続けることは人として許されないことで・・・)
フレドは彼女をギュウっと抱き締めた。胸が苦しい。目の奥から熱いものが込み上がって来る感覚がする。でも、涙が零れるのを我慢出来なくなる前に、彼女に告げなければならない大切なことがあった。
「セレス、俺の懺悔も聞いてくれないか?」
「・・・・・」
大泣きしているセレスは何の返事もしない。フレドは彼女を抱いたまま、すくっと立ち上がった。驚いたセレスがフッと顔を上げた瞬間、フレドは彼女の額へキスを落とす。
(なっ!?この感触は!!!)
「ダメ!!キスは恋人じゃないとしてはいけないのぉ~」
セレスは震えた声でフレドへ注意する。やっと視線が合った。彼女の頬を伝う涙はキラキラと美しく輝いていた。
「セレス、俺のことが好きか?」
「――――それは言えません・・・」
(本当は声に出して、好きって伝えたい。大好きよ、フレド。でも、婚約者が出来てしまったから言えないの・・・)
「では、俺の懺悔を聞いてくれないか?」
(フレドが懺悔?私を泣き止まそうとしてくれているの?)
フレドを涙目で見ながら、彼女は小首を傾げる。セレスを抱き上げたまま、フレドは話し始めた。
「俺のこの姿は仮の姿なんだ」
「もしかして、――――本当はウサギさん!?」
閃いたとばかりにセレスが顔を近づけて来て、フレドは仰け反る。
「いや、何故?」
「いつも、モリ―とお話しているから・・・」
フレドは彼女が涙を流しながら可愛いことを言うので、愛おしくて堪らなくなる。だが、いざ正体を明かそうとすると緊張で声が震えてしまいそうだった。
「俺のことを、よーく見ていてくれないか」
精一杯の虚勢を張って、彼女の前で堂々とする。
(フレドを見ていたらいいのね)
「分かった」
フレドはブツブツと呪文を詠唱する。魔力が身体の内側からフワッと湧いて、ハニーブロンドの髪は黒髪へ、ライトグレーの瞳は金色へと一瞬で変化した。
「えっ、えっ、ええええ!!!」
セレスはまさかフレドが変装しているなんて考えてもなかったので大声を上げてしまう。
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「いいか、しっかり聞いてくれ。俺の名はフレドリック・ニール・カストライド。職場はカミーユ・ロードス帝国で役職は皇帝。そして、君の婚約者だ!!」
「――――う、嘘でしょう?」
「ああ、嘘みたいだな。この二週間、ガラにもなく女神様へ祈りを捧げた甲斐があった。最高だ!!」
「ウフフフ、嘘でしょう?女神さまに祈ったの?フレドが!?」
セレスは涙を目に溜めたまま、笑い声を上げる。
「ああ、祈った。そして、この二週間は人生で一番悩んだ。本気で国を捨てて、セレスと一緒に何処かへ逃げようかと思うくらい・・・」
「それは大変!!」
「茶化さないでくれ。それくらい深く、真剣に君を愛している」
フレドはセレスの肩へ、頭を乗せた。感情が高ぶり、我慢していた涙が溢れて来たからである。
(嘘っ!?フレド、泣いているの!?)
「もう、何なんだよ!お互いに嘘ばっかりじゃないか・・・」
泣いているフレドの頭の上にセレスは手のひらをのせる。いつものようにほんのり温かい神聖力をフレドへ勝手に流し込んでいく。
「俺、セレスが大聖女だったら、国に命を捧げるって女神様に約束してしまった」
ボソボソという言葉が可笑しくて、セレスはクスクスと笑ってしまう。
「それと、あのイーリスがくれたベールは婚礼用で刺繍に意味があるらしい。学者が言うには双子を授かるかもしれないと・・・」
「えっ、そうなの!?あー、アレ(イーリスの贈り物)は、私達二人へという意味だったのね。大預言者は怖いわね・・・」
(大預言者イーリス、怖すぎない?というか私達、あの箱を二人で開封しておいて互いに気付かないなんて、バカだわ・・・)
「周りが俺と大聖女の結婚話をドンドン固めていくから逃げられなくなって。セレスのことが大好きなのに、会ったこともない大聖女と婚約することになって、本当に辛かった・・・」
(珍しく泣き言を言っているわ。もしかして、フレドの方が私より辛い状況だったのかも知れないわね)
「フレド、もう大丈夫よ。私は間違いなく大聖女だし、あなたは皇帝陛下なのだから、何の問題も無いわ」
フレドはセレスを草の上に下ろし、両手のひらで涙を拭った。セレスは彼の本当の姿を眺めていると漸く、実感が湧いてきた。ただ、真っ黒な髪でも、彼の纏う空気は変わらない。金色の瞳は力強くセレスを見ている。
「恋人のキスをしたい」
フレドからストレートなお誘いを受け、セレスはこくんと頷いた。
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