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しおりを挟む携帯の振動が響く。志津希は働かない頭を無視しながら手探りでベッドサイドの携帯を探し当てる。軋む体が痛い。
「もしも、し…」
『志津希!!やっとでた!葉津希っ!志津希出たよ!』
キーンと耳鳴りが鳴る。慌ただしい兄弟の声が志津希を眠りの世界から引き戻した。
「なぁ、ちゃん?…」
声に出したつもりが音がうまく出なくて掠れてしまう。志津希は電話口にバレないように咳払いをした。部屋の時計に目をやると夜中の0時を少し過ぎたところだった。
『志津希っ、どうしたの?なにがあったの?』
「あ、…」
志津希は思わず口から声が出た。最近はめっきり減ってしまった不安やその他大きな感情の共有。夕方からまともに連絡も取れていなかったし普段あまり他人との場面で感情が動かない志津希が何かあったに間違いないことにふたりは心底心配したのだろう。
『志津希?、平気か?』
葉津希まで不安そうな声で志津希に問いかけている。志津希は慌てて頭を動かしベッドから起き上がった。とにかくふたりに心配はかけたくない。
「ごめん、なぁちゃん、はぁちゃん…。ごめんね、」
あれだけ泣いたのにまだ涙が出る余地があるらしい。鼻の奥が痛くなって滲む涙を抑えようと志津希は目を擦る。赤く腫れた目は少し触れるだけでひどく痛む。
『志津希…ほんとになにがあったの?、俺たちにも言えない、?』
「言え、ない…、」
『、志津希…』
凪都のことはふたりにさえ言えなかった。ベラベラ喋ってしまえば凪都の家に確実に迷惑がかかる。身辺調査でもう既に志津希のことは調べ尽くされているだろうからもしかしたら奈津希と葉津希になにか迷惑がかかるかもしれない。そんなの耐えられるわけない。それを凪都が知ってまた傷ついてしまったら?考えるだけで背筋がぞっとする。
『志津希。明日学校に迎えに行く。いいな?』
「え?」
『葉津希?』
葉津希の提案に志津希は思わず聞き返してしまう。頭はぼーっとしてるしあまり物事を考えられる状態ではない志津希は聞き間違いかと思ってしまう。
『迎えに行く、ふたりで。いいだろ?奈津希。』
『…うん、絶対行く。』
先程は驚いていた奈津希も覚悟を決めたように頷いている。志津希は溢れる涙を抑えるのに必死だった。静かに肩を震わせている志津希をふいに暖かい体温が包み込む。携帯をあてている耳の反対側に凪都の吐息がかかった。
「行っておいで、志津希。」
小さく小さくつぶやいた凪都の声に志津希は黙って頷くことしかできなかった。背中から志津希を包み込む凪都は志津希の素肌を落ち着かせるように優しく丁寧に撫でる。
「会いたい、会いたいよ…なぁちゃん、はぁちゃん…。ふたりにっ、会いたい。」
ふたりの声と凪都の優しさに志津希は堰を切ったように子供のように泣きじゃくった。凪都はただ黙って志津希を胸におさめながら溢れ出る志津希の涙を指で優しくすくう。しばらく泣いた後奈津希は必ず迎えに行くと念を押して志津希を宥めながら電話を切った。
「なぎと、」
「大丈夫?…志津希、」
さらに枯れてしまった志津希の声は凪都をより一層不安にさせた。お互い目が腫れて求め合った痕跡が体に残っている。志津希の体には凪都が落とした赤い花が至る所に咲いていて凪都の背中には志津希の爪の跡が生々しく血を滲ませていた。凪都は志津希の頬を撫でながらこつんと額を合わせる。
「ごめん、志津希の気持ちが完全に俺のものになるまで待つって決めてたのに…」
労わるように腰を撫でられ志津希の体温が一気に上がる。そういえば志津希は今とんでもなく恥ずかしい状況にあるのではないかと急に頭が冷静になって顔が熱くなるのがわかる。
「ふっ、志津希真っ赤っか。」
凪都は目を細め声を出して笑った。まさに愛おしいものを見る目だ。
「わらわ、ないでっ…」
笑う凪都に志津希は少しだけ抵抗をする。恥ずかしくて居た堪れない。凪都を求め声を上げ、欲張りなほど欲しがってしまった。数時間前の熱く志津希の名前を呼ぶ凪都の声を思い出してまた一段志津希の体温が上がる。あんな熱情に犯されるのは人生で初めてでどうしたらいいかもわからずただ凪都を求めてしまった。
「志津希、好きだよ。」
バングルをはめた腕をとり凪都は志津希の手を自分の頬へ当てる。志津希の手のひらに凪都の唇があたりちゅっと軽いリップ音が響いた。
「ぅう、…」
「かわいいね、ほんと。」
凪都のストレートな愛情表情が志津希の心臓を乱していく。さっきまでお互い必死だったのに凪都はもう自分のペースを取り戻している。志津希は少し悔しくて同じように凪都の手を自分の頬へあて同じように手のひらへ唇を落とす。きらりと視界の端で凪都のバングルが光った。
「凪都。好き、だよ。」
掠れた声はふたりきりの甘い時間に溶けていく。目を見開いて志津希を見る凪都は時が止まったように体が固まっていた。貴都から凪都を諦めろと言われ本能的にそれを拒んだ。離れると考えただけで胸が張り裂けそうで息がうまくできなくなった。同じ場所にいるのが辛くて辛くて仕方なかった春には抱かなかった感情。凪都がどんな人間であっても凪都であればそれでいいと思えた。
「俺今死んでもいいかも…」
「なっ、物騒なこと言わないで、」
ふたりはあまりにも馬鹿な会話と幸せな感情に声をあげて笑った。触れるだけの軽いキスを幾度となく繰り返す。くすぐったいけど心地いい。好きという感情はこんなにも安らかなものなんて志津希は知らなかった。
「ごめん。志津希。」
「え、?」
ぐるんと視界が回った志津希は咄嗟に目を瞑る。ベッドが軋む音が響いて志津希は再びシーツの海に溺れていく。
「…もう一回、ね?」
少し困った顔で笑った凪都は志津希の体を優しく撫でた。
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