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しおりを挟むガタガタと揺れながら凸凹道を走るバス。志津希はぼーっと窓の外を眺めていた。日曜日の昼下がり暖かい春の太陽が優しく車内を照らしている。気の抜けた志津希はふわっとあくびをする。大きな手が志津希の頭に触れ凪都の肩に引き寄せられた。
「寝てていいよ。」
志津希は心地よい揺れと暖かい陽気に意識を手放しそうになる。奈津希と葉津希とは実家の最寄駅で待ち合わせになっている。ふたりは学園まで来ると言ったが志津希は流石にそれを断った。凪都は志津希の体を労ってか学園から1番近い駅まで着いてくると言って聞かなかった。日曜日早朝のバスは当たり前だが誰もいない。ふたりだけの世界のようでなんの躊躇もなくくっついていられる。ふたりは昨日の夜の延長線上にいた。志津希はあまり働かない頭で少し考え事をしている。
「ねぇ、凪都。」
「ん?」
凪都の顔を見ずに志津希はぽつりと凪都を呼ぶ。頭の中でぐるぐると回るいろんなこと。
「…影山くんと凪都はどんな、関係?」
なるべく感情を出さずに言葉を吐き出す。内心は凪都からの答えを聞くのが怖くて仕方なかった。暁美と名前を呼ぶ凪都と勝ち誇ったように笑う暁美が頭から離れない。
「暁美は…影山電気っていう会社の一人息子なんだよ。初等部から学園にいたけど当時はほぼ関わりはなくて、高学年に上がった頃にうちのグループが影山電気を吸収したんだ。それまでも影山電気と取引はあったみたいだけどその頃から会社同士がもっと親密になって影山家とうちで個人的な付き合いまで始まった。」
淡々と凪都は声を出す。ふたりとも目は合わせず流れる景色とバスの車内を見渡していた。凪都の肩に頭を預けながら志津希はそっと凪都の手を握る。ぎゅっと答えるように握り返された手に心底安心した。
「これは俺のただの予想だけど暁美はたぶん父さんや暁美の両親に俺に近づいて取り入るように言われてるんだと思う。」
「え、…」
「父さんは伊勢山の血を途絶えさせたくない。影山家はなんとか伊勢山に恩を売りたい。利害が一致してる。俺が暁美を受け入れれば、妻は他に用意してそちらを表向きの“家族”にすればいい…父さんが考えそうなことだ。」
諦めたような口調に凪都が経験してきた苦労が伺える。志津希は頭の中で暁美が悲しそうに言った言葉を思い出していた。凪都の未来を邪魔しないし都合よく使えば良い。都合よくとはそういうことなのだ。志津希は思わず握った手の力を強めてしまう。
「悲しいし、寂しいね。とっても…」
ぽつんと呟いた志津希の言葉に凪都は黙って頷いた。凪都が暁美をあまり邪険にしない理由が腑に落ちてしまう。暁美が本当に凪都の事が好きで求めているならこんなの悲しすぎる。
「…俺はね、ただ志津希が好きなんだよ。男だからいいとか女だからだめだとかそんな次元じゃないんだ。」
はっきりしない意識の上だからこそそれが凪都の本当の本音のように感じて志津希は嬉しさを隠せなかった。志津希は自分が思っているよりずっと凪都に執着しているらしい。あんなに認められなかった自分の気持ちも一度飲み込んでしまえば簡単に胸に落ちる。
「もう一個聞いてもいい、?」
志津希は小さく凪都に問いかけた。頭を上げて目を見ると凪都は声を出さずにん?と眉を上げる。
「なんで凪都は僕が好きなの?…なんで凪都が僕をこんなに好きなのかずっとかわかんない、」
答えを知るのがなんとなく怖くて今まで聞けなかった。今なら凪都がなんと言っても凪都の気持ちを疑う事なく受け入れられるような気がした。
「…志津希は覚えてないかもしれないけど、俺たち1年の時一回だけ話してるんだよ?」
「え、??」
志津希から視線を外した凪都は遠くを見ながらゆっくりと話し出した。
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