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しおりを挟む駅の喧騒が耳に入り込んで少しだけ安心する。日曜日に出かけることなんて滅多になくて新鮮だ。春休みからまだ一カ月ぐらいしか経ってないのに実家の最寄駅はもうすでに懐かしさがあった。改札の向こう側に瓜二つの頭。この場合志津希が合流してしまえば瓜三つだ。
「なぁちゃん、はぁちゃんっ!」
自分でも頬が上がるのを感じる。声をかけた志津希が手を振るとふたりは同じように手を振り返してくれた。ふわふわする気持ちを抑えつつ急いで改札を抜ける。
「志津希っ」
心配そうに眉を下げた奈津希が志津希をぎゅっと抱き寄せる。奈津希を受け止めた志津希は苦笑いを浮かべながら葉津希と目を合わせた。葉津希も奈津希と同じような表情を浮かべている。葉津希の指がスッと伸びてきて志津希の目に触れる。泣いて腫れた目は一晩寝たぐらいでは治らずヒリヒリと痛い。
「ごめんね…心配かけて、」
ぽつんと志津希が謝ると奈津希は抱きしめる力を強め、葉津希の触れる指先はより優しいものに変わる。唯一無二の味方。志津希を無条件で受け入れ、甘やかしてくれる存在。肩の力が抜けるのを感じていた。
「さ、帰ろ。志津希。」
「うんっ、」
ふたりが優しくて鼻の奥が痛くなる。志津希はふたりの腕に自分の腕を絡ませてぎゅっと抱く。3人でいると本当に心の底から安心できた。この安らぎは凪都の物とも違う。確かに目に見えない繋がりを志津希は感じていた。産まれる前から片時も離れなかった存在。やっぱり3人でいると何もかもがしっくりくるのだ。自分から離れてしまったことを少し後悔する瞬間でもあった。3人肩を並べて歩く。子供っぽいけど組んだ腕を離したくなかった。
「そういえば!夕方春くんも帰ってくるって!」
弾んだ奈津希の声に志津希の心臓はきゅっと痛くなった。今1番聞きたくなかった名前だな、。志津希はなるべく動揺を表情に出さないように努める。
「そ、うなんだねぇ」
「春くんも心配してたよ?、志津希連休も帰ってこなかったし春くんの連絡もあんまり返ってこないって」
「うん、ごめん…」
あの日春に会って以来メールも電話も来ているのはわかっていたし他愛もないことは返していたつもりだった。目まぐるしく変わった学園の環境、頭の中は凪都のことでいっぱいだった。正直になると春のことを考える隙間がなかったんだと思う。志津希は俯きながら春にどう言い訳をしようかぐるぐると頭の中で考えている。
「志津希?」
葉津希の心配そうな声が聞こえて志津希は慌てて顔を向ける。
「ん?なに?はぁちゃん」
「大丈夫か?」
大丈夫といえば嘘になる。志津希にとってはかなり状況がまずい。春は凪都に会ってるし、凪都は相当春を挑発している。今すぐにでも頭を抱えて嘆きたいけどそれもできない。志津希は苦笑いを浮かべ、ね?と声を出さずに葉津希を諌めた。なにも言わないけど葉津希がなんとなく志津希の気持ちを察しているのはわかっていた。奈津希が春を好きなのは本人同士以外誰が見ても明らかだし、春が3人平等に扱っているように見えて奈津希を第一優先にしてるも明らかだ。志津希は春への気持ちをはっきりと自覚したときから徹底的に春へも奈津希へも気持ちがバレないようにしてきた。でもさすがと言うかなんと言うか。葉津希はわかってしまったらしかった。自分の気持ちに大事な葉津希を巻き込んで申し訳なくてたまらない。
「早く帰ろ、おばあちゃんも待ってるし」
志津希は少し大袈裟に声を出した。ふたりの腕をぎゅっと引き寄せる。春の陽気が心地いい。3つ並んだ同じ顔は志津希の懐かしい帰路についた。
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