君に心を

河嶋 亜津希

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ジャケットを脱いでクローゼットのハンガーを取り出す。志津希はいつものように制服をしまおうとしてふと手を止めた。
「付けなくて良いの?」
声がした方に視線を向けると同じように制服をハンガーにかけた凪都が笑っていた。同じ事を考えている。志津希は思わず苦笑いを返す。

「目立っちゃうよなぁ、って思って…」

「目立たせるように付けるんだよ?」

人の視線にうんざりしている志津希を凪都はいつも面白がるようにくすくす笑っている。クローゼットをパタンと閉めた凪都はゆっくりとネクタイを解きながら志津希に近づく。志津希は凪都の長い指の行方に釘付けだ。薄い青のシャツの袖口からきらりとゴールドのバングルが光る。

「はい、貸して。」

凪都は志津希の手から徽章を奪い取る。クローゼットの扉にひょいっとハンガーに吊るされたジャケットをかけた。事の成り行きを見守る志津希に手招きをして志津希は素直に従う。プラスチックの箱から出された青い石は心なしかより輝いて見える。背中に凪都の体温を感じた。志津希の肩越しに凪都の腕が伸びてきて校章の下に星が輝く。ぎゅっと凪都の腕が志津希の肩を抱く。志津希はそっとその逞しい腕に触れた。

「すごいなぁ、志津希は。」

凪都の唇がちゅっと音を立てて志津希の頭に触れる。くすぐったくてふわふわと体温が上がる。志津希は凪都に少しだけ体を預けながら口を開いた。

「たぶんだけど、今回は僕の努力じゃなくて凪都のおかげだよ。」

「え?」

驚きを含む凪都の声が志津希の耳をすり抜ける。昨年のテスト期間はこんなにも穏やかに時間がすぎることはなかった。寝不足でボロボロだったし過集中気味になる志津希は気づいたら食堂の時間が終わってしまうなんてこともざらでまともに食事も取れなくなっていた。きちんと区切りを付けて睡眠もできなくてテスト期間が終わると本当に満身創痍だったのだ。でもそれが志津希の当たり前でそうしないと成績を落とすかもしれないという不安で平静を保てなかった。

「テストの後っていつももっとメンタルも体もボロボロで、まともに動けなかったから…」

「はぁー、、」

わざとらしいため息の後凪都の抱きしめる腕の力が痛いぐらいに強くなる。志津希はなだめるように凪都の腕を優しく叩いた。

「凪都、痛いよ。どうしたの、?」

「俺がやってたこと志津希にとっては迷惑かなって、ひとりで集中したいかもしれないのに志津希が追い詰められてるの見ると辛くて強化授業の休憩も邪魔になってるかもしれないって、。俺、志津希の勉強の手止めてしかなかったから、不安で…」

志津希の耳にかかる小さな優しい言葉。志津希は凪都の腕を優しくほどいて凪都を正面から抱きしめた。完璧な凪都の普段は微塵も感じない弱さが愛おしくてたまらない。凪都も志津希と同じ人間で同じように志津希を好きでいてくれるのが分かるから。志津希は凪都の胸に顔を埋める。凪都の鼓動に安心した。

「強化授業時来てくれて嬉しかった、。夕飯買ってきておいてくれたり、声かけて寝かせてくれたり…全部全部嬉しかったよ。」

きちんと食べてきちんと寝ると頭がすっきりして結果いつもよりいい成績になったんだと思う。凪都が嬉しそうに志津希に賞状を渡したときこれは全部凪都のおかげだとはっきり気づいた。

「志津希が呼ばれて、他人のことでこんなに嬉しくなれるんだって思ったんだ。だからこれ、付けててずっと、目に入るたびに思い出して嬉しくなるから。」

凪都は志津希のジャケットに輝く星を愛おしそうに指でなぞった。志津希は凪都の背中に縋るように抱きついて自分から唇を求めた。
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