君に心を

河嶋 亜津希

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鐘の音が鳴り響く。テスト明けの頭がぼーっとして志津希はふわっとあくびを吐き出す。やっと1学期の中間試験が終わってひと段落ついたところだった。いつものように退屈な点呼を無駄に高い天井にかけられた無駄に大きな時計を見ながらやり過ごす。

「えー、中間試験も終了し受験生の三年生諸君には__」

志津希のあまり働かない頭は長々と喋る教師の言葉をキャッチせず右から左へすり抜けていく。教師というものはつくづく再放送ばかりを繰り返している。毎年毎回聞き飽きた。あれから本格的に梅雨入りして人がひしめく講堂はジメジメと嫌な湿度になっている。窓から差し込む光は比較的明るいのに今も雨は降っているのが不思議だった。

「2年・寮生学年一位 河嶋志津希くん。」

「志津希っ!」

「は?」

隣の凪都が嬉しそうに志津希の肩を叩いて志津希はようやく現実に引き戻った。拍手の音が割れんばかりに講堂に響いている。

「河嶋くん?壇上へ。」

怪訝な表情を浮かべたマイクの前に立つ教師が志津希を急かす。体が固まってしまった志津希は凪都に無理矢理立たせられ躓きながら壇上へ歩を進める。嫌な動悸が志津希の心臓を忙しく動かしている。高さのあるステージに上がると一気に講堂を見渡せてふたつの目玉が無数に志津希を見ていた。吐き気を催すほど志津希にとっては不快だ。程なくして志津希を含めた3人の寮生がステージに並べられた。各学年の寮生学年一位だ。お願いだから早く終わってください…っ、。志津希は神に祈るようにぎゅっと手を握って下を向く。志津希はすっかりテスト後の最悪な恒例行事の存在を忘れていた。うら若き十代の水々しい精神を研ぎ澄ましお互いに切磋琢磨させて成長を狙うという変態的教育方式のもと、各定期テストで学年一位の者はこうして点呼で発表される。昔は全ての成績が掲示板に晒し上げられていたらしいが時代の変化と共に一位のみが発表されるようになったと噂で聞いた。何とも気持ちが悪い文化に眩暈がする。

「では、時間短縮のため例年通り各学年の寮代表より賞状と記念品の授与を。各寮代表は壇上へ。」

再び志津希の眩暈が強くなる。これも志津希は忘れていた。度々学年の表彰は教師からではなく、寮代表から行われる。これも寮代表の仕事のひとつだ。寮生2年の寮代表。つまり志津希に賞状を渡すのは今にこにこで壇上へ向かってくる凪都である。目立ちたくない志津希は今まで気配を消して学園生活を送ってきた。学年一位なんかなるまいと誓っていたのに。志津希の願いは神には届かなかったらしい。志津希ですら名前を知っている各学年の寮代表が成績優秀者の前に並ぶ。

「おめでとう、志津希。」

志津希にだけ聞こえる声量で賛辞を送りながら凪都は嬉しそうに賞状と記念品を志津希に手渡す。本人よりも凪都はこの結果に喜んでいるらしい。少しだけ触れた指先から熱が伝染してくるのがわかった。ちらっと凪都と目を合わせて凪都にだけわかるように小さく頷く。志津希の精一杯のありがとうだ。意味を理解した凪都が柔らかく微笑んだ。

「尚、記念品も例年同様星院生学年一位の証である星を模った徽章となります。受け取った3人は校章と共に必ず制服に付けるように。」

志津希は手元に視線を落として受け取ったプラスチック製の透明な箱を見る。星型のピンバッジには校章と同じ青色の石が埋め込まれている。学園の情報に疎い志津希でさえ知っている。というより勉学で寮生になっている者が知らないわけがない。これを付けている生徒は一度でも学年一位になったことがある生徒で無条件で他の生徒から羨望の眼差しを受ける。この星を集めるのに必死な人間も中にはいるらしい。志津希はキラキラと光を反射する青色の石に目が吸い込まれていくようだった。そういえば少しだけこの星に憧れていたような気もする。羨望なんか欲しくはないけど努力が形になるのは悪いことじゃない。とにかく何とか今回も学費低額を勝ちとれたことに志津希はほっと胸を撫で下ろした。
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