87 / 104
86
しおりを挟む息ができない。また同じことの繰り返しだ。志津希は机の中に広がる光景に心底呆れ返った。いつもいつも同じこと。やることのレベルは小学生となにも変わらない。
「…馬鹿みたい。」
渋る凪都を置いて少しだけ教室に早く来たことが間違っていなかったと安心する。稲瀬やましてや凪都にこのことが知れたら?考えるだけで恐ろしい。息を吐き出してから志津希は机の中の雑多なゴミを掻き出していく。心臓が、痛い。子供の頃幾度となく見た光景だ。一年生の追っかけがましになったのはおそらく誰かが幽霊部屋のことを広めたのか。憧れや好意に応えてくれない状況はその対象に嫌悪を抱くのに最も簡単な近道だ。最近は凪都や稲瀬と一緒に過ごす時間が長くて勘違いされることも多い。人より多く与えられる人間はその分人に疎まれる。志津希はよく自覚していた。
「…ねぇ。」
飛び込んできた声に志津希は体をビクッと震わせた。ゆっくりと声のした方に目を向ける。志津希の机のそばにいつか講堂で姿を見たことがある男子生徒が立っていた。暁美の友達だ。志津希は思わず眉を歪める。
「これ、影山くんが…」
「…違うって言ったら、嘘かもしれない。」
真っ直ぐな目が志津希を捉える。少しだけ手が震えるのがわかる。ふいに目の前から姿が消えたと思ったら男子生徒は床に落ちたゴミを拾っていた。志津希は慌てて追いかけるようにしゃがみ込む。
「あ、の…」
「ごめんなさい。暁美は必死だから、伊勢山くんと一緒にいるために。」
心臓を鷲掴みにされたような感覚がずっとなくならない。目の前の人間がなにを考えているのか志津希にはわからない。
「暁美は、河嶋くんが幽霊部屋にいたことを一年生に広めた、。河嶋くんが伊勢山くんに取り入ってるとも…たぶんそれを言って河嶋くんがどうなるかも分かってたと思う。」
床を見つめてただ淡々と話す口振りに直感的に嘘はないように思えた。つまり直接手は下してないけどきっかけは暁美。違うと言えば嘘になるはそういうことだ。志津希は相手の手に握られたゴミを奪い取った。
「君が来たのは、なにが…目的?」
目があって瞬きが3回。それだけなのにやけに時間の進みが遅い。
「暁美を、許して欲しい。」
切実な響きを含んでいた。志津希は訳がわからず眉間皺を寄せた。
「河嶋くんが、伊勢山くんを好きで一緒にいるのは分かってる。もちろん伊勢山くんが河嶋くんを好きなことも…でも暁美は、暁美は物心ついた時から伊勢山くんしか見てないんだ。伊勢山くんに受け入れてもらうこと以外生きる価値なんかないって、本気で思ってる。」
暁美の抱えてる事情はたぶん志津希が考えているよりもっと深刻で志津希が想像するよりもっと辛いものなのだろう。でもだからといってはいそうですかと凪都を諦められるほど志津希は大人じゃない。貴都の前で離れたくないと泣き喚けるほど子供でもない。
「ただ、暁美を許してあげて…いつか絶対に自分の好意は叶わないって絶対に気づくから。…暁美はそういう子だから。」
この子は暁美の何を知っていて暁美と凪都の関係をどこまで理解しているんだろうか。志津希の頭はごちゃごちゃと情報が錯綜していてまともな思考回路が生まれて来なかった。
「河嶋くんのおかげで暁美が気付く日も近づいていると思うんだ。」
ただはっきりと言い切る男子生徒の言葉は強く、根拠のない自信を持っているようだった。志津希は少し震える手を抑えるようにぎゅっと握り男子生徒に向き直った。
「僕は、最後に凪都が影山くんを選ぶならそれを否定はしない。」
志津希の言葉に驚いたように一瞬目を見開いて息を飲んだのが分かった。見つめ合う瞳の先に疑問が見えた。だけどこれは志津希の本心だ。凪都に求められないぐらいなら凪都から離れた場所で凪都を見守っていたい。求められず傍にいるのはつらすぎるから。
「でも、…凪都を、僕は諦めたくない。」
だからこんな小さな子供の嫌がらせにも暁美の宣戦布告にも負けられない。凪都を失うことが何よりも志津希は怖かった。
「河嶋くんは、本当に…そっくりだね、」
見つめられている目がぐらぐらと揺れる。つぶやかれた言葉の意味が志津希にはわからなかった。志津希は不思議に思いながらただ何もせずお互い黙って向き合っていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※この物語はフィクションです。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。
■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる