99 / 104
98
しおりを挟む志津希の顎に優しく史乃の指が触れる。化粧なんて生まれて初めてで志津希はどうにも体が固まってしまっている。
「ほんと目がくりくりしていて素敵ね。前髪、長いのも素敵だけど今日は少し上げてもいいかしら?」
史乃は強引でパワフルだが着飾っていく過程で絶対志津希を否定しなかった。同級生と比べると小さな身長にぱっとしない普通の顔も史乃は素敵と褒め称える。志津希は史乃の提案に成すすべなく首を縦に振る。袖を通すまで派手すぎると感じていた水色のチェック柄のスーツは深い紺色のシャツを合わせるとシックにまとまり落ち着いた雰囲気を出した。どんどん移り変わる自分の姿はらしくないのにまるでそれが志津希を演出する1番の最適解に思えてくる。志津希は史乃の着せ替えを体験しながら5月の連休で凪都に服を買ってもらった時のことを思い出していた。凪都が楽しそうだったのは史乃の影響もあるかもしれない。志津希は学園を出るときにこっそり付けたバングルに目を落とす。スーツにバングルは少しアンバランスだがシルバーのそれは邪魔することなく収まっていた。ふわりと史乃の長い指が志津希の前髪をといて整えていく。史乃はまるで魔法使いだった。
「うん。やっぱりこの方が素敵ね。」
「さすが史乃さん、腕は一級品。」
優しく微笑んだ史乃は手についた整髪剤をタオルで拭き取って志津希の肩へふれた。ふわりと上がった前髪が大人っぽい。鏡に映る自分はまるで別人だ。
「史乃様。終了いたしました。」
かちゃりと控えめにドアが開いて全身黒の服で身を包んだ従業員が史乃に声をかける。志津希が振り向くと稲瀬を視界に捕らえて満面の笑みを浮かべるアルバート、腕を組んで難しい顔をした凪都が部屋に入ってきた。
「あら、素敵になったじゃない。一号店のスタッフはやっぱり優秀だわ。」
満足気にふたりを見た史乃は納得しながらうんうんと頷いている。ふたりを連れてきた従業員は史乃に褒められて感激の表情を浮かべていた。史乃はツカツカとヒールの音をたなびかせながら少し乱れた凪都の襟元に手を伸ばした。アルバートは深いワインレッドのダブルのスーツに黒いタートルネックのトップスが魅力的な雰囲気をさらに上げている。いつも下ろしてあるブロンドは緩く巻かれハーフアップになっていた。高校生とは思えない出たちに純イタリア人の骨格の違いを感じてしまう。
「お前ほんと史乃さんの手が入ると外人だな。」
「稲瀬さんっ、似合ってますよ。」
ソファに座って頬杖をつく稲瀬の隣にアルバートは長い足を組んで座る。ふたりが並ぶと雰囲気がマッチしていて素敵だ。ちらりと凪都を盗み見る。濃紺の無地のスーツは華やかな凪都の顔を引き立てている。同じ色のネクタイと黒いシャツが引き締まってかっこいい。手首を見ると当たり前の様にゴールドのバングルが光っている。志津希から見える景色はモデルの撮影風景の様で目の前のものは現実なのかだんだん分からなくなってきた。
「志津希?」
「あら、やだっ!最後の仕上げを忘れてたわ。」
志津希を呼んだ凪都を遮って史乃が志津希に駆け寄る。再びくいっと顎を持ち上げられてブラシが唇に触れる。
「はい、完成。」
史乃は満足気に志津希に微笑んだ。鏡の中の自分を見つめていると不意に体が引っ張られて気づけば凪都の腕の中だった。
「ちょ、とっ」
「母さん、志津希に触りすぎです。」
志津希は後ろから抱きしめる凪都の腕を外そうと抵抗するもびくともしない。稲瀬に助けを求めるもにやっと笑って両手を上げられた。アルバートも何故か幸せそうに微笑んでいた。
「いいじゃないのよぉ、ママ可愛い物が好きなの。志津希くんは可愛いわね、凪都。」
ちょんっと赤いネイルの指先が志津希の鼻に触れる。史乃は美しい顔を挑発的に凪都に向けた。
「はぁ!?」
「さ!あんたたち!気合い入れなさいよ。」
ジャケットを手に取って肩にかけた史乃は腕を組んで先陣を切った。志津希は訳もわからないままただ抱きしめる凪都の腕を少しだけ力を込めて握ることしかできなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話
みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。
数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※この物語はフィクションです。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2025.12.14 285話のタイトルを「おみやげ何にする? Ⅲ」から変更しました。
■2025.11.29 294話のタイトルを「赤い川」から変更しました。
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる