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しおりを挟む「ありがとう、春くん」
「ん、今日はバイトないから終わったら連絡してこい。迎えにいく。そのまま買い物行くぞ。」
そう言って春はバイクを出した。小さくなっていく春の背中をしばらく見つめる。角を曲がって見えなくなると奈津希はようやく校門に足を向けた。
「…さむ……」
同じ制服をきた生徒が奈津希を通り越していく。公立千岩北高等学校。学力は普通。特に秀でたところはないが平和でいい学校だと思っている。唯一の文句と言えば坂の上にあるところだ。春は上まで乗せていくと言ったが流石に断った。いくら早朝とはいえ生徒はちらほらと見受けられるしクラスメイトの顔も見える。バイクで送り迎えなんて高校生には格好の話題だ。いちいち説明するのが面倒なのは目に見えている。春はここの卒業生でふたりは一緒に学校へ通っていた。もう半年以上経っているのに奈津希はどうにもまだひとりの登校が慣れない。奈津希がここに入学したのはもちろん春がいたという不純な動機だ。学力も奈津希にとっては丁度良い感じで周りもなんら違和感を感じていなかった。兄弟たちには当然のように千岩北に行くことになっていたらしい。変に怪しまれることもなく入試も難なくクリアし晴れて春と同じ高校に通い始めた。小学校も中学校も春と三つ子は一緒にいてやっと奈津希だけが春を独り占めできようになったのだ。でもそれも一年間の期限付き。いつか終わりが来るのは分かっていたけどやっぱり少しさみしい。春と歩いた坂道を奈津希はひとり、のろのろと足に重りがついたように登っていく。
「河嶋くん?おはよう。」
声をかけられ振り向くと見知った顔がそこにあった。相沢 華蓮はまっすぐ流れる黒髪を風になびかせる。華蓮は一年生のときから奈津希とクラスメイトで一緒に風紀委員をしたこともある。奈津希にしてはまぁまぁ喋る方だ。なんで仲良くなったのかはあまり覚えていない。だが華蓮は面倒見がよくあまり人付き合いが得意じゃない奈津希を気遣ってなにかと手を差し伸べてくれた。おかげ様で風紀委員は無事に終了した。
「おはよう。相沢さん」
「今日はずいぶん早いね。」
隣に並んだ華蓮とゆっくり歩き出す。話していると白い息が吐き出されるのがはっきりわかって余計に寒くなる気がした。坂に沿って立つ桜の木は葉が全部落ちて寒そうだ。
「うん、ちょっとね。相沢さんは?いつもこの時間?」
「今日は風紀の仕事があっていつもより少し早めなんだ」
「そっか。」
奈津希は二年で風紀委員にはならなかったけど華蓮はそのまま続けていた。まめな性格だし華蓮にはあっているらしい。華蓮と他愛もない話をして校門に続く坂を登っていく。
「じゃあ私こっちだから行くね。また教室で。」
「うん、また。」
門をまたぐと華蓮は手を振って奈津希に背を向けた。奈津希はすぐに二年の下駄箱へと向かう。まだ早い時間だからなのかほとんど人はいない。春の言う通りもう少し寝れば良かったと奈津希はあくびを吐き出した。
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