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しおりを挟む携帯が震えて春からのメールを知らせる。奈津希は慌てて携帯を開いた。
〝信号待ち。もうちょっと待ってろ。〟
外だと言うのに口角が上がってしまいそうになる。
〝わかった。朝のところにいるね。〟
携帯を制服のポケットにしまって奈津希は空を見上げた。雲の間に薄い水色の空が広がっている。今日の授業はなにも集中できなかった。先生の声が右から左にすり抜けていく。手は動かしていたが頭はずっと葉津希のことと今後のことを考えていた。喧嘩なんか本当に久しぶりでどう仲直りしていたか忘れてしまった。
「どうしよう…」
思わず奈津希は声に出していた。考えても考えても答えは出ない気がした。どちらかが動かないと答えは生まれない。やっぱりここは兄である奈津希から動いてあげるのが優しさなんだろう。だけど奈津希にはその勇気が出なかった。また自分勝手に怒鳴って葉津希を傷つけたくない。でも早く仲直りしなきゃこれ以上春くんに迷惑かけられないよな。奈津希の考えはずっと同じところでぐるぐる回っていた。
「奈津!」
「っ!い、たぁーもぉ春くん!」
「ぼーっとしてんなよ。」
奈津希にデコピンをくらわせた春が悪戯っぽく笑っていた。寒さのせいか痛みがじんじん広がる。思わず奈津希は額に手を当てた。
「普通に声かければいいだろぉ!」
悪態をつく奈津希になおも春は笑う。
「名前呼んでも反応しないお前が悪い。ほら、行くぞ?」
奈津希に反論をさせないままヘルメットをかぶせて春はバイクにまたがった。奈津希は渋々春の後ろに乗り込む。いつものように春の背中にぎゅっと抱きついた。
「落っこちるなよ。」
春のバイクは軽快にエンジン音を鳴らして走り出した。暖かい春の体温が伝わってくる。無条件に奈津希は安心していた。流れる景色を目で追う。春が奈津希を元気づけようとしてくれているのが痛いほど伝わる。奈津希に気を使わせないようにしてくれている。本当に優しい。だけどその優しさは奈津希にだけではないことを知っている。きっと春は誰にでもそうなのだ。志津希や葉津希がこうなってもきっと同じように春は優しく接するんだろう。この優しさが自分にだけ向けられればと何回願っても叶わない。春に朝言われたことがぐるぐると頭に巡る。奈津希は春を失いたくない一心で自分の気持ちに蓋をしてきた。春に必要とされてなくても叶わないのならせめて幼馴染のままでいたいのだ。みんなと同じ優しさでいいから春の優しさが欲しい。これ以上考えたらもっと悲しくなりそうで奈津希は思考回路を止めた。今は春の体温があるだけでいい。そう素直に思えた。
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