君に恋を

河嶋 亜津希

文字の大きさ
18 / 81

18

しおりを挟む

ぼーっとした意識が戻ってくる。頭の痛さも体の熱さも引いていた。奈津希はベッドの中に温もりを探す。

「ん、んー…」

いくら探しても春の体はない。代わりに携帯が手に当たった。奈津希は体を起こしてひとりのベッドに座る。遠くでシャワーの音が聞こえた。眠い目をこすりながら携帯を開く。

「志津希…」

つい五分ほど前に着信があったようだ。奈津希はそのまま発信ボタンを押した。

『もしもし?ごめんね、寝てたでしょ?』

「大丈夫、熱引いた?」

今回はあまり酷くならなかったらしい。志津希の声は辛そうではなかった。きっと葉津希も大丈夫だろう。

『うん、一日寝たら引いたよ。』

「そっか俺もだよ。…葉津希は?」

恐る恐る聞いてみる。志津希のことだ葉津希にも連絡しているだろう。葉津希はちゃんと学校を休んだんだろうか。そもそも志津希にはなにか相談していないのか。奈津希には分からないことが多すぎた。

『それは、自分で聞いてみたら?』

いたずらっぽい志津希の声が少し心を軽くした。ふっと奈津希は肩の力を抜いて笑う。

「無理だから聞いてるんでしょー」

『冗談、冗談。朝無理矢理学校行って早退したみたいだけど今は大丈夫そうだよ。』

やっぱり…。奈津希は心の中でため息をついた。葉津希は体調がいくら悪くてもあまり学校を休みたがらない。奈津希と志津希が風邪をひいて自分も絶対に無理をしているのに葉津希が登校することはしばしばあった。でも結局昼に早退してくる。学校に通うことに葉津希は意地を張っているように奈津希は感じていた。だからこそあんなことが葉津希の口から出るなんて思ってもいなかったのだ。

「葉津希、なにか言ってた?」

『んー…様子が変なのは確かだよ。』

葉津希の変化に一番近くにいた奈津希が気付けなかったのが悔しい。毎日顔を合わせていたのになにもわかってあげられなかった。志津希がそばにいないぶん自分が支えてあげなければいけなかったのだと奈津希は自分を責めていた。わからないことが怖い。今まで兄弟の知らないことなんかなかった。

『…なぁちゃん』

「ん?」

『今は少しだけ離れる時期なんじゃないかな。』

離れる時期。志津希の言葉がやけに刺さった。心臓を突き刺してじわじわ痛みを与えていく。いつか離れるのは覚悟していた。いつまでも一緒なんて無理だ。志津希が離れてから今まで以上に気付かざるおえなかった。

「そ、なのかな。やっぱり…」

『なぁちゃん?』

「、ごめっ切るね!」

『ちょ、なぁちゃ』

ブツッと奈津希は電話を切った。もうなにも考えられなくなっていた。これ以上志津希と話していたらあのときみたいに勢いで志津希を傷つけてしまいそうだった。胸がざわざわと騒めく。うるさい…うるさいっ!奈津希は心の中で何度も叫ぶ。頭からすっぽり布団を被って目をぎゅっと閉じた。兄らしくない自分に心底嫌になる。いつも奈津希は一歩後ろを歩いていた。その距離は歳を増すごとに長くなって今はもうふたりの背中が見えているのかもわからない。奈津希はいつも置いてけぼりだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 【花言葉】 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです! 【異世界短編】単発ネタ殴り書き随時掲載。 ◻︎お付きくんは反社ボスから逃げ出したい!:お馬鹿主人公くんと傲慢ボス

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...