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しおりを挟む奈津希は布団の中でただじっとしていた。
「奈津?おい、どうした」
春の声がくぐもって聞こえた。そっと布団がめくられて奈津希は春を見た。数秒間目が合う。泣くのだけは嫌でグッとこらえようとした。
「どうした?体、まだ辛いか?」
ゆっくりとした優しい口調。奈津希の頭を優しく撫でる手。春の全てが優しい。奈津希は首を横に振った。
「そうか、ほら起きろ。」
春は奈津希の手を掴んで引っ張った。体がふわっと持ち上がってふたりの額がこつんと重なる。奈津希はなにがなんだかわからなかった。春との距離はもうゼロに近い。心臓が痛い。
「ん、もう熱ないな。」
そう言って春は奈津希の頬を手で包み込んだ。奈津希はされるがままだった。
「俺には甘えろ。な?俺は奈津のそばにいるから。」
不安な気持ちがどっと押し寄せる。奈津希は春の服をぎゅっと掴んだ。春はずっと奈津希を見ている。奈津希が話すのを待っていた。
「…葉津希が考えてることも志津希が俺たちから離れたことも、なにもわからない。、だって今までずっと…っ、ごめ、…」
とうとう涙が溢れ始める。志津希も葉津希もなにも悪くないのだ。ただ独りぼっちにされてしまうかもしれない恐怖が奈津希には耐えられない。
「お前たちは特殊すぎるんだよ。」
奈津希の目から溢れた涙をすくいながら春は少し困ったように笑ってそう言った。
「特殊…?」
「そう。特殊だ。なんでもかんでも共有する。風邪も不安な気持ちも。そうだろ?」
奈津希は春の問いかけに小さく頷いた。春は奈津希を諭すように続ける。
「自分以外の気持ちはわからなくて当然なんだよ。お前は俺がいつなにを考えてるかはわからない。逆もそう。みんな相手の気持ちがわからないから相手に話す。お前らはそれが言わなくても今までなんでも通じ合ってたってだけだ。」
春の言葉はすっと胸に入ってきて奈津希の不安が少しだけ溶けていく。優しい手はずっと奈津希の頭を撫で続けていた。
「ちゃんと話せば葉津の気持ちも分かる。あいつは伝えるのがあんまり得意じゃねぇから突っ走って空回りしてる。だから奈津が心配して抱え込まなくてもいいんだ。」
涙が止まらない。だけど奈津希は無理に抑え込もうとはしなかった。春には抑えなくても大丈夫だと奈津希はやっと理解したのだ。
「志津のことも。志津が選んだことだ。応援しようって俺たちは決めた。それに志津は奈津から離れたくて寮を選んだわけじゃない、そうだろ?」
奈津希はただ声を出さずに頷く。志津希が出て行く日一番不安なのは志津希だから自分たちはちゃんと背中を押してあげようと言ったのは春だった。志津希が寮に入ることを心配はしていたけど春はそれをきちんと受け止めていた。奈津希はそれをまだ少しだけそれを受け止めきれていないのだ。
「大丈夫、俺は奈津希のそばにいるから。」
「あ、りがとっ…」
春は笑いながら奈津希の頭をわしゃわしゃ撫でる。春のそばにいれば奈津希はなんでも乗り越えられる気がした。
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