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しおりを挟む色鮮やかな料理がテーブルに並ぶ。どれもキラキラしていて奈津希が普段作る家庭的な料理とは全く違って見えた。静かにかかる音楽もいい。フランス料理のコースみたいに堅苦しさはなく、程よいラフさが居心地の良さをさらに増加させていた。なかなか予約も取れない人気店の理由がよくわかる。
「あぁ…幸せ…」
奈津希は思わず口から至福をもらした。
「ははっ、よかったな」
吹き出した春が奈津希の頭を撫でた。美味しい料理も綺麗な海も春がいるから幸せだと感じられる。奈津希は春に笑いかけた。少しでも奈津希の気持ちが伝わればいい。そう思う。奈津希はタコのマリネを口に放り込んだ。程よい酸味が口に広がる。やっぱり奈津希の料理よりもよっぽど美味しい。
「失礼します。お水はいかがですか?」
水の入ったボトルを持って店員が近づいてきた。奈津希は自分のグラスを持って顔を上げる。
「え、」
目が合う。大きな目をさらに見開いて店員は奈津希を見つめていた。驚いたという表情を顔に貼り付けて。
「あの、なにか?」
「い、いえっ!申し訳ございません。」
声をかけた奈津希に慌てて店員はグラスに水を注いだ。春は不思議そうにこちらを見ている。店員は春のグラスにも水を注いで逃げるように隣のテーブルに移っていった。
「知り合いか?」
「なわけないじゃん。」
「だよなぁ。志津か葉津の知り合い?」
奈津希は春に頷いた。多分そうだ。駅前なんかを歩いていると志津希や葉津希の名前でたまに声をかけられたりする。でも一番厄介なのは河嶋と苗字で呼ばれることだ。相手は奈津希じゃないつもりで声をかけていてでも奈津希は自分の知り合いかどうかはわからない。なんとも変な空気になる。
「似すぎるのも苦労するな。」
「高校上がってからはましになったよ。」
別々になってからは間違われることもなくなった。制服は偉大だ。中学までは同じ制服で見分けがつかないと言われた。別々の制服を着るようになってからは顔を見て一瞬固まってでもこちら側から話しかけなければスルーされるようになった。
「春くんは見分けるよね。なんかあるの?特徴とか。」
春にあのふたりと間違われたことはない。絶対に奈津希には奈津希と呼ぶ。
「ぜんぜん違うぞ。一緒にいればわかる。何年お前ら見てると思ってるんだよ。」
勝ち誇ったように春が笑った。たまに奈津希は自分がわからなくなるときがある。だから春にきちんと名前を呼んでもらってやっと奈津希は奈津希になるような気がしていた。春だけは奈津希をちゃんと見てくれている。
「案外適当だったりして。」
「奈津は捻くれてるからすぐわかる。」
「な、捻くれてないよ!」
ふざけ合って笑い合う。奈津希は心の底から幸せだった。
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