君に恋を

河嶋 亜津希

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「あー美味しかった。」

奈津希は満足気に微笑んだ。機会があれば是非とももう一回来たい。そんなことを考えていた。

「満足したようでなにより。」

奈津希に続いて店を出た春が奈津希の頭をぽんぽんと撫でた。奈津希は春に頷く。ふたりで肩を並べて春のバイクに向かってゆっくり歩き出した。もう日は沈んでしまっていた。

「寒くないか?」

「うん、大丈夫。春くん心配しすぎ。」

春はいつも以上に奈津希の体調に敏感になっている。寒くないかと今日だけで何回も聞かれた。

「志津に怒られそうで怖いんだよ。あいつ切れるとやばいだろ?」

「電話の話?いったいなんて言われて脅されたの、」

春の家に転がり込んだあの日の電話。奈津希は寝かけてしまっていてあまり記憶がないけど春は志津希に相当念を押されたらしかった。

「なぁちゃんをよろしくって一言だけでも志津が言うと凄みがありすぎる。」

「志津希は心配性だからね」

「ま、俺も人のこと言えないな…奈津、こっち。」

春が唐突に奈津希の腕を引っ張った。春のバイクとは反対方向。ぽつぽつと街灯が照らす階段を春に手を引かれて登っていく。

「春くん?」

「いいから来い。辛くなったら言えよ。」

春に掴まれた腕が熱い。淡々と階段を上る春に奈津希はただついていった。後ろから波の音が聞こえる。それ以外はなにもない。なんだか心地よかった。

「ほら、」

「、え…すごいっ」

奈津希は思わず息を飲んだ。階段を上りきると目の前には夜の街が広がっていた。きらきらと輝いて別世界を上から見下ろしているようだった。

「綺麗…」

そう呟くと口から白い息がほわっと出る。

「ちょっと寒すぎか?」

奈津希は春に首を横に振った。少し高台になっていて風が下よりも強い。だけどそんなことは気にならなかった。

「少しは元気でたか?」

「え?」

「葉津と喧嘩してお前ちょっと不安定だったから。」

奈津希の胸がじんわり暖かくなる。奈津希の頭を優しく撫でる春が奈津希を見て笑った。少し泣きそうになる。気分が沈んでいる奈津希を元気付けようとしてくれていたのはわかっている。風邪をひいて情緒が不安定だったときもなにも言わず受け止めてくれた。

「ありがとう、もう大丈夫だよ。」

奈津希は春に笑いかけた。もう大丈夫。春のそばにいれるならそれで良かった。

「奈津、手貸せ」

そう言って春は奈津希の手を取った。心臓がどきんと脈を打つ。奈津希は黙って春に任せた。

「お前手冷たいからやるよ。」

春のポケットからおもむろに出てきた手袋を春は奈津希の手につける。悴んだ手が温もりに包まれる。奈津希は目を見開いた。

「いいの?」

「ちょっと早いけどクリスマスプレゼントな。よし、もう寒いから帰るぞ。」

春からの奈津希だけのプレゼント。奈津希は舞い上がって春に抱きつきたい気分だった。奈津希だけの特別。奈津希は手袋を抱きしめるようにぎゅっと胸に手を当てた。
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